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三話 魔王の俺、人生初の魔法

「え!? どういうこと!? いや此処どこ!? アセロンじゃない!? ダイブしたんじゃないの俺!?」


 目の前に広がる野原を見て、思わず声を上げてしまった。

 反射的に後ろを振り返る。そこには俺が設定して作り上げた竜を模した漆黒の巨大な城が聳え立っていた。

 周りの景色が俺が予想していたアセロンとは異なっていたから驚いたが、ちゃんと俺達はこの城から転移できていたらしい。

 すなわち、ここがこの城の外であるということだ。


「アスモっ、どういうことだこれは!? 俺が設定して創っていたはずのアセロンとは景色が全然予想と反しているんだがっ!」

「も、申し訳ございませんノマ様……! 私にも何が何やらっ……」


 アスモが慌てた様子で俺に頭を下げる。

 その姿を見て、一度冷静にならねばと気持ちを落ち着かせる。

 ふぅー……落ち着け落ち着け。慌てても仕方ない。アスモに確認しなきゃいけないことがあるんだ、それを聞かなければ……。


「頭を上げていい。それよりも、だ。……お前達がこれまで過ごしてきたダイブ界、すなわちアセロンの城の外の様子はどんな場所だったか教えてくれないか?」

「は、はいっ。この城が世界の中心にあり、それ以外は何もない世界でした。空は赤く染まっており、地面も黒い大地で……この様な夜空、野原ではありませんでした」

「ふむ……」


 アスモから聞く特徴は、やはり俺の設定したアセロンの世界と同じもの。つい先ほどまで頭の中で予想してた一番高い可能性である『ダイブ界が俺の設定とは、別の形として生み出されていた』という可能性が潰れたわけだ。

 まぁ、冷静に考えると、アセロンの世界や城を管理するメイド長であるアスモがびっくりしていたわけだし、普段のアセロンとは別の景色だったのだろうことは想像できるじゃん。いやいやでも、ちゃんと確認しておかなきゃだめだし?万が一ってこともあるし?


 ……しかしそうなると、俺がノマの体に入り込むことができたり、アスモをはっきりと知覚できる様になったのはダイブしたからではない……ということになる。

 ダイブではない別の可能性。

 俺はなんとなく、その可能性について心当たりがあった。というか心の何処かで願っていた。


「アスモ。今見たこの光景で、此処がアセロンではないことがわかった。俺が此処にいるのは、お前をはっきり知覚できるのは、ダイブが成功したからじゃない」

「と、言いますと?」


 俺が思い付いた可能性。

 それ即ちーー異世界転移、である。

 俺がリアルでハマっていた異世界系作品によく出てきた【自分の作ったキャラ、ゲームキャラの姿で転移、転生した】という事が今回起きたと俺は確信した!

 つまり……ノマ・アークに俺自身がなってしまったのだ!

 いつかこんなシチュエーションが来ないかなぁ!と妄想していた。

 だからこそ、この可能性が思い付いた。

 漫画やアニメなどでも異世界系は死んで転生、ゲームをしてたら別世界に来てしまっていた、というパターンが多い。まさしく今回、俺が体験した事、目の前に広がる未知の景色、それが何よりの証拠なのだ!

 

「俺達は別の世界に城ごと転移してしまったかもしれない、アスモ」

「転移、ですか……? なら、ノマ様がリアルのお姿ではなく、ノマ様の格好をしていらっしゃるのも……」

「ぁあ。これはおそらく、俺がノマ自身になっているからだと思う。異世界転移系では、自分のゲームのアバターやキャラクター自身に主人公達がなってしまっていたパターンが多い。お前もリアルで俺がよくそういう作品を語っていたからわかるだろう?」

「はい。異世界転移の作品は把握しています。……しかし、それがまさか現実になるとは思いもよりませんでした」

「俺も同じ気持ちだ」


 だが、自分が今置かれている状況が、異世界転移だとわかった今、すごく心が躍る。

 何故自分がそうなったか、という不安や疑問も僅かながら心に存在しているが、それよりも喜び、ウキウキ感が勝った。

 ずっと夢にまでみていた、日々妄想していた事が現実になった、なんていう直面に晒されているのだ!ワクワクな気持ちを抑えられようか!いや、抑えられないと断言できる!

 全てのオタク達の夢を今俺はまさに叶えたと言っても過言ではない!しかも自分が作ったオリキャラ達と共にだぞ!?最高じゃねえか!

 この確信をさらに形とするため、俺は右腕を空に掲げた。そう!魔法を放つのだ!ノマになっているのなら、これまで考えてきた多くの魔法や能力が使用可能になっているはずなんだ!


「アスモが転移魔法を使えていたんだ! なら、俺にもきっと使えるはず!」


 俺が設定していた魔法の使い方。

 頭の中でどんな魔法になるのか、どんな風に発動するのかをイメージするだけ。

 必要なのは魔力とイメージだけであり、口に出す必要はないのだが、それでも出した方がかっこいいので基本的には口に出す様に設定していた。     


「見ておけ、アスモ! そして降り立った異世界よ! これがーー魔王の初魔法である!」

「はっ」


 一番最初に放つ魔法は異世界に行きたいと妄想していた昔から決めていた。

 ぁあ、身体中から興奮が湧き上がる。同時にもし使えなかったらどうしようかという恐怖もある。

 落ち着け。アスモが転移を使えたのを俺は見た。だから俺も使えるはずだ!落ち着いていけ!自信を持て俺!

 俺は空を見上げ、イメージする。

 自分の内なる魔力を凝縮し、それを右腕へと集中させる!


破滅黒炎(ルインフェルノ)!」


 かっこよくそう叫ぶと、右手から黒い巨大な炎の塊がボォ!と音を立てて出現し、大気を震わせながら空へと放たれた。


 破滅(ルイン)。あらゆるものを滅ぼす効果を持つ能力。破滅(ルイン)と詠唱、もしくは心の中で唱えるだけで、対象を消滅させる効果を持つ俺の考えた最強の能力の一つである。

 魔炎(インフェルノ)。これは名前の通り、魔属性の紫の色をした炎を生み出し放つという魔法だ。

 先程放った魔法ーー破滅黒炎(ルインフェルノ)は、この能力と魔法を組み合わせた極大魔法であり、見た目は漆黒と紫色が混ざり合った炎である。

 この炎には特殊な効果が施されており、破滅(ルイン)の能力を使う事で、この炎に放たれた【あらゆる魔法の効果を滅ぼす】という絶対に消えない特殊な炎と化す。

 つまり、対象を焼き焦がすまで燃え尽きないという初見殺しすぎる性能を持つ。この炎を消すには、俺の能力である破滅(ルイン)を放つか、破滅(ルイン)と組み合わせた魔法を放ち、相殺する必要がある。


「ぉ、おおおっ! 見たかアスモ! お、おお、俺っ! 魔法を今使ったぞ! 初めての魔法だ!本当に使えた! 本当に異世界にきたんだ! やったぁ!」

「お見事です、ノマ様。流石は我らの創造主。その威力、その精度、その速度。初めての魔法とは思えません」


 アスモが微笑みながら称賛してくる。

 そりゃあ今の俺は魔王だし?これくらい出来て当然であるが!日頃から魔法を放つイメージや妄想してたし、厨二バトルごっこもタルパ達とやってたのがここに来て活かされるとは!

 本当に異世界にきて、俺魔法使っちゃったよぉぉおおお!

 空を見上げ、先程放たれた炎の光景を思い出しながら、改めて魔法が撃てた喜びに身を震わせる。そしてーー

 

「ついにっ……ついに異世界来たぞぉ! 俺えええええ!! 夢を叶えたんだ! しゃぁぁああああ!」


 魔法が使え、ノマの姿になり、アスモ達とこうして会話し、触れ合える。

 俺が中学の頃から願ってきた本当の夢が叶った喜びを、俺は降り立ったこの世界へ、両手を空に上げ、腹の底から思いっきり叫んだ。


「この度は異世界転移、おめでとうございます。我らが主、ノマ・アーク様。このメイド長アスモ・デウス・アーク。ノマ様の原初のタルパとして、あの頃よりノマ様が願われていた、異世界転移という夢の達成。自分の様に心から喜び、魂からお祝い申し上げます」


 アスモがその場に平伏し、祝いの言葉を述べる。


「姿勢を戻してアスモ。異世界に来たのであれば、やりたい事はたくさんある……が、まず最初にやるべき事がある。それはこの事態を皆に知らせる事だな」

「はっ!そうなると……」

「まずは四魔将を玉座の間へと招集せよ。我が最高の配下達にこの事態を伝え、そこから皆へ伝えてもらおうと思う」

「承りました、ノマ様」


 アスモが立ち上がり、瞳を閉じる。

 おそらく、四魔将全員に念話を通し、俺の命令を伝えているのだろう。


「全員に御身のご命令を伝え終わりました」

「うむ。ならば、俺たちも行くとしよう。玉座の間へ!」


 バサァっとかっこよく禍々しい紫のマントを翻し、城へと向き直した。アスモもそれを見て、俺のそばへと近寄る。

 頭の中で玉座の間のイメージを行い、破滅黒炎(ルインフェルノ)を発動した時のように魔力を全身へと溜めて、言葉を紡ぎ出す。


「行くぞーーー転移っ!」

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