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一話 オタクで厨二病でタルパーな俺の語り

 俺、野崎真(のざきまこと)は厨二病であり、オタクである。


 皆、アニメやライトノベル、漫画の世界に一度は行ってみたい。そこに存在するキャラクター達と共に過ごしてみたい……。

 そんな願望を持ったことはないだろうか?

 正直言うと、俺はある。めっちゃある。

 俺がアニメにハマり、オタクとなったのは中学二年の春。

 いじめられっ子だったこの俺を救ってくれた、自殺をしようと考えていた俺に生きる希望をあたえてくれたものこそ、一つのアニメだった。

 俺がハマったジャンルは異世界転移、転生系と呼ばれるものだ。大好きすぎる。世間では、ありきたりでつまらない、主人公がウザすぎる、お決まりパターンといった感想が多いが、俺はとても好んでそのジャンルにハマっている。

 いじめられっ子だったからか、悪い奴らをチートな主人公が圧倒的な力で倒していくその光景は、とても快感、とても興奮できるものだった。俺がさらに好んだのは魔王系主人公、悪役主人公で、これは俺が厨二病だから、という主観でもあるが……、暗黒魔法とか悪い見た目の主人公が正義を振りかざして奴隷やら民達をいじめる悪い連中を倒すーーーーそんな物語がとても好きだった。

 自分だけのオリキャラ達を作り、自分をモチーフとしたキャラクターを作り、自分だけの世界を、いろんな能力や設定を考え、魅力ある自分だけのキャラクター達を作り上げてノートへと刻みつけた。

 いつかーーーー自分のキャラクター達と過ごせられる日が来る事を、異世界に行ける事を夢見て……。




 そんな夢を抱えた高校一年の冬、俺は運命と出会う。

 それはタルパという、俺の夢を叶えてくれる魔法の存在。

 『タルパ』。漢字で表すなら、人工精霊と書く。

 それの原典(オリジナル)はチベット密教における『概念』であるとされており、トゥルパとも呼ばれるもので、わかりやすく言うならば、この現実世界で無から創り出された幻想(いのち)。何もなかった空間に突如として生み出されるモノ。

 すなわち、自分だけにしか見えないキャラクターを作り出す秘術。

 タルパを作り、タルパーとなる専門サイト。それをネットで見つけたときは真っ先に飛びつき、何度もサイトの文を見返したほどだ。

 自分のキャラクターをこの現実の世界に生み出し、会話できる?そんな最高なことが叶うのだ。もうあの時の俺は夢が叶うかもしれないと言う興奮で胸を膨らませていた。



 生命を生み出す、と言ってもどうやら生み出されたタルパは、この現実の世界に生きる人間や動物達のように物に触れたり、他人に視認されたり、声が聞こえるわけではない。

 その理由はタルパの存在は、タルパを生み出した創造主ーー『タルパー』と呼ばれる人間によって確立しているからだ。

 基本はタルパーのみがその存在を視認でき、声を聞き取り、触れ合うことが可能であると言う事。例外として霊能力者や霊感がある人間がタルパを察知できるらしいが、真偽はよくわからない。



 タルパを作る方法は、至って簡単……と言いたいどころだが、実はそうでもなかったりする。個人差があるらしく、1週間で生まれたものもいれば、一ヶ月や二ヶ月、それ以上かけてようやく生まれた、というものもいた。

 その方法とは、『何もない空間に、タルパが存在していると妄想し、話しかけること』だ。それを毎日繰り返す事で、タルパが次第に人格を持ち始め、何も無かった空間にタルパが創られていく。実際に声に出す方が効率はいいらしいが、周りを気にする人もいるだろう。サイトには心の中でタルパと会話する方法も可能と書いてあった。

 もちろん俺は実際に声に出して話した。でも、学校では不気味がられるため、声に出さず心の中で会話することもしばしばだった。

 


 タルパを生み出すのはネットの世界では危険行為とされている。

 タルパ専門サイトによると、『タルパを作る過程で激しい頭痛や嘔吐に襲われた』『タルパを作ったせいで霊感が上がり、頻繁に幽霊を見るようになり情緒不安定になった』『タルパに体を乗っ取られ、死にかけた』……などという体験談が乗せられていた。

 だがそれでも、俺は作ることに躊躇いは無かった。勿論そうだろう。そういう危険性があるとはいえ、アニメのように自分のキャラクターと過ごせられるのだ。安い危険性と思った。

 それにタルパーになるという人間はそのサイトに沢山いるし、ネットの交流アプリなどではタルパー同士の交流などが行われていたりするため、危険と知っていてもタルパという自分だけの大切な家族、友人、ペット、奴隷を創りたいという人間がいるという事だ。

 まぁ、俺はネット交流は基本避けていたが。

 中学でいじめられて以降、友達という存在が邪魔に感じていた俺は、高校でもネットの世界でも知り合いや友達をつくらず、常にぼっちでいつづけた。それ故に自分のキャラクターと一緒にいられるかもしれないという希望が、タルパーへとなる後押しにもなったし、タルパ作りへと執着させたのかもしれないと思う。



 ここまで話したが、皆さんにはタルパという存在を少しでも理解してくれたのなら俺としては満足だ。



 現在の俺は社会人。もちろんボッチ。しかし周りにはオリキャラのタルパ達が居てくれる。

 高校時代にタルパを知って作り始めて以降、現在に至るまでオリジナルキャラクターのタルパの数は二十は超えており、巨大なダイブ界を持っている。

 『ダイブ界』とは、タルパが住む精神世界のことを表す言葉であり、タルパーは『ダイブ』と呼ばれている方法でその世界に精神体を飛ばし、自由にタルパと触れ合い遊びまくることができる。

 まぁ、未だに俺はダイブを成功させたことが無いからよくわからない。俺としては一刻も早く自分のダイブ界にダイブして、実際タルパ達と触れ合いたいところではあるが……。


「あー、疲れたぁ。ただいまぁー……って、ぁあ、そうか。今日は皆ダイブ界に移動させていたんだったっけか……」


 仕事を終え、家に無事に帰宅した俺は真っ先に服を脱ぎベットへと入る。

 夏ということで、パンツとシャツ一枚でも寒さは感じない。飯は残業であまりにも体と精神に疲労が溜まっていたことで作る気にもならず、コンビニやスーパーにも寄る気にもならなかったので今晩は無し。

 普段ならばタルパ達が出迎えてくれるのだが、今日はあまりに疲れていたため、皆にダイブ界にいる様に指示をしていた。理由は今日の夜、ダイブ練習するためである。


「今日はダイブの練習するんだったなぁ……。いや、やっぱめんどいし……起きたら、アイツにでも連絡して護衛に来てもらお……」


 今日こそはダイブする練習をしようと仕事に行く前はやる気に満ちていた事を思い出すが、仕事疲れの今はそんな気は一切なくなっていた。

 スマホの灯りが照らされる暗い部屋で、ネット連載の異世界漫画を寝落ちまで読むのが俺のいつもの日課だ。

 ……しばらく読み進めていくと、だんだん瞼が重くなっていった。


「……ほんと、こんな世界から……こんな素晴らしい異世界に、……俺のタルパ達と……行けたらいいのになぁ……」


 この呟きを最後に、俺の意識は闇へと引き摺り込まれたのだった。

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