7話 『来園』 (2021年7月19日)
ピーンポーン。ピンピンピーンポーン。ピーンポーン。
いつものように、チャイムが五月蠅い。
こんなチャイムを鳴らすのは、一組しか想像できない……
「やばっ! しくった!」
昨日の夜……実際は今日になるが、デッキを構築するのに時間が掛かりすぎた。
風呂に入った記憶まではあるが、その後はぐったりだった。寝過ごすのも当然だろう。
この状況が想像できたので早く起きようと思っていたがこの有様だ。
謎イベントですら断れていないのに、今日に限ってあの兄妹を説得できる自信が無い。
「仕方ない。行くか、学校」
なんせ、今日は月曜日。平日だ。夏休み直前とは言え授業はある。
寝巻代わりにしていたTシャツを着替えて、壁に掛けている制服に手を伸ばす。
ピーンポーン。ピンピンピーンポーン。ピーンポーン。
「おや?」
いつもならチャイムではなく、すぐに階段を駆け上がる小動物の足音があるっていうのに一向に来ないな。
爺さん散歩でもしてるのか? たまに忽然といなくなるんだよな。
とりあえず着替えるのは後にして部屋を出る。
階段を下りた後、一応居間に顔を覗かせて声を掛ける。
「爺さーん? ……いないな」
まぁいい、そもそも来客対応が爺さんの仕事というわけでもない。玄関に向かう。
ガチャ。
鍵を開け、玄関の扉を開ける。しかしあるのは、朝から本気の熱気だけだった。
……いないな。
留守と判断して先に行ったのだろうが判断が早すぎる。
もう少し待っていてくれてもいいだろうに。
「どうするか……」
少し悩むが直ぐに決断する。よしっ。サボろう!
爺さんを誤魔化す必要もなくなっているし丁度良い。
着替えるために階段を上り部屋に戻る。
自然と先ほど着替えようとした制服が目に入るが、少し悩んだ後ジーンズを取り履き替える。
移動時は制服の方が紛れるかと思ったが、日中になると違和感がでるだろう。
着替え終わってデバイスに手を伸ばしたところで、ふと隣に置いてあるシンプルな形状のアミュレットが目に入った。
……スズ。
これは、スズがいつもお守りとして身に着けていたものだ。
目の前で未帰還者となったあの日から持っていたが、返せる可能性があるとは思っていなかった。
アミュレットを首から掛け、デバイスを鞄に詰める。
さて、これで準備万端だ。行こうダンジョンへ。
家を出る際、なんとなく思い当たって爺さんの部屋を覗いてみた。
……寝てんじゃん。爺さん。
◇ ◇ ◇
自転車から降り、広がる光景を見に収める。
関係者以外立ち入り禁止の看板とゲート、その奥の建物の入り口付近に浮かぶ薄灰色の板。
今にして考えてみると、デバイスと同じものだろう。つまるところ、あれがダンジョンだ。
雰囲気の異常さに流石に緊張感が高まっていくが、ふと後ろのファンシーな建物に目が向くと一気に気が抜けた。
とはいえ、気分は落ち着いたが、これからの行動を考えると溜息がでてくる。
「子供をいじめる趣味はないんだけどな」
少し寂れているが、見た目だけでなんの建物かは簡単にわかる。
そもそも、建物の壁に大きく書いてある。
そう、ここは低級難易度ダンジョン『颯川大学附属みどり幼稚園ダンジョン』だ。