2話 『歴史』
世界滅亡。
冗談ではなくそのニュースは瞬く間に全世界に衝撃をもたらした。
核戦争でもなく、パンデミックでもなく、環境汚染でもなく、突然人類及び全生命に降ってわいた脅威は人災とは無縁の完全な物理的な脅威だった。
超巨大隕石。もはや小惑星といってもいい規模の隕石の接近が突然発表された。
本来、そのような危険性のある天体は常に監視されており、事前に脅威レベルが判明されるものだ。
ただ、その隕石がなかなか発見されなかったのはただ単純に一つの事象が原因だった。
太陽方向からの隕石である。普段天体の観測は夜に行われるため太陽方向は死角になりやすい。
昼でのみ観測が可能だからだ。
過去にも同様の事例でニアミスをしたことがあったが今回は完全な直撃コースだった。
かすっただけでも滅亡が確定しており、対処は不可能であることはすぐに判明した。
世界では恐慌が起き、暴動も起きたが、意外と破綻はしなかった。
どうしようもなかったためだ。対策も退避も無理と判ると人々は諦めるしかなかった。
案外普段通りに生活する者が大多数を占め、その時をただただ待つようになった。
そして、滅亡の日。世界はバグで救われた!
そう、バグったのだ。
衝突の衝撃がトリガーになったと主張する者もいるが隕石は突然消滅した。
そして、世界中にモンスターやダンジョンといったファンタジーが出現した。
この段階では、異世界が融合したとの主張が大部分を占めていたが、状況が判明する度、この主張も下火になった。
なんてことはない。突然出現したファンタジーがバグだらけだったためだ。
モンスターは、雑魚っぽいモンスターが強すぎる、逆に魔王っぽいモンスターが弱すぎるなんて可愛い方で、自重で圧死するモンスター、溺死する魚系モンスター等なんの意味があるか判らないモンスターもいたし、そもそも全体的に斜めにずれていたり、上半身や頭が反転していたり腕だけ体から離れて空中にある等、見た目からしてバグっていた。
レベルやスキルなんかも発生したが、出現したステータスボード上の文字化けや異常値などは当たり前であり、そもそも有名なステータスボードバグなんてのも発生していた。
ダンジョン自体も入ることができないダンジョンが大部分だったし、入ることができても構造はめちゃくちゃで攻略以前の状態だった。
その他にもバグは色々あるが、人々の間ではこの世界自体が壊れたのだと理解していった。
この初期のバグ発生時期をα時代と呼ぶが、その後の調査でバグは解決可能だと判明した。
バグを突き詰めるとバグは斜め上の方向で改善するのである。
誰が修正しているのかは不明で修正している何者かを神として崇める者もいるが、少なくとも、バグを解決したきっかけを作った人はαデバッガーと呼ばれ憧れの的になった。
致命的なバグが解決し、問題があるバグの解決時期をβ時代と呼ぶ。
この時代のデバッガーはβデバッガーと呼ぶ。
ただし、αの終了も20年程前、βの終了も数年前の過去の話である。
レベルやスキルなんてメリットの方が多いチート能力もバグとして凡そ消失し、現在残すバグはダンジョンの存在のみになっている。
現在をγ時代と呼ぶ人もいるが、バグがほぼダンジョンだけであることより、ダンジョン専用のデバッガーはダンジョンデバッガーと呼ばれている。通称DDである。
ダンジョンは現在特殊な方法でデバッグが進んでいる。