27話 『確認』
「苗字が同じなんだから、もう少し早く気づけたんじゃないか? ほら、珍しいだろ? 小瀬川って」
結局、確認したところアズサが探している友達とは、スズのことで間違いなかった。
それなりの時間一緒に同じ目標で活動していたのに、今更気づくなんて笑い話だ。
「それはナギが変な事を言うからじゃない? βより前の事故だって」
それこそ謎だ。アズサを疑うわけではないが、そのまま信じるなら事故の後もスズは普通に生活していたことになる。
「いや、間違ってないよ。βの終了は3年程前だろ? スズの事故は5年程前だよ」
「え? βの終了はその5年程前でしょ? その頃からモンスターがいなくなっていったんだし」
「……え?」
何か、根本的にずれている気がする。
確かに5年程前からモンスターが減っていったのは事実だ。
今まで半永久的に湧き出していたモンスターが、リスボーンしなくなったのが5年程前だ。
そこからβデバッガーが魔石を使用したデバッグで減らしていき、ダンジョン以外からモンスターが完全にいなくなったのが3年程前になる。
これに伴って魔石も消滅したが、この際にダンジョンの構造が大きく変化し、現在のダンジョンデバッグの形式になったと聞いている。
変化したダンジョンは安定しており、脅威が格段に減ったため、これでβが終了のはずだ。
「そんなわけ……やめた。よくわからなくなったから調べよう」
「……そうね」
自分の常識で意見をぶつけようとしたが、平行線になりそうに思えたので、無駄な衝突は避けて無難な方向に舵を切ることにした。
今の時代には文明の利器がある。
丁度手元にパソコンがあるので起動させる。
直ぐに画面が映りだすと、OSの標準的なブラウザを起動し、『βの終了』と打ち込む。
「ん、でたな。えっと――」
「βの終了は、正確にはβ1とβ2に分かれており、一般的にはβ1の方をβの終了と呼ばれているが、協会ではβ2の方をβの終了と呼んでおり――どっちも間違いではなかったみたいね」
いつの間にか近くに来ていたアズサが肩口から顔を覗かせ、表示された画面の文章を読んでいた。……顔が近いので緊張する。
また、正確にはβ1は、2016年1月15日、β2は2018年11月3日とのことだ。
スズの事故も1月中旬で冬休みが終わる直前だったのでβ1の日付と一致している。
「確かに、デバッグの話は主に母さんから聞いた内容だったから……俺の方が一般的ではなかったみたいだな」
「む? そっか、スズのお兄さんってことは、ご両親もαデバッガーの……」
「それも気づいてなかったんだね」
正直、俺については苗字が珍しいこともあり、名前を聞くとだいたいの人は両親のことに気づく。
子供の頃は煩わしさを感じ、上手く溶け込んでいる彼らを羨ましく感じたこともあったが、最近は慣れたもので特に感情を揺さぶられることもない。
逆にアズサのようなパターンを聞くと新鮮で面白さすら感じてくる。
ちなみにサイトの続きを見ると、協会ではβ2の後をγと呼んでいたが、一般的にはβ1の後のデバッグはダンジョンが主流になっていった状況を見て、ダンジョンデバッグと言う言葉が使われたらしい。
協会が作ったγデバッグという言葉は、先に使用されていたダンジョンデバッグという言葉に淘汰されていったようだ。
「あ、そうそう、そのネックレスのことなんだけど……あれ? アミュレット、だっけ? なにが違うのよ?」
アズサはソファーに戻って今度は、首から下げたアミュレットに注目している。
何かアミュレットについて話しかけていたようだが、アミュレットという響きの方が気になったようだ。
確かに俺も最初はネックレスだと思ったし、違いなんかよく判っていなかった。
「アミュレットは護符だね。お守り? ネックレスは首から掛けるものを言うから間違いではないけど。ただ、ダンジョン産のアイテムは特殊な『修正パッチ』やスキルで調べると正式名称が判るみたいなんだよ。その名前が確か『封印のアミュレット』だったかな?」
「へー、なるほどね。それで、そのアミュレットなんだけど、装備品はデバイスを使っても詳細が判るみたいよ」
その機能は初耳だ。早速やってみるか。
とりあえずアミュレットを首から外し、なんとなくこんな感じかとデバイスに触れさせてみるとデバイスの画面が変わった。
「あ、表示されたね。あれ? 名前が少し違うな」
《竜人が封印されしアミュレット》
種類:装備
能力:『このアイテムを使用することによって封印された力を発揮する』
曖昧な説明文で効果が不明だが、封印された竜人の力があの攻防一体の一撃だったのだろう。
「そのアミュレットと同じものを兄も持っていたし結構数がある装備なのかしら? ま、それがきっかけでスズと仲良くなったんだけどね」
「母さんも持っていたしね。それも2つも。アズサがスズに話しかけたの?」
比較的おとなしいスズが話しかけたとは思えず、アズサとどうやって仲良くなったのか気になったので聞いてみる。
「それが、最初はスズからなのよ。私が……まぁ、ちょっと色々あって周りから浮いてたんだけど、その境遇がスズと似てたみたい」
アズサはお嬢様だからな。
ちょっと周りからは接しづらかったのだろう。
その点、スズも俺と同じく両親の影響で浮いていただろうから、なるほど納得できる。
「それで話してたら服の間から見覚えがあるネックレスが見えたからどこで買ったのか聞いてみたの。そしたら誕生日プレゼントだっていう話から同じ誕生日だって判ってね。共通点に驚いていたら更にスズもデババトが好きだっていうじゃない。戦ってみるとかなり強いし楽しかったわ」
確かにプレゼントしたのはスズの誕生日だ。
母さんのネックレスとお揃いだと言って喜んでいた。
デババトはよく家でスズと遊んでいたし、実際かなり強かった。
あの頃の実力では俺と互角くらいだった。
「あれ? じゃあアズサの誕生日も近いな。8月22日か」
「そうね。でも、特になにもいらないわよ」
夏休みの最終日だから、このままデバッグをしていたら一緒にいるだろう。
いらないとは言われたが、何か考えておこう。
話の流れでこちらの誕生日も聞かれたので、2月の最終日だと答えておいた。




