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25話 『電話』

 残り少ない山札の中、ようやく相手のメインコアまでやってきた。


「あぁ……なるほど」


 相手のDMの姿を見たことで、これまでの疑問点がおおよそ氷解した。

 まず見た目。どう見ても大人だ。

 幼稚園という場所であったため、園児について意識が向きがちだが、当然園児だけが幼稚園にいるわけではない。

 幼稚園教諭――ようするに先生だ。

 その先生が、部屋の隅で頭を抱えるような状態で震えている。

 例のごとく暗くて表情は見えないが、行動からどんな感情でいるのかは明らかだ。

 《サンダー・ドラゴン》がメインコアに入った瞬間から、後退るように部屋の隅まで移動し今のような状態になった。

 そのような行動をする心理状態といえば一つしか思い当たらない。

 恐怖心。単純に襲ってくるモンスターが怖いのだろう。

 DM自身が攻めてこなかったのはそういう理由だ。


 少女の行動力に比べて大人の行動としてはどうなのかとは思うが、どちらかといえばあの少女の方が特殊な気がしてくる。

 動物の姿とはいえ大型のモンスターに跨っていたし、グロい惨状を見ても泣き出すわけでもなくドン引き程度で収まっていた。


 デッキの構成が虫ばっかりだったのにもなんとなく想像がついた。

 好きだと思える動物を集めるくらいだ。

 逆に虫が嫌いで押し付けられたのだろう。

 あながち間違いではない気がする。


「とりあえず終わりにするか」

 

 この部屋には《ジャイアント・スパイダー》がいるが、特にバグらせる様子もなさそうだ。

 《サンダー・ドラゴン》が攻撃に入ると、《ジャイアント・スパイダー》威嚇するような行動をとるが、抵抗虚しく壁に叩きつけられた。

 《ジャイアント・スパイダー》が地面に溶け込むと同時に、先生の姿も消えていった。


「やれやれ、今日は早く休みたいよ」


 今日の出来事を思い出してみても色々あった。

 深いため息が漏れる。

 落ちていたカードセットを拾い、ゆっくりとダンジョンの出口を潜る。



  ◇  ◇  ◇



 ダンジョンから出ると完全に日が落ちていた。

 スマホを見ると4時間以上が経過している。

 明るいうちに帰れるかもと考えたのも遠い昔のように感じる。

 すると、見ていたスマホの画面が変わり、着信を知らせ始めた。

 画面には「あずさ」の文字が見える。

 そういえば、夜に連絡すると言っていたな。

 メールやメッセージではなく電話なのには驚きだが、先ほどの出来事を話したい気分にもなり通話ボタンを押す。


「もしも――」

『あ、やっと出たわね。ずっと掛けてたのにずっと電波届かないって。あんな出来事があったのにダンジョンに入っていたでしょ』


 完全に図星だ。


「それは、すまない。つい、いつもの習慣で板に触れてしまって……。ただ今回はヤバかった。DMは園児だと思っていたら先生だった」


 口に出してみると先程の危機が回避できたとの実感が湧いてくる。


『ちょっと!? それ大丈夫だったの?』

「なんとかね。危うく負けそうになったけどギリギリなんとかなった――――よ!?」


 話の中で最後に救ってくれたアミュレットを思い出し、感謝の気持ちで胸元に触れた時に驚愕して変な声をあげてしまった。

 

『え? どうしたの? 何かあった?』

「あぁ……いや、多分手札が1枚減った現象の理由が分かったと思う」

『あぁ、それね。こっちも聞いてみたから明日答え合わせしましょ』


 砕け散ったはずのアミュレットが確かにそこにあった。

 つまるところ、消失するのはダンジョンの中だけの現象なのだろう。

 要するにモンスターと同じだ。

 モンスターがやられると地面に溶け込むように消えるが、別にカード自体がなくなるわけではない。

 外から持ち込んだアミュレットがカード化していたと考えるのが自然だ。


 ダンジョンに持ち込みができるのは説明会で聞いた覚えがある。

 『βデバッガー』、『装備』、『修正パッチ』がその対象だろう。

 アミュレットならば『装備』だ。

 『装備』は、ダンジョン入場時に一度没収され、手札で引いた場合に再召喚されるものと思われる。

 再召喚されると首から掛かるのだろうから違和感を感じて当然だ。……むしろ没収された段階で気づいておけという話だ。

 そういえば、最初にダンジョンに入った時は、シャツの()に掛けていたアミュレットが、いつの間にかシャツの()にあったようにも思う。

 再召喚される場合は決まった位置になるのではないだろうか。


「了解。そういえば明日協会に行く予定だったけど、アズサはもう行ったんだよな。そうすると明日はやっぱり園長室で集合かな?」

『それなんだけど、『解放』したことで低級ダンジョンから別のダンジョンに行くように言われたから、別のところ探して申請し直さないといけないのよ。あの子の説明もしたいし、どこに行くかゆっくり相談したいから……明日ナギの家に行くわ。場所教えて』

「え、あぁ。それは問題ないけど」


 急なことで心の中では慌てふためいていたが、とりあえず住所を教えた。

 マップアプリで調べて来るようだ。

 女の子を家に呼ぶの初めてだな。……あ、ユキもいたか。

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