24話 『護符』
貴重なモンスターが蹴散らされていく。
攻撃が先行であれば倒せていた組み合わせも、運が悪く後攻になり蹴散らされた。
だが、最後にギリギリなんとかなるかもしれない。
メインコアの手前まで迫っている《エンシェント・ダンジョンワーム》に対して《紫龍》を進軍させる。
《紫龍》は、地中移動が可能なユニットを即死させる特殊能力がある。
そして、この《紫龍》を手札の《アース・ガーディアン》でバグらせるつもりだ。
《アース・ガーディアン》の特殊能力は、地面の石を鎧化して守備力を+2するものだがこの過程で地中移動の能力がおまけで付く。
これを、あえて《エンシェント・ダンジョンワーム》に使用することで、即死させることができる。
先行か後攻でも問題が無い。
あるとすれば――
「はぁ……。ここで、同時攻撃か。とことんついていないな」
特殊能力を使用する隙もなく《紫龍》が蹴散らされた。
諦めるつもりはなかったが、実際もうチェックメイトだ。
もう1体《紫龍》がいるが現在手札にはない。
次のターンで《エンシェント・ダンジョンワーム》が進軍してくれば終わりだ。
メインコアの部屋まで戻り、最後のあがきとして手札にある《サンダー・ドラゴン》を召喚するが、これは完全にブラフだ。
残りの山札では何を引いても耐えることすらできない。
顔が見えるデババトではスキルを警戒させて攻撃させないような駆け引きも存在するが、最終局面であるし、そもそも相手のDMとは未だ顔すら合わせていない。
恐らくそのまま進軍してくるだろう。
案の定《エンシェント・ダンジョンワーム》の頭が通路の先から顔を見せる。
完全にその巨体の姿を見せると、ゆっくりとその首を大きく持ち上げていく。
最後の意地として、《サンダー・ドラゴン》の影に隠れるでもなく、堂々と自身の身体を《エンシェント・ダンジョンワーム》に晒す。
もうじき蹂躙され、ダンジョンの外にはじき出されるだろう。
当然その際はデバイスが消失していることになる。
ごめんなスズ。
でも、救える可能性があることが判ったんだ。
またなんとかしてデバイスを手に入れてリベンジしよう。
そう決意し、アミュレットをシャツから取り出して握りしめる。
目を背けるでもなく《エンシェント・ダンジョンワーム》を睨みつける。
スローモーションのようにその巨体が近づいてくるのが判る。
5m……3m……1mと近づくにつれ無数にある歯を持つ口が視界を多い尽くしていく。
最後の瞬間はさらにゆっくりと動き、そして――――止まった。
「は!?」
実際時間が止まっているわけではない。
何かの障害物にぶつかったように《エンシェント・ダンジョンワーム》の進攻が止まっている。
よく観察すると止めている物質が判った。
「……デバイス? なんで?」
目の前に浮かせていたデバイスが重量差をものともせずその場に留まっている。
異常な光景だが、その現象自体は何度も聞いたことがある。
「……ステータスボードバグ」
ステータスボードバグは父さんが使っていた『修正パッチ』による効果だ。
破壊不能なステータスボードを操って鉄壁な防御体制を構築していたらしい。
αデバッガーとして父さんの代名詞でもある。
トライアルのデッキに使用していた《絶対防壁》はこの『修正パッチ』を模したものだ。
「……でもなんで……修正パッチを使用する条件も満たしていないし、そもそも持ってすらいない」
『修正パッチ』をダンジョンで使用するには、特殊な条件があると聞いている。
少なくともβデバッガーであることは必須条件だ。
「あっつ!!」
手に握りしめていたアミュレットが熱を持ち、手で持てない状態になっていた。
不思議に思って首から下がったアミュレットに目を向けると、徐々にヒビが入りそのまま砕け散った。
だが、それだけではなく、アミュレットが砕け散ると同時に《エンシェント・ダンジョンワーム》の姿も地面に溶け込みだした。
《エンシェント・ダンジョンワーム》は身悶えるように暴れ出すが、それも完全に地面に溶け込んで消えてしまった。
不可解な現象が続いたが、何が原因かは明らかだ。
「……アミュレット――護符か……」
このアミュレットは俺がダンジョンの宝箱から発見し、スズにあげたものだ。
ダンジョン産の装備は時として異常な性能を持つという。
確かにスズが黒い光に取り込まれる時も、寸前まで光り輝いてモンスターから守っていたように見えた。
元々、窮地に直面した時に、守りを発揮する効果があったのかもしれない。
「折角拾った勝負だ。このまま負けたら笑い話にもならないな」
俺は、《サンダー・ドラゴン》を引き連れて反撃を開始する。




