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23話 『地蟲』

 撤退に次ぐ撤退だった。

 道幅と同じほどの太さの《エンシェント・ダンジョンワーム》が迫りくる様子は脅威であった。

 対抗する手段はまるでなく、途中にいたモンスターは蹴散らされていった。

 むしろ、手札の回転と召喚する場を空けるため、勝てないと判っていても召喚を繰り返し突貫させ続けざるを得なかった。 

 多数の犠牲は無為に終わり、既にメインコアまでたった1体の《エンシェント・ダンジョンワーム》に押し込まれていた。

 メインコアにも3度侵入されたが、後攻であれば死なない《クラウド・ワイバーン》の特殊能力と、ダンジョンスキルを駆使してなんとか踏みとどまっている。


 が、新しく補充された手札を見てやっと気が抜けた。

 今度は反撃とばかりに《クラウド・ワイバーン》とともに《エンシェント・ダンジョンワーム》に向けて進軍する。


 何度か対峙して逃げ帰ってきた《エンシェント・ダンジョンワーム》だが、勝機が見えると幾分小さく感じるようになるから不思議だ。

 《エンシェント・ダンジョンワーム》はジッとしていて動き出さないためこちらが先行のようだ。

 当然、《クラウド・ワイバーン》の攻撃ではびくともせずはじき返された。

 そして、その隙に対して《エンシェント・ダンジョンワーム》の巨体が《クラウド・ワイバーン》を押しつぶそうと鎌首をもたげるのが見える。

 《エンシェント・ダンジョンワーム》の頭部についている無数の歯が蠢き、《クラウド・ワイバーン》に向かい始める。

 このままでは、攻撃により特殊能力を使う余地のなくなった《クラウド・ワイバーン》が倒される展開になるが、今回は1つ状況が違う。


「《エア・バースト》使用」


 《クラウド・ワイバーン》から紫色の光が生じ、《クラウド・ワイバーン》の目の前に風が収束された球体が現れる。

 《エンシェント・ダンジョンワーム》は警戒もせず球体を飲み込み、そのまま《クラウド・ワイバーン》にも食らいつこうとするが、急にプルプルと震えると動きを止めた。

 瞬間、《エンシェント・ダンジョンワーム》の頭部が飛び散り、辺りに肉片と紫色の体液をまき散らす。

 凄惨な光景だが最近は慣れたものだ。

 その光景もやがて土に溶け込むように消えていく。

 《エア・バースト》は相手の攻撃力ぶんのダメージをそのまま相手にはじき返すダンジョンスキルだ。

 いくら攻撃力や守備力が高くても攻撃力が守備力以上であれば問答無用で倒すことができる。

 レアカードだが、最近1枚だけ引くことができていた。


「はぁ……やれやれ、負けるかと思った」


 深いため息とともに気持ちを切り替える。

 障害が去ったので後は無難に進めれば問題ないだろう。

 適度に手札を消費してターンエンドだ。

 相手もメインユニットがやられて意気消沈していることだろう。


「……は!? 嘘だろ?」


 デバイスに映っていたのは、2体目(・・・)の《エンシェント・ダンジョンワーム》が召喚される様子だった。


 対応可能な方法が後何パターンあったかなと半分絶望しながらデッキのカード構成に思いをはせる。

 まだ、なんとかなるはずだ。

 諦めるつもりは全くない。


  ◇  ◇  ◇


 再び《エンシェント・ダンジョンワーム》にメインコアにまで追い込まれている。

 だが、今《エンシェント・ダンジョンワーム》の巨体の前にいるのはこれまで幾度も蹴散らせれてきた矮小な(・・・)モンスターではない。

 《エンシェント・ダンジョンワーム》の巨体よりも更に巨大であり、多数の触手や巨大な尻尾、角や翼まで生やした怪物ユニットが部屋を覆い尽くしている。

 魔王と見まがう程の様相をしているそのモンスターは《暴食スライム》だ。

 手札のユニットを強制的に貪り食った影響で、バグ進行度が22までバグった《暴食スライム》を見ると、《エンシェント・ダンジョンワーム》ですら可愛く見える。


 強制的な手札破壊と、別の理由で組み込みづらいカードではあるが、最後の防衛線とばかりにデッキに組み込んだままにしていた。

 そのおかげで今回の窮地を逃れることができそうだ。


 お互い睨み合っていた状況も、ついに《エンシェント・ダンジョンワーム》が動き出す。

 《エンシェント・ダンジョンワーム》が助走をつけて勢いよく《暴食スライム》に衝突するが、《暴食スライム》は多少へこむ程度でその勢いを完全に殺していた。

 そのまま力比べのような状況になるが、《暴食スライム》から生えた触手が1つにまとまり天井付近まで伸びている。

 巨大になった触手が振り下ろされると、《エンシェント・ダンジョンワーム》の全身が潰れ、辺りが紫色に染まる。


『きゅぉぉぉぉぉぉぉ!!!』


 《暴食スライム》が声にもならないような雄叫びをあげている。

 《エンシェント・ダンジョンワーム》の残骸が地面に取り込まれていく。

 だが、それが終わると《暴食スライム》巨大な触手が地面に落ち、その巨体自体も地面に取り込まれ始めた。


 これが《暴食スライム》のデメリットだ。

 手札のユニットを強制的にバグとして取り込む結果、本来のバグ上限の10を超えてしまう。

 戦闘中であれば問題ないが、戦闘後は必ず消滅――ダンジョンから排除されてしまう。

 いくら強くても、手札の消費が激しく1戦に全てがつぎ込まれるので、今後もデッキに入れ続けるかは悩むところだ。


 とにかく《暴食スライム》のおかげで危機は去った。

 しかし、何故か嫌な感じを覚えて緊張感が抜けて行かない。

 もしやとは思いながら、デバイスを確認する。


「くそ! やっぱりか。そんなことだろうと思ったよ」


 確実な根拠はなくとも、場の雰囲気から感じる予感は案外当たるものである。

 デバイスに映っていたのは、3体目(・・・)の《エンシェント・ダンジョンワーム》が召喚される様子だった。

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