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21話 『解放』 (2021年7月27日)

 アズサはもうすぐ戻ってきそうだ。これでアズサは20回目の走破になる。

 その後の俺がダンジョンを走破すれば俺も20回目になるので、明日は協会に行くことになっている。

 今日は比較的早く走破できており、俺が戻る頃はまだ暗くなっていないだろう。


 ダンジョンの板で進行状況を確認すると、丁度メインコアを制圧したところだ。

 もうすぐ現れるはずなので場所を空けておく。

 すると、白い光が灯りアズサが出てきた。


「アズサ、おかえ……り?」


 現れたアズサの、ダンジョン潜入時とは違う姿に困惑して言葉が繋がらなくなった。

 アズサ自体には問題がない。

 問題があるとすればその腕の中だ。

 小さな少女がいる。


「ナギ。これって『解放』……よね?」

「……そう、だと……思うよ」


 少女自体は身じろぎする様子がない。

 意識がなく眠っているようだ。


「あれ、でもダンジョンの中にいたときより小さくないか? 別人なの?」

「いいえ、同一人物だと思うわ。少なくとも付いてきてくれたのはいつもの子だった」


 例の少女はアズサに付いてきてくれたらしい。

 まぁ、俺は1回ドン引きされた後は開き直って効率重視でデバッグしていたから、アズサの方に靡くのは当然だろう。


 しかし、ダンジョンに入った時は、小学生低学年程の身長だった。でも、この様子だと――


「取り込まれた時の状態……みたいね」


 ダンジョンの中では成長した姿をしていたので、身体だけが成長するのか、どこかで生活できていると考えていたが、これだと全くの真逆だ。

 ダンジョンの中の記憶がどうなっているかは気になるが、目を覚まさないとそれは判らないだろう。


「これは協会に連れていかないといけないな。……タクシー、呼ぶか」

「いえ、私が連れて行くわ。コネがあるのよ」


 そう言うと、アズサはおもむろに俺に少女を渡してくる。

 慌てて両手で受け取ると、アズサはスマホを取り出してどこかに電話し始めた。

 腕に抱えているとずっしりとした重みを感じるが、抱えていられないほどでもない。

 仄かな温かみも感じ、呼吸も感じられるので健康上は問題なさそうだ。

 

 『解放』自体は、ダンジョンデバッグでの目標だ。

 最終的にはスズを帰還させることを目指している。

 その事象を初めて経験したが、実際に『解放』した後のことまでは考えが及んでいなかった。

 戸惑って冷静に考えられていなかったが、まずは協会に連絡を入れれば対応方法も教えてくれたことだろう。

 その点、アズサの行動力は流石だと思う。

 微かに聞こえる言葉からすると移動の手配をした後協会への連絡まで済ませている。


「ナギ」

「ん?」


 どうやら電話が終わったらしい。

 どんな話になったか聞こうとしたが、何故かアズサがスマホを仕舞わずこちらに向けてくる。

 電話を代わって欲しいような仕草ではなく、スマホを見せつけるような仕草だ。

 意図が判らずアズサに視線で問いかける。


「この子は、協会の研究所に連れて行くことになったわ。健康状態とか今後の展開とか聞いてみるつもり。その結果が判ったら今日の夜連絡するわ。だから……その……連絡先教えなさいよ」

「お、おう」


 今まで一緒にデバッグをしてきたが、朝の待ち合わせは園長室に居れば良かったし、特別連絡先を知らずとも問題がなかった。

 いざ改めて交換するとなると少し緊張する。

 断る理由がないのでスマホを取り出すが、少女を片腕で支えるとバランスが不安定になりそうになった。

 少し躊躇したが、そのままスマホをアズサに差し出すことにする。


「自由に触っていいよ」

「え!? ……うん……わかった。やっておく」


 アズサは恐る恐るスマホを受け取ると、おもむろに操作をし始めた。

 機種が違うので少し戸惑っていたようだが、問題なく終わったらしい。

 

「……できたわ」

「ありがと」


 改めて受け取ると、そのままポケットにしまう。

 ひょんなことから初めて女の子の連絡先を交換した。……あ、ユキもいたか。

 やや歓喜したい気持ちも生じるが、少女の様子を見るとその気持ちも消えていく。


「この子の親ってどういう状況なんだろうね」

「想像……したくないわね。でも、生きて帰ってきたのだからきっと大丈夫よ」


 根拠も何もない話ではあるが、大丈夫だと信じたい。


 未帰還者が死者として扱われるのには理由がある。

 死ぬ瞬間(・・・・)を目撃されているからだ。正確には死ぬ直前の瞬間ではある。

 例えばモンスター。モンスターの爪が人を切り裂こうとした瞬間、黒い光(・・・)に包まれ溶け込むように消えてしまう。

 これは不慮の事故や病死でも同様だ。黒い光に包まれて忽然と消えてしまう。

 尚、集団で発生した場合は大きな黒い光とともにダンジョンが残るらしい。

 黒い光とダンジョンの関係性が疑われていたが、5年前からはダンジョンに入る時にも黒い光が発生するようになったため、未帰還者はダンジョンに取り込まれている説が一般的だ。


 尚、黒い光に包まれるのを目撃されてさえいなければ未帰還者候補(・・)になる。

 ただの行方不明でもそうだが、ダンジョンの現象で突然消滅したとしても死者としては扱われない。

 どんな状況でも黒い光に包まれてさえいなければ希望はあるらしい。

 ちなみに、爺さんの話によると父さんはこちらに該当しているらしい。

 

 正式な記録だと、α以降この町の死者数は0だ。

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