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19話 『拠点』

「……」


 少女との戦闘が終了し、少女がメインコアまで逃げていく。

 終業式が終わった後は、ファーストフード(チーズバーガーセット)で適当に腹を満たし、早速ダンジョンにやってきた。

 部長から貰ったカードで一番助かったのは、SRやレアではなく、アンコモンやコモンに含まれる汎用的なダンジョンスキルだったように思う。

 そのおかげで《サンダー・ドラゴン》がかなり安定していた。


 隣を見ると《サンダー・ドラゴン》がバサバサと飛んでいる。

 バグらせてはおらず、《フォレスト・エイプ》と2体編成で進軍していたが、《フォレスト・エイプ》は先ほどの戦闘で壁にした結果既に消滅している。


 《サンダー・ドラゴン》は母さんがβデバッグ時に多用していたモンスターでもある。

 日常でも今と同じように母さんの隣でバサバサ飛んでいたのを覚えている。

 ちなみに、《サンダー・ドラゴン》はβレギュのメインデッキにも入っている。

 あれは、母さんのβデバッグ時の戦略をメインに組み立てたデッキだ。


 《サンダー・ドラゴン》に少し愛着がでてきたが、メインコアでの戦闘ではバグらせる予定だ。

 恐らく姿が変化するだろうからやや物寂しさを感じるがそれはそれだ。


「さて、行くか」


 メインコアに進軍すると、少女の横に《重装甲ホワイトホース》がいるのが見える。

 少女は何かを呟くような様子を見せるので、バグらせるようだ。

 すると、何度も見た演出と共に《ホーン・ラビット》と《フロスト・スワン》が召喚される。

 3匹の動物はじゃれつくように身を寄せ、気づいたころには角と翼の生えた白馬に生まれ変わった。


「おぉ、今度はユニコーン……いやペガサス……どちらでもいいか」


 ユニコーンは角が生えた白馬、ペガサスは翼が生えた白馬だ。

 これまでもケルベロス――頭がひとつ羊だったが、ナインテイル――尻尾が4本だったが、グリフォン――体が虎だったが、と言った幻想種に近いモンスターが生み出されていた。

 この少女はモンスターをバグらせるセンスがあるのではないだろうか。

 ちなみに、それぞれの幻想種のモンスターはバグらせなくても普通に存在する。


 さて、ステータス的に負ける要素があるのでこちらも《サンダー・ドラゴン》をバグらせよう。

 使用するバグカードは《ワイルド・ピッグ》だ。

 《ワイルド・ピッグ》は前のデバッグ時も活躍したが、今回はただの壁としての役割になる。

 バグで守備力があがれば《サンダー・ドラゴン》が攻撃に耐えることができ、その後の攻撃で十分倒しきることが可能だ。

 特殊能力やスキルについても、対策できるダンジョンスキルがあるので勝利は確定している。


 恐らく、この前のバグりかたを考えると豚の頭になるだろう。

 豚の頭のドラゴンはシュールだなぁと思いながら、バグる様子を観察する。


 《ワイルド・ピッグ》が《サンダー・ドラゴン》に近づいていく。

 すると、《サンダー・ドラゴン》から鎌鼬が発生し、《ワイルド・ピッグ》が左右で真っ二つになった。


「……は!?」


 真っ二つになった《ワイルド・ピッグ》は、それぞれ左右に分かれて倒れると、桃色の断面を見せる。

 しかし、それで終わりではなく《サンダー・ドラゴン》から無数の鎌鼬が発生し、《ワイルド・ピッグ》は更に細かい肉片へと変貌していく。

 《サンダー・ドラゴン》が肉片に近づくと、グバっと大きな顎を開き、むしゃむしゃと《ワイルド・ピッグ》の残骸を捕食していく。

 その後、《サンダー・ドラゴン》は単純に大きくなった。

 変化はそれだけだ。


「ぇぇ……」

 

 バグり方が想像の斜め上だった。正直絶望したと言ってもいい。

 少女のモンスターのバグり方をを思い出し、頭の中で比較してしまった。完全に真逆だ。

 《シャドウ・ゴーレム》と比較しても酷すぎる。

 グロくないのは《シャドウ・ゴーレム》の特性によるものだったらしい。


 これは、少女の教育上良ろしくないと思い、恐る恐る少女の方に振り返る。

 泣き出しているかと思いきや、完全にドン引きしていた。表情が見えなくても判ってしまうほどだ。


「これはだな……。なんか、すまない」


 伝わっているかは不明だが、謝罪の言葉が口から出た。

 横では、《重装甲ホワイトホース》の攻撃をはじき返した《サンダー・ドラゴン》が《重装甲ホワイトホース》を叩きのめしていた。

 特殊能力やスキルを指示するタイミングがあったはずだが、少女も俺も呆然としてその場の流れるままにしていた。



  ◇  ◇  ◇



 悄然とした気持ちのままダンジョンから出ると既にアズサが来ていた。


「丁度良いタイミングね。丁度作業が終わったところよ」


 アズサが何やら道の方に手を振ると、大型のバンが走り去っていくのが見えた。

 この間言っていた暑さへの対策案というやつだろうか。


「ちょっとついてきなさい。靴のままでいいわよ」


 アズサが我が物顔で幼稚園の中に入っていく。

 ついていくと、廊下にマットのようなものが敷かれている。

 マットに従って歩いていくと、ある部屋の前にたどり着いた。


「……職員室」

「他は子供サイズなのよ。後、職員室は広すぎるから奥の園長室ね」


 何が待っているのかと思いきや職員室を通って園長室まで向かう。

 そういえば、前に中で涼んだ時は埃っぽかったので奥まで入らなかったが、ここまで歩いたところまでは全くというほど感じなかった。

 なるほど。業者に頼んで掃除でもしたのだろう。多少暑いとはいえ休憩するには十分だろう。


「ここよ。入ってみて」


 アズサが扉を開けて入室を促してくるので、近づいていく。


「え……」


 入った瞬間、ふわっと涼しい空気に包まれる。

 4畳半程の空間だが、ソファーとテーブルが置いてあり、毛布や電気ポット、冷蔵庫や電子レンジまで完備されている。

 なにより明るい。つまりは、止まっていたはずの電気が通っている。

 完璧な拠点がそこにはできていた。


「水道も復旧させておいたからトイレやシャワーも使えるわよ」

「どうやってこれ……」

「……ちょっとしたコネがあるのよ」


 以前、アズサをお嬢様かもなんて思っていたがとんでもない。

 お嬢様確定(・・)だ。

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