表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/59

17話 『指南』

「いやはや、ナギはいつも予想外の発想をするよね。開発者が泣くかもしれないよ」

「俺のせいでルール変更されないか少し不安になってます」


 如何にバグらせるかが醍醐味のデババトで、バグらせないデッキを流行らせたかもしれない。

 

「暫くは流行るかもしれないね。でも、対策は何個か思いつくしバランス崩壊まではしてないんじゃないかな?」


 実際、対策されていないデッキでギリギリまで追い込まれたので説得力がある。

 とは言うものの、部長の判断力があるから言えることのようにも思う。


「そもそも、カード枚数を調整しながらのダメージ調整も必須だから万人向けじゃないと思うな」


 確かになと思いながら、隣のユキの様子を覗きみる。


「うわー! 負けたっす~」


 ……どうやらルール変更はされずに済みそうだ。


 部長との勝負の後は暫く盛り上がっていたが、その延長で大会デッキをユキに貸すことになっていた。

 「これで蹂躙してやるっす」とか言ってシンジに勝負を挑んでいたが見事に玉砕されている。

 シンジの山札もまだ1/3程残っている。


「先輩~! このデッキ調整不足っす。ヨワヨワっす」 


 ひどい言い草だ。現実逃避も甚だしいが、それが事実だったらトライアルの参加者は目も当てられない。

 

「まてまて、ナギのせいにするな。お前の実力だろ」

「いやいや。じゃ、これ貸すからもう一回!」

 

 勝手に俺のデッキがシンジに貸し出される。もう一勝負するらしいので緑茶を飲みながら観戦することにする。



 

「――おお、ナギ。このデッキ面白いな!」

「……私の……実力、不足っした……」


 ユキが真っ白になって力尽きている。カードの使い方に多少粗はあったが、おおよそ戦略通りに進めていた結果、見事にユキの山札が尽きていた。

 山札を最後まで引かせる関係上、勝負時間はかなりの長丁場になるのは欠点だ。大会で休憩時間がほぼなかったのも記憶に新しい。


「さて、じゃそろそろ約束を果たす時間かな」

「お? あーじゃあ、俺らはそろそろ帰るな」

 

 シンジはそういうと、デッキを俺に返してから帰り支度を始める。憔悴しているユキにも問答無用で「帰るぞ」と声を掛けている。

 意外とシンジは鋭いところがあるので、DDの間でしか話せない話があることを察したのだと思う。 


「じゃ、また明日な」

「先輩~、部長~。またっす~」


 いつの間にかしれっとユキが復活しており、シンジ達はあっさりと帰っていった。

 2人がいなくなって静かになると急に部室が広く感じる。


「シンジは空気を読むのうまいよね」

「全くですよ。昨日もDDのデバッグの説明で余計な一言を言いそうになって誤魔化しましたが、そこはスルーしてくれました」


 実際は『動物園への遠足』って言葉を言った後(・・・)で、『遠足』部分を誤魔化したのが真相だ。

 アズサに刺さった言葉だったので気に入ってつい口に出てしまったが、DMの話がタブーと気づいて遠足のように気楽だった的な方向に調整した。

 うまく誤魔化せていたかは正直怪しい。


「初めてのデバッグは大変だったかい?」

「いいえ。確かにカード不足でしたが、流石に幼稚園児には負けませんよ」

「勝負については心配していないかな。でも、DDとしてモンスターに対峙するのは初めてだろう?」


 確かにβの終了前は、比較的安全を確保された道を使い、遭遇したとしても逃げるのが鉄則との教えが一般的だった。

 モンスターと直接対峙した経験を持つ人はそのほとんど(・・・・)がβデバッガーだろう。


「それが、子供の頃に少しやんちゃな時代がありまして……」


 子供の頃の記憶を余計な映像に結び付けようとする自分を、服の上からアミュレットに触れて抑え込む。

 

「あぁ、そういえば隠れてダンジョン探索までしていたらしいね」


 一瞬驚愕したが、恐らく母さんからの情報だろう。部長はDDとして、協会で母さんの研究の手伝いをしていると言っていた。

 むしろ、母さんにも秘密にしていたのに筒ぬけだったことに溜息がでる。

 

「さてと、じゃあ約束通りこれをあげよう」


 そう言って部長が鞄から取り出してきたのはデバイス用のカードセットだ。しかも10セット程もある。


「え? 使わないで取ってあったんですか?」

「そうだね。デッキはほぼ完成しているからね。あまりカードを増やす意味がないんだ。コンプリートを目指すわけでもないしね」


 デババトもそうだがカードゲームのプレイヤーは、主に集めることを優先するタイプとデッキを強くすることを優先するタイプがいる。

 ただし、上位のプレイヤーともなると、コンプリートを前提としながら、さらにデッキも強化するハイブリッドタイプになる。

 部長もこのタイプになるはずだが、確かにDDの意図からしたら集めることは重要ではない。

  

「でもこれ協会に引き取ってもらえば結構な金額になるんじゃ……」


 10セットもあれば500万だ。

 不要と言われてもポンと貰うには躊躇する金額である。


「残念だけど協会は買い取ってくれないよ。カードを入手できるDDにはもっと強くなってもらうのが協会の方針だからね。けれど、全体的な底上げもしたいから熱意が高い人用に販売もしている。在庫が少ない分、買い占めの防止や熱意の量の見極めのために非常に高価だけどね」


 協会も色々考慮した上での値段設定だったようだ。

 最近、金の亡者説が破綻していくので最近の勝手なレッテル貼りを反省する。……いや、爺さんにはそのまま貼り付けておこう。


「ちなみに知っているとは思うけど、コンプリートを目指すならデバイスで一覧を確認できるよ」


 それは知っている。デバイスは隅から隅まで確認済だ。

 ただ、取説やヘルプがないので意味不明な文字や機能がいくつかある。


「それでしたら、その画面で一つ確認なんですが、カード名の後ろにある[X/X](かっこマーク)は何でしょうか? 前の数字は所持数だと判りますが、後ろはランダムですし、同時に組める枚数でしょうか?」

「同時に組めるのはデババトと同じで3枚までだね。それは調査した結果、上限だって言われているよ。全体でその枚数しか存在しないのさ」


 確か《暴食スライム》は[1/1](いちぶんのいち)の表記だった。ユニークモンスターということだろう。


「つまり、デバッグの完了の目安にもなる。極端な話、全てのカードをDD側で取得してしまえばデバッグ完了だ。協会で定期的に集計しているから、現在値を確認したければ見にいくといいよ」


 αやβでは、特定の何か(・・)を1点に集中させた結果、モンスターの脅威が低下するような大きな変化になったと聞いている。

 ダンジョンではそれがカードということだろう。


「つまり、DDとしてはそれなりの成果がある人のデバイス消失が一番痛いのさ。大量のカードが消えるからね。だから、それは貰っておいて欲しい」


 部長に言いくるめられたように感じるが、ありがたく貰っておこう。


「そういえば、部長はどこでデバッグしているんですか? 協会からは低級ダンジョンを紹介されましたが、低級ダンジョンは周回しやすい分DDから人気が出そうな気がするんですが」

「僕は難易度も高いけど優先度も高い研究所だね。それに、そもそも低級ダンジョンは協会からの紹介がないと入れないよ。リスクがあるβデバッガーでもデバッグ可能なのがその理由さ」


 βデバッガーは未帰還者候補になるリスクがあるが、『修正パッチ』が使えるぶんデバッグが容易だし、最悪未帰還者候補になっても低級ダンジョンなら救出がしやすい。確かに理に適っている。

 

「ナギも一度『解放』でもすると優先度が高めのダンジョンのデバッグを推奨されるはずだよ」


 この優先度(・・・)の設定が『解放』について極秘である理由だ。

 優先度ではデバッグに関係する技術者や研究者、デバッガーのような人材がいる可能性があるダンジョンが高めに設定されている。

 『解放』について広まれば、収拾がつかない騒ぎになるのは必然だ。勝手にダンジョンに入る人も増えるだろう。

 騒ぎが収束しても、今はほぼ死者として扱われている未帰還者が帰るともなると、人道的な立場により子供や老人を優先せざるを得なくなるのは自然の流れでもある。

 最初に直面する低級難易度のダンジョンが攻略し尽されるのは辛うじて許容できるとしても、その後にぶつかる大きな壁が問題だ。

 次の保護対象となる小、中、高校のようなダンジョンは、軒並み高級難易度のダンジョンになっていてデバッグが難しい。

 数が限定されているデバイスを失う自体に陥るだろう。


 そうなると積み――ゲームオーバーだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ