16話 『決着』
「《リザレクション》で捨て札から《竜王アルマゲドン》を手札に回収。《竜王アルマゲドン》を召喚。《ゴールデン・オーブ》を魔石化で魔石を2個付与。『竜王の演算』で《絶対防壁》使用。――成功。ターンエンド」
「すごいね、そのデッキ。ちょっと感動している」
「部長もすごいですね。トライアルでは3回倒されたのは決勝だけなのに」
《竜王アルマゲドン》がこれで3回倒されている。通常は同じカードは3枚制限だが《竜王アルマゲドン》はデッキに1枚制限だ。
3回《リザレクション》で復活させているので次に倒されると後がない。
「もしかして《竜王》しか入ってないんじゃない?」
「……さぁ、どうでしょう」
とぼけてみたが図星だ。部長の伏せカードは5枚のうち3枚取られているが、5枚取られることはない。
なんせ、最大4回しか倒される可能性のあるモンスターがいないからだ。
このデッキの敗北条件は《竜王アルマゲドン》が倒された後――モンスターがいない状態で攻撃を受けた場合のみだ。
ちなみに開始時に手札にモンスターカードがいない場合は手札を見せて引き直せるので、《竜王アルマゲドン》が引けないことはない。
今回は1発目で引けたので、部長に手札を明かさないまま開始できたのは運がよかった。
「モンスターカードを魔石化して《プラント・ドラゴン》に付与。ターンエンド」
今部長が魔石化したモンスターカードはSRの強力なモンスターだ。だが、既に意味がないので魔石の対象にするのは当然だ。
モンスターは同時に5体までしか召喚できないが、部長の場は既に埋まっているのでモンスターを召喚する余地がない。
一応、スキル等で場を空けることができるが、どうやら部長のデッキには入っていないようだ。
このデッキに対して下手にモンスターを展開したり特殊能力を増やすと積む。
《竜王アルマゲドン》は単純に殴り倒すしかないので、攻撃力アップを重視したバグや支援系の特殊能力を集めるのが対策になる。
アズサはある程度事前情報があったようだが、部長は事前情報が無いにも関わらず、早い段階で気づいて対応してきたので流石だ。
「そうだ、部長。もし勝てたら、DDについて教えてください。――『竜王の演算』で《絶対防壁》使用。――成功。ターンエンド」
「それはいつでも構わないよ。……そうだな、じゃあ勝てたらいいものをあげるよ。――モンスターカードを魔石化して《プラント・ドラゴン》に付与。ターンエンド」
かなり追い込まれているが、方向性としてはこのデッキのコンセプト通りに進んでいる。
「『竜王の演算』で《絶対防壁》使用。――失敗。《パワー・ダウン》使用。ターンエンド」
「――モンスターカードを魔石化して《プラント・ドラゴン》に付与。攻撃。ターンエンド」
手札の枚数的にバグらせる余地やスキルもあるだろうに、最低限の攻撃だけで手札を節約してくるのも流石だ。
《竜王アルマゲドン》にダメージカウンターを6個乗せる。
《パワー・ダウン》は攻撃力を2減らすスキルだ。
《プラント・ドラゴン》はバグと《ワールド・トレント》の支援によって既に攻撃力が8もある。《竜王アルマゲドン》は守備力が10だ。
また、《イビル・アップル》の《グロー・アップ》の特殊能力で魔石に引き換えで攻撃力を上げるスキルがあるので、うまくダメージを調整しないと1撃でやられる。
これまでもバグや《パワー・アップ》でダメージ調整をずらされて倒されたが、今は《プラント・ドラゴン》のバグは9でほぼ最大であり、《パワー・アップ》も3回使用済なので以降の事故死はないはずだ。
「《オールレスト》使用。《ゴールデン・オーブ》を魔石化で魔石を2個付与。『竜王の演算』で《絶対防壁》使用。――成功。ターンエンド」
「《オールレスト》も3枚目だよね。ギリギリ削り切れるかな。――モンスターカードを魔石化して《プラント・ドラゴン》に付与。ターンエンド」
《オールレスト》は全ての魔石を消費して全てのモンスターを全快する大規模なスキルだが、このデッキでは豪勢に《竜王アルマゲドン》専用で使用する。
しかし、これで部長の最大火力が12になったので、《パワー・ダウン》や回復系のスキルでは防げなくなった。確かに本当にギリギリだ。
アズサの時より追い込まれており、部長の強さが滲み出ている。
「『竜王の演算』で《絶対防壁》使用。――失敗。《タフネス》使用。ターンエンド」
「――攻撃。ターンエンド」
《竜王アルマゲドン》にダメージカウンターを8個乗せる。
《タフネス》はHP満タン時に即死ダメージを受けても1残るスキルだ。
「『竜王の演算』で《絶対防壁》使用。――成功。ターンエンド」
「――ターンエンド」
「――『竜王の演算』で《絶対防壁》使用。――成功。ターンエンド」
「成功が続くね。ターンエンド」
既にデッキのコンセプトが把握されているようなので泥試合が続く。
「――ぉ!」
「……あー、これは負けたかな」
引いたカードで丁度枚数が揃った。
部長もこちらの様子を見て察したみたいだが、詰め方を観察するようなので長い闘いをまとめあげる。
「《カムバッグ》で《竜王アルマゲドン》を手札に回収して、魔石2個分のバグカードを捨て山から手札に回収」
ここで回収するバグカードは当然2枚とも《ゴールデン・オーブ》だ。
「《竜王アルマゲドン》を召喚。《アクセラレート》で《ゴールデン・オーブ》2枚を魔石化で魔石を4個付与。『竜王の嵐』で《プラント・フロッグ》を攻撃」
『竜王の嵐』は、魔石が4個貯まると使用できる通常能力で、バグ進行度が10以上のモンスターへの即死攻撃だ。
部長が中盤に生贄として《プラント・フロッグ》をレベル10にしていたが、華麗に無視して防御に徹していた。
尚、今回の勝負で最初で最後の攻撃になる。倒したので伏せカードを1枚引く。
「《カムバッグ》で《竜王アルマゲドン》を手札に回収して、魔石4個分のバグカードを捨て山から手札に回収」
再び《カムバッグ》で手札を増幅させた後、最後の1枚をコールする。
「《ミラーイメージ》を部長に使用。ターンエンド」
《ミラーイメージ》は、どちらかの手札を対戦相手の手札の枚数と同じ枚数にするカードだ。主に自分の手札の補充に使うか、相手に使用することで相手の手札を破壊するために使用する。
つまり逆に、相手に手札を強制的に補充させることも可能だ。
俺の場にはモンスターがいない状態だが問題ない。部長の攻撃はやってこない。
「枚数調整も完璧だね。僕の完敗だよ。これで3回目だね」
カードゲームでは硬直状態に陥った場合のために、通常の勝敗条件以外の勝敗条件が設定されているものだ。
デババトでもその例に漏れることはない。
βレギュレーションでは山札からカードを引けなくなったら敗北だ。
このデッキはその条件を満たすためだけに特化している。




