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15話 『最強』

「はぁー。なんとか捌けたっす」

「ははは、耐えられるとは思わなかったよ。ターンエンドだ」


 良く耐えている方だが、バグりすぎた部長の《次元スライム》をユキの使用しているデバッガー《ミフユ》で避け続けるのは無理ゲーだ。

 ユキが部長に蹂躙される様子を紅茶とお菓子(マドレーヌ)を口にしながら鑑賞する。

 ユキのターンの攻撃はあっけなく捌かれたので、恐らく次のターンでやられるだろう。


「ぐはぁー。……負けたっす」

「最後はバグらせないでレベルアップさせてたらもう1ターン持ったかもしれないね」

「それでも、次のターンは耐えられないっすよ~」


 《ミフユ》は避けタイプのデバッガーカードだが、耐えるには5回連続で回避しないといけなかった。

 驚くべきことに4回までは成功していたのでユキは強運である。

 まぁ、どちらにせよ次のターンで《次元スライム》がバグって6回攻撃になるからどうしようもないが。


「先輩! 先輩の最強デッキでリベンジしてください」


 最強デッキとは父さんのカードを使ったデッキだ。αレギュでは唯一部長に勝ったデッキでもある。

 その試合では部長が負けたこと自体に感動して、その後の対戦はない。よって最強デッキに君臨している。


「あれにはまだ勝てないよ。対策を考案中なんだ」

「あー、すまん。トライアルの時に部品取りしたからまだ戻してない。組み直すの面倒だからこっちもパスかな」


 ちなみに、βのメインデッキも同じような感じで1度だけ勝った後に対戦がないので、こちらも暫定的に最強デッキ扱いだ。

 

「ふむ。トライアルで優勝したデッキだね。それも興味あるなー」

「対戦してみます?」


 部長は同年代のはずなのにオーラが違うのかどうしても丁寧語になってしまう。

 優勝したとはいえ、部長相手だととても自信がない。

 最強の称号は俺にあることになっているが、サブ以下のデッキではただの1度も部長に勝った試しがない。実際の最強が誰かは言わずもがなだ。


「おお!エキシビションマッチというやつだな」

「特殊な戦い方のデッキとは聞いているね。でも、戦略までは聞いていないから安心していいよ」


 シンジが部長と席を交換したため、目の前に部長が来る。

 対戦が決定したため、鞄からトライアルで使用したデッキを取り出す。

 部長も鞄を見て「これ使ってみようかな」と呟いて1つのデッキを取り出す。

 どうやら部長も新デッキのようだ。新デッキでも基本的に調整は完璧なのが恐ろしい。


 山札から1番上のカードを手元に置いた後、手札として6枚取り、山札の横に5枚の伏せカードを置く。

 伏せカードは相手のモンスターを倒すと1枚取ることができ、先に全部取るのが基本的な勝利条件だ。


「じゃあ、はじめますね。勝負開始」

「了解。勝負開始」


 『勝負開始(デバッグスタート)』と宣言するのはデババトでの約束事だ。宣言自体には特に意味はない。

 サイコロを振る。主に確率的な要素はサイコロを使用して決定する。


「こちらが先行だね。《プラント・フロッグ》、《プラント・スネーク》召喚。《プラント・フロッグ》に魔石を付与でターンエンド」


 部長は山札を1枚捨てて魔石カウンターを《プラント・フロッグ》に置く。

 木属性のデッキか。木属性は最初の爆発力はないが、バグってくると絡め手が多くなり倒しづらくなる。


「じゃあ、《竜王アルマゲドン》召喚。バグカードを魔石化して付与。ターンエンド」


 魔石は手札のバグカードを捨てるか、山札を1枚捨てるかで1つ付与することができる。


「おお、《竜王》だね。僕もそのカードには興味あるけど使い方は難しいよね」


 《竜王アルマゲドン》は、高い守備力とほぼ全てに耐性があるSRカードだが、巷では全く人気がなく、場合によっては最弱のSRとも呼ばれている。

 理由としては簡単だ。バグにも耐性があるせいでこのモンスターはバグらない(・・・・・)

 如何にバグらせるかが重要なデババトでは本来致命的な問題である。


「さて、《プラント・スネーク》を《アルラウネ》でバグらせて、《プラント・フロッグ》に魔石を付与して攻撃。ターンエンド」


 《竜王アルマゲドン》に2つダメージカウンターを置く。

 部長は《アルラウネ》を引いたようで、そのままバグらせてきた。

 βレギュでは、ターン毎に1枚カードを引くが、このタイミングで《アルラウネ》を引くのは運が良すぎる。

 《アルラウネ》がいるとデバッガースキルで植物系にダメージを与えられなくなる。デッキを植物系で揃えているなら序盤から攻撃系のデバッガースキルを完封してしまう。

 ……まぁ、このデッキには攻撃系のデバッガースキルは入っていないので全く脅威ではないのだが。


「バグカードを魔石化して付与。《絶対防壁》展開」


 最初に手元に置いたカードを表にする。《絶対防壁》は修正パッチカードだ。

 修正パッチは1枚だけ初めから確保しておくことができる。強力なので使いどころが重要だが、展開持続型のカードのため初めから使用する。


「『竜王の演算』で《絶対防壁》使用。――成功。後は《ヒール》、《ジャミング》を使用してターンエンド」


 《絶対防壁》は1/6の確率で完全防御だが、『竜王の演算』は確率的な要素を3倍まで高めることができる。つまりこの場合は1/2だ。ただし、『竜王の演算』は魔石が2個貯まると使用できる通常能力なので使用すると攻撃はできなくなる。

 後は、《竜王アルマゲドン》からダメージカウンターを2つ取り除き、部長の《プラント・フロッグ》から魔石カウンターを1つ取り除く。


「なるほど。防御寄りのデッキなのかな」


 部長はこちらのデッキ構造を予想してくるが、おおよそアタリであって、本質的にはハズレだ。

 なんせこのデッキは防御しか(・・)考えていない。

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