13話 『襲撃』
自転車から降り、車庫まで移動させて鍵を掛ける。
まだ日は高いが、もう1度ダンジョンに潜る誘惑を振り切って家に帰ってきた。
あの兄妹が学校終わりに襲撃してくると予想――ほぼ確信しているが、流石に2回も無視するのは忍びない。
それに、今日の反省とアズサの戦い方を参考にしてデッキを修正したい。
昼食の後はアズサがダンジョンに潜るというので付き合ってみたが、俺より30分程早く走破していた。
俺の方がカード枚数があったはずなのに、アズサの方がバランスの良いデッキができていたからだ。
正直アズサのカード運が高かったようで羨ましい。
断じてデッキの構成力の違いではない……と、信じたい。
ダンジョンから出てきたアズサと話をしてから解散してきた。
本格的にダンジョンを攻略し始めるのは明後日の午後からのつもりだ。
明日は流石に2日連続でサボると別の意味で注目されるし、今後のために学校でしておきたいこともある。
そして明後日は終業式なので午後からは夏休みだ。
自由に動ける夏休み中にはなんらかの結果を残したいと思っている。
アズサも同じようなスケジュールらしいが、終業式の後は用事があるようで、15時くらいに合流することになっている。
同じダンジョンをデバッグする関係上、お互いのスケジュール調整は重要だ。
考えてみれば当然だが、1人がデバッグしている間は潜れないらしい。
ただし、ダンジョンのデバッグ中は中の状況が入り口の板にも映るようで、観戦は可能になっていた。
今日もアズサが走破し終わるまでダンジョンの前でしばらく観戦していたが、デババトと違って移動や召喚、戦闘でリアルな時間がかかるためか1ターンの時間が長く、幼稚園の玄関の屋根があるとはいえ、灼熱の中で2時間以上観戦しつづけるのは流石に無理だった。
幼稚園の中に避難したり――関係者なので問題ない……はず、近くのコンビニに涼みに――飲み物を買いに行ったりしながら観戦をし続けていた。
今後は周回するつもりなのであまり入り口から離れたくないのだが、この問題についてはアズサに対策案があるという話なので期待している。
玄関の扉を開くと、どこか見覚えがある靴が2足並んでいる。
「もう来てるか……」
案の定、予想通りだ。
「ただいま」と、居間にいる爺さんに声を掛けて階段を登っていく。
2階の手前側にある俺の部屋まで来ると、中に人の気配を微かに感じる。
ガチャ
扉を開けると、視界に映ったのはパソコンの前の椅子に座るシンジの姿だ。あれ、ユキがいないな……。
「……おぉ、帰ったなナギ」
「…………ん? 先輩? おかえりっす~」
ユキの姿が目に入らなかったのでシンジだけかと思ったが普通に居た。
俺のベッドにうつ伏せで寝そべっていた。
制服のスカートが際どい状態になっているし、年頃の女の子がそんなんでいいのだろうか。
「すまない。ちょっと色々あってな…………あー……いや、サボった!」
謝罪と共に言い訳を考えてみるが、面倒臭くなって開き直った。
「はっはっは、ナギらしいな。まぁ何をしに行ったかは想像できるし、そもそも今日は来なくて正解だったかもしれん」
「ん? なにかあった?」
自分の感覚では学校は日常が過ぎる場所だ。イベントらしいことはそもそも少ない。
むしろ、イベントといえばこいつらに巻き込まれる場合がほとんどというか全部だ。
「何もないっすよ~。昨日のデババトが話題になっていただけっす。私も結構舞い上がっちゃったし反省してるっす」
「確かにあれは問題ありだな。ナギ……お前は優勝しているからな。一日経っているが、明日は高乃宮のようになるかもしれん。覚悟しておけよ」
高乃宮ケイは部長だ。2年前の初回デババト大会で優勝している。当然DDだ。
大人びた雰囲気があり、スッとした顔をしているので女子に人気が高い。
とはいえ、性格もいいので男子にも嫌わているわけでもない。
成績も良く、金持ちという噂もあり完全超人だ。
2年前に優勝した際は、学校中が騒ぎになっていた。
「いやいや、俺はあんな美形でもなんでもないから、そんな人気はでないだろ」
「……美形? はっはっは、確かにそうだな。でも、お前も可愛い顔しているって結構女子に人気あるぞ? 女装でもすれば結構対抗できるかもしれん」
「そうっすよ~。女装して2人で並んだら絵になるっすよ~。美人姉妹っす」
勘弁してくれ。可愛いなんてのは誉め言葉でもなんでもない。
なんで対抗するために女装しなければならないのか謎だ。対抗する気もない。
後、部長も流石に女装は拒否すると思う。
「でだ、結局DDのデバッグはどんな感じなんだ?」
「そうっす! 気になるっす。先輩話してください」
ユキがようやく起き上がって、ベッドの端に腰掛ける。
「あぁ、そうだな。そもそもDDのデバッグっていうのは……」
昨日の説明会の話から、今日の『動物園への遠足』まで話してやったが、なんとなく、アズサの話は端折ってしまった。




