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12話 『昼食』

 店内はモダンな雰囲気を醸し出し、喫茶店という分類ではありながら隣の席との間隔も広く、非常に落ち着いた空間になっている。

 先ほど食べたランチセットの大盛パスタ(カルボナーラ)も、生クリームを使わない本場のうんたらかんたらという説明付きであったが、とにかく濃厚な味をしていて非常に美味しかった。

 店構えは、大通りから離れた小路に位置しており、言わば完全な穴場だ。

 平日なのもあって、昼時だというのに人はまばらであり、会話をするのには丁度良い。


 目の前には、食後のデザートとしてケーキ(スフレチーズ)を嬉しそうに突っついているアズサがいる。

 食事中は食べるのに集中して会話という会話はしなかったが、既に幼稚園ダンジョンが『動物園への遠足ダンジョン』だと言うことは伝えてある。

 「なにそれ」とかいいながら、同じくパスタ(アラビアータ)をぱくついていた。

 俺は、セットの最後に食後として出された紅茶(ダージリン)を一口飲んで一息つくとアズサに声を掛ける。


「いい店を知っているんだな」

「……そうでしょ? オーナーが趣味で始めたお店なんだけど、元々うちの家で…………有名なレストランで働いていたこともあったんだから」


 アズサがケーキを食べるのを止めて会話に乗ってくる。

 流石にファーストフード店はまずいかと思って、適当なファミレスにでも入ろうかと考えていた矢先に、アズサから提案されたところがこの店だ。

 しかし、途中で言い淀んだ言葉や、誰にも物怖じしない態度を考えるとアズサはお嬢様か何かなのだろうか。


「値段だけは美味しくないようだが」

「……しょうがないでしょ今日は一目につきたくなかったし」


 別の意味であれば感動を覚えそうな言葉だが、学校をサボっている今の状況では言葉通りだろう。


「普段は節約したいからあまり使わないんだけど……」


 そういえば、アズサは金の亡者だった。

 何かお金を貯める目的でもあるのだろうか。

 しかし、昨日は予想外の行動をしていたのを思い出す。


「その割に、賞金は全部カードに変えていたな」

「えぇ、昨日の話でお金の使い道が変わったもの……いいえ、使う必要がなくなった、が正解かな」


 準優勝の賞金は俺の半分の250万だったが、俺が全てカードに変えたのを見て、アズサもすぐに全てカードに変えていた。

 あの時は俺への対抗心かとも思っていたが、アズサにもきちんとした理由があるらしい。


「私、救わなきゃいけない友達がいるのよ。βの終わり際に事故があって……その後ダンジョンに取り込まれて……」


 βの終わり際だと3年程前だ。丁度先ほどの幼稚園ダンジョンができたのもその頃だろう。

 βが終わる際、地上のモンスターは消滅したが、最後にモンスターが抗おうと各所で暴れたので事故が多い。幼稚園が巻き込まれたのも痛ましい事故だ。

 ダンジョンに取り込まれたのが確定しているならば、その友人はその頃の未帰還者の一人だろう。


「未帰還者はたまにダンジョンで発見されるって噂もあったからずっと調べていたのよ。そしたら最近、DDの人たちがデバッグでたくさんの未帰還者を救っているって聞いたから……DDに依頼を出すのにお金が必要で」


 驚いた。アズサは最初からデバッグで未帰還者候補(・・)を救えると知っていたらしい。

 教官にデバッグの説明を聞かずに報酬の話を先にしていたのはそういう理由もあったのだろう。……金の亡者だと思っていた。

 今にして思えば、犠牲と聞いて青くなっていたのも、自分の危険ではなく依頼したDDの犠牲を気にした結果だったのだろう。


「でも、たくさん救えたのは『走破』による未帰還者候補(・・)の帰還だったろ? 未帰還者の帰還は『解放』する必要があるって」

「それよ! 私、未帰還者候補(・・)と未帰還者の区別なんてついてなかった。やっと具体的な方法が判ったんだもの。デバッグに集中しなきゃ」


 それはそうだ。『未帰還者候補』と『未帰還者』を明確に区別するのは協会くらいのものだ。

 俺も、数年前に母さんから初めて聞いた情報だ。一般にはあまり広がっている話ではない。


 しかし、アズサと色々話をしていると勝手な印象で頭が弱そうだとか、金の亡者とか考えていたのは全くの勘違いで失礼な話だった。

 確かにデババトで準優勝できるような細かいデッキの調整や、他者との駆け引きができるところに違和感を感じていたというのに、完全にその点は無視してしまっていた。

 

「すまない。完全に誤解していた。単純にDDとしての結果と報酬にしか興味が無いのかと思っていた」

「唐突になによ。でも……それに謝罪はいらないわよ。実際、最初は報酬が目当てだったし、DDもデババトみたいで興味持ったのは事実だし…」


 心の中の罪悪感を黙殺できずつい口に出してしまったが、アズサは少し気恥ずかしかったのか顔を背け、再びケーキを食べ始めた。


「……そういえば、ナギも賞金を全部カードに変えていたわね。あれだけのお金を躊躇なく使ったから私驚いたわよ」


 アズサは空気を換えようと話題の矛先をこちらに向けてくる。

 その答えは簡単だ。ぎゅっとシャツの上から首にかけたアミュレットを握りしめる。


「あぁ……それはアズサと同じ理由だよ。妹が、アズサの友達の事故の前――βの事故の1つ前の事故で未帰還者になった」


 モンスターはデバッグにより何度か大きく弱体化されているが、その節目節目でモンスターが暴れまわる事故が起こっている。

 過去に4回発生しており、スズが巻き込まれたのは3回目だ。

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