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10話 『走破』

 その後の戦闘は攻防を繰り返しながら進んでいったが、常に優勢に立ち回ることができた。

 そして遂に相手のメインコアに進軍するところまで来ている。


 こちらのモンスターは《シャドウ・ゴーレム》だ。

 バグ部分は何度か消滅させられたが、都度別のバグで対応してきた結果、本体はやられることなくここまで来ている。

 だが、様相は異形になってしまった。

 牛のような角、蝙蝠のような翼、トカゲのような尻尾を生やし、終いには3つ叉の槍を持っている。――完全に悪魔である。

 実際に悪魔の姿のモンスターはいるが、こちらのほうが仰々しい。

 少女も恐怖を感じているのではないだろうか。


 さて、相手のモンスターに目を向ける。

 《ガーディアン・ベア》と《シルフィード・ラビット》の2体のモンスターだ。

 この趣味デッキでは珍しいが、どちらもレアカードだ。

 とはいえ、がっしりとした様子の熊と周囲を動きまわる兎を見ていると、どうにもあの兄妹を思い出す。

 そういえば、今朝は折角迎えに来てくれたのに、結果的に無視したような扱いになってしまって申し訳なく感じる。

 当然学校でも会えていないわけだから、今日の学校終わり――夕方頃には再襲撃を受けそうな気がする。


 もとい、戦闘に集中しよう。

 こちらの方が攻撃力、守備力共に上回っているが、相手のモンスターはレアカードだけあって特殊能力がある。

 どちらも防御力を高める系統の能力だ。こちらがやられることはないが、能力を使われると1回で倒しきることはできないので、何度か戦闘して1体ずつ仕留めていくことになるだろう。

 できれば先手を取りたいところだが、先手か後手かは基本ランダムだ。

 ユニットの能力で傾向が変わる場合もあるが、今回はそのような能力があるユニットはいない。


 すると、《ガーディアン・ベア》と《シルフィード・ラビット》が動き出すのが見えた。

 後手に回ったかと思った刹那、《シャドウ・ゴーレム》も動き出していた。

 

「お! このタイミングで同時になるか」


 同時タイミングの攻撃になると特殊能力を使う間もなく、単純にお互いの攻撃力と守備力のぶつかり合いで決着がつく。


『……がぅ……』『……きゅー……』


 結果として2体のモンスターが床に倒れ伏す。《ガーディアン・ベア》は角や槍を失っているものの健在である。

 相手のメインコアを制圧したのでこれで走破となるはずだ。何か変化があるかと少女の方に目を向ける。


「……」


 少女がこちらをじっと見ている――実際は陰で覆われているので表情は見えないが、明らかにこちら側を向いている。

 ……まさか、これが解放(・・)だろうか。

 思えば、ダンジョンの板の色もかなり薄くなっていたし、恐らく、ダンジョンからの束縛も合わせて薄くなるのたろう。

 思えば、最初から雰囲気が意識的ではあったし、途中途中でも意識的な挙動をしていた。

 選択肢が出ているのならば、迷う必要はなく当然『はい』の一択だ。


「……帰ろうか」


 少女が恐怖心を感じないようにしゃがみ込み声を掛ける。

 今後の扱いには懸念があるが、ひとまずは協会に連れて行けば良いだろう。


 少女から逡巡するような気配があるが、恐る恐るこちらに近づいてきた――


『ぐおおぉぉぉ!!!!!』


 《シャドウ・ゴーレム》が勝利の雄叫びを上げていた。

 ……こいつ、呼吸が必要そうな姿ではないが発声できたのか。

 驚きとともに呆然として見ていたが、ふと嫌な気配を感じて少女の方に目を戻した。


「……っ!」


 恐らく少女の目には手負いの悪魔が勝利に酔い、敗者に向けて哄笑を挙げているように映ったのだろう。

 こちらに近づいてきそうだった気配は露と消え、振り向いて駆け出していった。

 

「……あ!」


 追いかけようとした矢先、少女の姿は闇に溶け込むように消えてしまった。

 恨みがましく《シャドウ・ゴーレム》を見るが、こちらの気持ちも露知らず雄叫びを上げ続けている。


 まぁ、またチャンスはあるだろう。


 気づけば、元々メインコアだった立方体はカードセットとなって床に落ちており、メインコアの背面の壁には出口が出現していた。

 とりあえず今回は走破に成功したものとして満足しよう。

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