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32.私の憂いもなくなったのだわ。

もう驚くまい。リョウはそう決心して、スラムの出入り口に居るインテリアと化したおじさんを見る。

「な、なんですってぇ~!」

リョウは図らずも再び驚愕してしまった。

何とインテリアおじさんが酒瓶を抱え壁にもたれ て寝ている場所が屋根付きに変化しているではないか。

「もう、祭られてるみたい」リョウは元の世界の地蔵を思い出していた。こうして見ると何だか尊い感じがして、思わず手を合わせる。

ご利益は多分無い。


「は!こんな事してる場合じゃ~なかったわ」

本来の用事を思い出して、リョウはスラムの中を駆ける。


「ウル居る?」ウルの家にやって来たリョウ。

「何だお前か!」素っ気ない態度でリョウを迎えるウル。

あの時キスしてくれたウルは幻かしら?

何となく釈然としないものの、リョウは要件を話す。

「本当か?でも俺達料理なんて、、」

「ウルはリリちゃんに、カノンはお母さんに料理作ってたじゃん?大丈夫だよ!」

「でも、俺達スラムの、、」

「それも説明してるし、職員部屋にリリちゃんやお母さん連れて来て一緒に住んで良いって言ってるし」

そう、リョウがナールとの約束の引き換えに、交渉したのだ。


「そう言えばリリちゃんは?」

この家にウルしか居ない事を気づいたリョウはウルに尋ねる。

「今、カノンの所だよ。カノンの母ちゃんがリハビリがてらリリに縫い物を教えてくれるって」

「丁度良かった、カノンの所行くよ」

リョウはウルの手を掴み、カノンの所に引っ張って行く。


「「「リョウさん」」」カノンとカノン母とリリが同時に部屋に入って来たリョウに気付く。

リョウは先程の話しを3人にも伝える。


「本当に僕はやるよ!」

カノンはやる気だ。

「リリも何か手伝う。」

身体が治ったリリも手を上げる。

「私も手伝います。」

カノン母もリリと同じく手を上げる。


ここで全員がウルをみる。

「わかったよ、俺もやるよ!ここまでお膳立てされて、やらないは男じゃ~ね~しな!」

「あれ?ちゃんと男だったんだね?」

リョウはウルの股間をみながら、からかう。


「バズン」

ウルの渾身の一撃がリョウのお尻を襲う。

「いった~だからお尻が4つに割れたらどうすんのよ~」

「だから、けつが4つに割れたら、もう新しい魔物なんよ、、」

「「「あはははは~」」」

リョウとウルの掛け合いに、他の全員が笑う。


「とりあえず、全員荷物まとめてね」

リョウはそれだけ告げると自分のお尻にヒールをかけた。


皆を連れてギルドの裏路地迄「ワープ(転位)」した。全員びっくりしてたけど、しっかり口止めをする。

「リリ言わない!」

リリちゃんの決意表明を笑顔で聞くリョウ。

このメンバーなら、リョウの不利になる事は決して言わないだけの恩もあるし大丈夫だろう。


「ナールさん連れてきたよ?」

「お、早いなありがとう。」

「初めましてナールです20才で料理場を任されてます」

「初めましてカノン15才です」

「ウル15才です」

「リリ12才だよ」

「はじめまして、カノンの母20才です」

「「「え?」」」初対面のナールはおろか、リリちゃん以外全員が固まる。

そんなわけないじゃん、リョウは喉まででかかったが、マリの目を見て黙る。

「これ追求したら絶対アカン奴や!!追求したら全滅するで~」

マリは最早魔王もかくやと言う顔をしている。

ナールやウル、息子のカノンでさえもスルーの方向で行くようだ。


「職員の部屋に案内しますね」

ナールは足早に職員の部屋へと案内する。


部屋にはベッドが2つと洗面台だけある。

風呂&トイレは共同だが、男女別になっていた。

食事は酒場の厨房で賄いが提供される。


少し狭いが雨風を凌げ、風呂&トイレがある分スラム暮らしより、余程マシだろう。

「マリさんとリリちゃんの身体の状態はリョウ君から聞いているので、出来る範囲でお願いします、決して無理はしないようにしてくださいね」

ナールの言葉にカノン母は深々頭を下げ、それをみたリリも頭を下げる。


「カノン君とウル君はこっちでやり方教えるから、野菜の皮剥きから始めよう」

「はい」「うっす」

二人の返事に笑顔になるナール。自分が料理の手伝いを初めた頃を思いだしていた。


「さて、じゃ~ナールさんよろしくね」

リョウは南門に向かうべくギルドを出る。


リョウの後ろ姿を全員が頭を下げて、見送った。

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