31.料理人の憂いなのだわ。
リョウはギルドに戻ってきた。ナールと話合う為だ。
「ナールさんいる?」リョウが酒場の厨房に声をかける。
「リョウ君か?今ちょっと手が離せ無いから厨房の中迄来てくれないか?」
ナールの声が聞こえリョウは厨房の中迄入る。
厨房の中では、ナールが一人であれやこれやと忙しく料理を作っていた。
「凄い量ですね」
リョウは思わず呟く。
「先月迄もう一人居たんだけど、辞めちゃってね、、それからは僕が一人でやってるんだ」
「それであの貼り紙なんですね?」
「そう、新しい料理人とか給仕を募集してるんだけど、なかなかね。冒険者ギルドは荒くれ者も多いし、来ても直ぐ辞めちゃって、、」
料理の手を止めずナールはリョウに返事を返す。
「ギルドマスター右手治りましたよ」
リョウがそうつげると、今迄手を休める事のなかったナールが手を止めリョウをみる。
「本当かい?」
ナールは震える声でリョウに聞き返す。
「本当です、今頃喜び勇んで防具を調整してますよ」
からかわれたリョウはお返しとばかりに少し誇張してナールに伝える。
「良かった、、本当良かった、、」
ナールは泣きながらリョウの手を握る。
「ありがとう、本当にありがとう、、、」
元Aクラスの偉大な冒険者の輝かしい未来を自分が奪ってしまった。その事がどうしてもナール自身許せず、負い目に感じずっとナールの心を痛めていたのだ。
ナールは、リョウの手を掴み涙をながしながら、しばらく動かなかった。
「パチパチ~」
「ナールさん何か焦げてません?」
リョウの指摘に顔を上げ、「しまった!」と鍋に向かう。
ギリギリ鍋の中身は無事だったようだ。
「ナールさん例の約束お願いしますね?」
リョウはナールに告げる。
「リョウ君が約束を守ってくれたんだから、僕も何をしてでも守るよ」
ナールは爽やかな笑顔でそう言った。
「この防衛&殲滅作戦で、一般の人達にも説明が回っているから、軒並み商店街の店が閉まってるんだ」
そう言えば、ギルドに戻る途中の店は閉まっていたな~とリョウは思いだす。
「だから、作戦に関わる人達の食事を一手に引き受けてるから忙しくて、、」
確かに大人数の食事を用意するのは大変だ、だからといってパンと水だけでは冒険者達のモチベーションも下がるだろう。
「もし可能なら、今からでも連れて来て欲しいよ、ギルドの職員部屋も空いてるし」
「わかりました、聞いてみます」
「よろしくねリョウ君」
ギルドを出て裏路地でリョウはスラムの出入り口に転位した。




