28.ギルドマスターの男気だわ②
「そうだろ?俺もそんな冒険者に憧れ、そして冒険者になったんだ。あの日自分が助けてられたように、自分も弱い者を守る冒険者になりたくて」
「無事になれましたね」
「なれたかどうか?今でもわからね~よ。ただ自分の生き方は間違っちゃいないつもりだ」
「なれてますよ大丈夫です」
リョウがそういうと、ギルドマスターは照れ隠しか?リョウの頭を乱暴にガシガシ撫でる。
「まぁ、だから今回も何もしないで奥に引っ込んでる訳にはいかないんだよ、俺の性格上もな」
そう言われリョウは納得した、見た感じは強面で厳ついおじさんだけど、中身は優しい人なんだと。
「わりぃ~話長くなったな、俺は準備しに行くわ、リョウもしっかり準備しとけよ?」
「わかりました」
ギルドマスターは後ろ手を振りながらギルドを出て行った。
「人に歴史あり。かぁ~でも何か違和感が、、、」
「人に歴史あり。面白い言葉だね」
突然自分の言葉に返答されたリョウはビクっとなった。
「ごめんごめん、驚かせってしまったかな?」
声のする方を見ると先ほどリョウが座っていたギルド併設の酒場のカウンター奥から男が出てきた。
「初めまして、リョウ君で良いのかな?」
「はい、リョウです」
「僕はナールです、この酒場の調理担当なんだ、ギルドマスターの話が聞こえて来てさ」
「あぁ~そうだったんですね」
調理担当のナールはまだ20代後半だろうか?
シュッとしていて、スマートな体型だ。
リョウのタイプではなさそうだ。
「ギルドマスターの右手が無い理由は僕なんだ」
おもむろにナールが語りだした。
「4年前、僕がまだ駆け出しの料理人だった頃料理に使う薬草を取りにいったんだ、少し森の奥に入ってしまってデビルタイガーに出くわしたんだ、5メートル位あったかな?僕は死を覚悟したね」
ナールは目を閉じながら、一息つく。
「その時、ギルドマスターが助けてに来てくれたんだよ、当時はまだギルドマスターではなかったけどね」
「ギルドからデビルタイガーの討伐依頼があったそうで探してたんだって、そこに教われてる僕と遭遇した」
「ナールさんは運が良かったんですね」
「そうだろうね、でもギルドマスターには不運だった、僕を守りながらデビルタイガーを倒したけど、その代償に右手をデビルタイガーに噛み千切られたんだから、、、」
「その時だったんですね、、」
リョウは相づちを打つ。
「上級ポーションでも有れば、欠損でも治るらしいけど、その時ギルドにも治療院にも中級ポーションしかなくて欠損は治らなかった、教会にもエキストラヒールを使える上級司祭も居なかったしね。」
遠い目をするナール。
「2日たってにギルドが上級ポーションを取り寄せしてくれたけど、上級ポーションを使っても1日以上経過すると、治らない確率の方が高いらしくて、、」
「だからギルドマスターの右手は治っていないんですね?」
「そう、それから何回か上級ポーションやエキストラヒールを使って試したみたいだけど、、」
ナールの表情が歪む。
「それから冒険者引退にともなってギルドマスターに抜擢さるたんだ、ギルドマスターは俺に「気にすんな、これも俺の運命だから」って謝る僕に言ってくれるんだ、でも、、、」
「たまに夜に人の居ない酒場で酒を飲んで、右手をジット見てる時があるんだ、、僕は片付けとかあって夜遅くまで調理場にいるから、見てしまったんだよ」
ヒールの目から涙が溢れている。
その後ギルドマスターの話を色々聞いた。
ギルドマスターになってから、教会と交渉して上級司祭が常駐するようにしたり、ギルドに上級ポーションをストックしたり、自分の経験から色々改革をしているらしい。
「だけど、本当は冒険者として心半ばで引退したから、心の何処で悔いが残ってるんだと思う。だから、さっきみたいに死に場所を探してるような言葉が無意識にでるんだと、、」
リョウはギルドマスターの「ゴブリンの20匹や30匹位道連れに」の言葉を思い返していた。
違和感の正体は豪快なギルドマスターの無意識の死に場所探しだったのかと。
リョウが考えながら辺りを見ていると、酒場の横に貼り紙を見つけた。
「あの~ナールさん相談があるんですが?」
「僕にかい?」
その後ナールと長く話をする。
「本当に君がそれ約束してくれるなら、君との約束を僕も守るよ、僕の全てを掛けて」
「わかりました、では行ってきます」
リョウは早速ギルドを後にする。
「リョウ君、、頼んだよ」
ナールの呟きは誰も居なくなった酒場へと消えて行った。




