毒電波
俺の名前はT男。
現在、学生でバイトをしている。
といっても今日は土日だし、バイトも休みだからすることがなくて暇だ。
とりあえずお気に入りのゲームでもすることにした。
するとスマホがいつもの着信音に不協和音が混じって突然鳴りだした。
なんだろう?
その瞬間俺の記憶がプツリと消えてしまった
朦朧とした意識をはっきりさせると俺はバイト先で仕事をしていた。
「え...」
よくわからない状況に俺はめちゃめちゃ混乱した。
「ありがとうございました!またのご来店をお待ちしております!」
俺の今やってるバイトは飲食店のチェーン店だ。
つい最近前やっていたバイトをやめてここに乗り換えた所である。
主に丼系提供していて、お昼と夕方辺りは人が多い。
言うほどではないが、少しの列ができることもあるぐらいだ。
しかし、実際に店員になってみるとかなり大変なものだ。
...悩んでいても仕方がない、とりあえず今は目の前の仕事を片付けることに専念した。
少し時間がたち人入りが途絶えたあたりで、俺より10歳以上年上の先輩であるK氏と一緒に仕込みにまわった。
そういえば
「先輩、今日って自分休みじゃないんですか?」
「何を言っているんだい?君は今ここで働いているだろう」
確かによくよく考えてみればおかしな質問だ。
そこで俺は気がついたらバイト先に来ていたことを思い出した。
「先輩、気がついたら仕事をしていたんですけど、これ実話って言ったら信じますか?」
と俺は冗談交じりで先輩に話すと。
「...そんなこと言ってないで仕事に集中したらどうだ?」
と少し低い震えた声で俺に返してきた。
「すいません...」
すこし怖い感じがして萎縮してしまった。
休憩時間がやってきたのでスマホを取り出したのだが。
「え!?圏外??」
余りにもびっくりした俺はついに声に出してしまった。
するとたまたま声の届く所に居た先輩が。
「...この辺の電線は今工事中なんだ、すまないがスマホはしばらくの間使えない」
「へぇ、そうなんですね~ちなみにいつ終わるんですか?」
「...わからない、終わりそうだったら教えるよ」
今日の先輩はなにか暗い。
先輩がバイト初日に教えてくれた時は、もっと明るく優しい人だった。
「明日は休みか」
シフト見ながら小声でそうつぶやく。
ほどなくして休憩時間終わると。
「オハヨウゴザイマス」
と異常なほど明るい声で三カ月ほど前から働いていた一つ年下の知り合いY君が来た。
「おはよう...」
Y君のこと完全に知っているわけではない、まだ数日しか話したことないからだ。
だけど、仕事しているときはなんというか暗い感じなのだ。
少なくともこんなに明るい声を出してくるような人ではないことはわかる。
俺は違和感を残しながら仕事に戻った。
退勤時間がやってきた、俺は次のシフトの人達に引き継ぎして店を出た。
「お疲れさまでした」
店から出ると、なんとY君が突然スマホをあらぬ方向に投げ出した。
「!?...おいお前、何やってんだよ!」
異常事態を目の当たりにした俺はY君に腕を掴んで怒鳴ってしまった。
「...お願いだから誰にも言うな!」
すごく怯えた声そう残して俺を払いのけそのまま逃げてしまった。
他の誰にも言うな?スマホ投げたことを言ってるのか?
なにかと不信感があったが、もう今日は疲れたそのまま家に帰ることにした。
「おかえりなさい。今ご飯つくるね」
家のドアを開けると母が出迎えてくれた。
急にバイトに行ったことについては聞かないのか?
しかし家につくと安心する、帰宅途中の違和感や不信感なんてものは忘れられた。
俺は一息ついてスマホに目を通す。
「悪徳営業の毒電波!逸早く被害者を減らすための相談を!」
「学生等の特にスマホを持つ、若者を狙った毒電波が流行していることがつい最近話題になっている。」
「スマホのセキュリティに無理やりアクセスし、不協和音と共に電話をかけてくる。」
身に覚えがある記事を見つけた。
確かあの電話はいつもの着信音に不協和音が混じって流れきた。
さらに読み進めていくと
「症状はただ一つ、ある日歩いた覚えもないのに突然職場に来てしまったこと。」
「毒電波は主に人手の足りない飲食店が扱ってることが多い。」
「毒電波を受けたスマホはしばらくの間どこの電波も受け取れず圏外になってしまう。」
「我々PWE相談所は被害者を減らすための撲滅活動を行っています。少しでも身に覚えのあるかたは相談をお願いします!」
なんてことだ、完全に身に覚えしかないじゃないか。
俺は急いで相談するための情報得ようと「PWE相談所」と検索した。
がそのときスマホがいつもの着信音に不協和音が混じって鳴りだしたのだ。
「やば...い...!?」
俺の意識は途切れてしまった。
目を開けると俺は自分の部屋で机に向かって勉強をしていた。
いや、よく見ると勉強ではなかった。
「私はお客様のありがとうのために一生懸命働きます。私はお客様のありがとうのために一生懸命働きます。私はお客様のありがとうのために一生懸命働きます。私はお客様のありがとうのために一生懸命働きます。私はお客様のありがとうのために一生懸命働きます。私はお客様のありがとうのために一生懸命働きます。私はお客様のありがとうのために一生懸命働きます。私はお客様のありがとうのために一生懸命働きます。私はお客様のありがとうのために一生懸命働きます。...」
これ以降も同じ文章が綴られている。
「これは...俺が書いたのか...?」
気づくと俺は右手にペンを持っていた。
身の危険を感じた俺は、急いで「PWE相談所」に相談するためになぜか左手側にあったスマホを手にしたが、毒電波の受けたスマホは圏外になってしまっていた。
仕方なく俺は親のパソコン借りるべく、母親の部屋に頼みに行った。
「PWE相談所」の場所や連絡方法等を一通りまとめたら、気づけばもう日を超していた。
そろそろ寝る時間だ、俺は自室に戻った。
俺は改めて癖でスマホを持ってしまうが、ここでふと気づいてしまった。
「そういえばYの奴スマホ投げてたよな、っというかスマホ自体壊しちゃえば毒電波なんか受けなくね」
どちらにせよ相談しにいくことには変わりないが、俺は窓を開けてコンクリートのある場所めがけてスマホを振り下ろした。
「さすがに壊れたろ...」
わりと値のついてたスマホだったけど、まぁまたバイトして買えばいいだろう。
そうして俺は眠りについた。
朝がやってきて必要なもの持った俺は「PWE相談所」へと家を出ようとした。
「あっ...」
なんと、ドアを開けるとそこにはバイト先の先輩が居た。
「...あ、えっとすいません...今日は体調悪いので病院行くつもりなんですけど...」
と苦い顔で言い訳する。
先輩は真顔と無言のままだ、それに俺のスマホを握りしめている。
「...」
なんだこの感じは。
「...」
今にもこの場所を離れないといけない気がする。
「...」
身の危険を感じ逃げようとした瞬間不協和音が混じった着信音が耳に流れてきた。
「ニゲラレナイヨ」
気づくと俺はバイト先で働いていた。
逃げだせばいいんじゃないかって?あれから何度も試したよ。
耳に補聴器のようなものがついてるから、無理なんだ。
逃げればあの音がまた流れてくるんだ。
毒電波が。