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3.惚れてしまいました?

 だって、しょーがないじゃない。免疫なんてないんだもん。

 中学まで碌に同年代と喋った事なかったんだもん。


 私の現実は家の中だけだった。

 一歩外に出れば、そこはTVの中と同じ虚構な世界だ。

 いつだって傍観者、そんなヤツを気にする者はいない。

 売れてないタレントさんだって観客席のお客は気にしても、その先にいる個人にまで気を回す事はない。

 個人の声は大切だぞって言うヤツ。

 それは間違えだとはっきり言おう。だって、声を上げた以上、それは傍観者じゃなくなるんだから。


 私は傍観者から抜け出そうとして来なかった。

 それに理由があったとしても全面的に自業自得、それは素直に認めよう。

 でもだからって、そんな簡単に堕ちてんじゃねーよっ! って、責めるのだけは止めて、私のSPもう0なのよ。

 今、ありとあらゆる菌に対する免疫も活動してない自信がある。


「さ、さ、殺気ちゃうわ!?」

「いや、間違いなく殺気なんだが……」

「違うのよ。人とあんまり話した事ないから身構えちゃって」


 くぅぅ〜凄く恥ずかしい。

 何でいきなり恥部晒さないといけないの? 


「ボッチカミングアウトかよ」

「悪い」

「悪くねえけど笑える。お前みたいな美人がボッチなんて普通有り得んだろ。初めはお嬢様かと思ったぐらいだ」


 ボッと顔が熱くなる。

 美人なんて言って貰えた事なんて今までなかったし、鏡を見たってもうちょっと柔らかな表情になりたいと思ってたくらいだ。

 それなのに、それを言ってくれるのが特上の美形なのだから嬉しくないはずもない。

 口はあまり良さそうではないが嫌味はない。それくらいなら許容範囲だろう。


「何、貴方取り敢えず女は褒めておけって考える人?」

「思った事をただ単に口にしただけだぞ。別に褒めてるつもりは無いし、口説こうって魂胆もねえな。今はまだ」

「今は?」

「おおよ、俺は顔だけのヤツに興味は持てねえんだ。アンタに声を掛けたのはその殺気が気になってな。少なくとも顔だけじゃない女っぽいからな。どんな女なのか知りたくなった」

「単なる田舎者よ。世間知らずってトコはお嬢様に近いかもだけど、普通の一般人」


 あ"あ"あ"あ〜可愛くない。

 猛烈に可愛らしさの欠片もない…。

 折角、興味を持ってくれた美形に対して私はなんて対応をしているのだろうか。

 今はっきり分かったボッチは病気だ。

 全国のボッチ諸君、拗らせる前に早く治療しておきなさい。きっと後悔するわよ私みたいに…。


「プッ、くくく、面白いなアンタ。一般人にはあんな殺気だせねぇよ…相当強いだろ? なんかヤッてんのか?」

「祖父からちょっと剣術を習ってたぐらいよ。多少の腕はあると思うけど」

「ほう、剣道じゃなく剣術か。そりゃあいいな。ちょっと失礼するぞ」


 ガツっと私の手を取り指で掌をなぞる。


「な、な、なぁー!?」

「なるほど、こりゃあ確かにお嬢様の手じゃないな。イイよお前すげーイイ。なぁ、俺とヤらないか?」


 多分、クラス連中全員聞き耳を立てていたのだろう。

 その言葉と同時にガタっと音が鳴り、一斉に視線がこちらに向けられた。

 まあ、これだけの美形だ注目も集める。

 で、ヤろう発言だ。

 そりゃあ誰もナニをと思って当然だよね。

 当事者の私には試合をとしか思えず勘違いのしようがないが、周りには『男女の営みをかっ!』ってなってる事請合いである。


 このまま勘違いから既成事実を結んでしまえば、私もリア充カースト上位の仲間入り、むふふラッキー♪ 

 ……なんて、思えるかぁー! 現在進行系のボッチを舐めるなよ。

 集まる視線だけで心臓バクバク、震度1、マグニチュード2.0くらいの地震なら起こせそうだ。

 これ以上、耐えられそうにない。

 今、南海トラフ地震が起きたらきっと私の心音が呼び水になったんだ。

 男の手を払うと逃げるように、否、実際に廊下に逃げ出した。


「おい、何処行く気だ?」


 慌てて、私の後を追ってきたハンサムメンはまたも私の手を掴み引き止める。


「分かんないけど、取り敢えず保健室?」


 あんな針の筵にいるくらいなら、何処でもいいわよ。


「取り敢えずなら教室戻れ。……その悪かったな。もう変な事しねえから」


 バツの悪そうな顔して謝り、


「初っ端のHRにいなけりゃ、マジでボッチ継続になるぜ」

「うん、そうなんだけど…」

「大丈夫だ。今度は勘違いされない様果たし状を叩きつけてやるから」


 果たし状って…まさかと思うが、この人試合でなく死合を望んでたりしない…よね? しかも、果たし状がラブレターに勘違いされるとか…あったら私はもう学校来れない。


「じゃ早速果たし状作成するからよ。俺は山名儀仁(ヤマナギジン)だ。ジンでいい。宜しくな」

「試合なら受けるから果たし状止めて、何か嫌な予感しかしないから。私は神城美利奈よ。こちらこそ宜しく」

「おう、うん? 神城? 神城ってまさか神薙流か?」

「そうだけど、よくこんなマイナー流派知ってるわね」


 祖父は刀マニアの一部の金持ちには有名だが、一般には殆ど知られていない。

 祖父を知ってる者でも流派まで知ってる者はほぼいない。既に滅んだに等しい流派なのに知ってる者がいるとは驚きだ。


「ウチ流水と天炎があったからな。凄え美しい刀だった。俺が武や剣に興味を持ったのはあのニ刀を見たからだ。で、製作者から探っていったら神薙流に行き着いた」


 流水に天炎!? 祖父が自分で打った刀の中で最高傑作と認めている名刀じゃない。

 流石に国宝である天下五剣には及ばないが、名刀と呼ばれるものの末席に位置していると評価を受けている。

 ニ刀一対の刀で市場末端価格で4000万だった。

 どれほどの人を渡り歩いたかは分からないが、現在なら倍以上の値段になってるはずだ。そんなモンを子供の目がつく所に置いておける家って…


 美形の上に金持ちボンボンか、これは望み薄ね。

 今は未知な私の力に興味を持っているようだが、一度手合わせすればその力は大体分かる。

 そうなればジンの私への興味は無くなるだろう。

 まあ、引き延ばして長々夢を見るもんじゃないわね。さっさと終わらせよう。


「でも、試合ってドコでやる気? 下手なトコでヤルと問題になるんじゃ」

「それは問題ない。剣道部の道場を借りられるからな」

「部員でもないのに?」

「俺、もう入ってるし」


 ああ、ジンは中等部から上がってきたのか。


「ただ一つだけ問題がある」

「?」

「真剣がない」


 ……コイツ、マジで死合うつもりだったんかい。


「いやいやいや、殺し合いなんて受ける気ないわよ。竹刀でいいじゃない」

「それじゃ、本当の強さが分からないじゃないか」

「あのねぇ、そんなん道場でヤル以前の問題よ。そんな顔して馬鹿なの?」

「顔と頭の良さは比例しない」


 キリッと馬鹿を認めちゃったよ……流石の私も引くぞ。


「もう何か全てがどうでもいい……。本当の強さ? 笑わせないでね。真剣エモノなんてなくても思い知らしてあげる。ちょっとやり過ぎちゃっても恨まないでね」


 この時、私の顔はエグい事になっていただろう。

 だって、私は怒っていた。

 乙女の初恋をなんだと思ってるんだコイツ…と。

 勉強が出来ない事は別に良い。それは馬鹿とは違う。

 けど、本当の馬鹿はダメだ。百年の恋も冷める。


 ぷちっと、ぶっ飛ばして新しい出会いでも探そう。

 私の恋は終わった、たった15分程度の時間で……そう思ってたのが懐かしい。

 本当の終わりは10年以上経ってからだというのに。




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