15.ジンの回想②
重いと感じるかもしれません。
point of view∶ジン
さて、次は……避けて通れないな。
俺はリナを今でも愛している。
アイツが俺の事をどう思っても、この先変わらない。
その上で認めよう俺はクズだ。
これは俺の懺悔だ。
神様がいるなら是非聞いて貰いたい。
許される、許されないの問題ではなく、一人のクズがクズだと知って認めた物語として。
俺がリナと出会ったのは、高校に入ってからだった。
初めは顔の良いだけのお嬢様かと思って興味無かったが、周りの様子を見ていると少し異質な事になっているのに気付いた。
リナに話し掛けようとしている者が皆、直前で挫折して諦めてしまうのだ。
何やってんだ?
そう思いリナに近づいてみると、全身を突き刺すような衝撃が走る。
あぁ、これか。
実際これを認知出来てる者なんて俺以外にはいないだろうが、こんなモン浴びせられたらそれは及び腰になるわな。
一言で言えば、これは拒絶だ。
誰でもある程度の近寄るなオーラは出せるが、誰でも出せるようなものは空気読めないヤツなら簡単に突破出来る。
だが、これはレベルが違う。
どんなヤツでも近寄ったら殺されるんじゃないかと不安になるレベルだ。
俺だって全身鳥肌が立ってる。
__おもしれぇ。
これだけ殺気出せるヤツなんて見た事ない。
どんだけ強いんだ? コイツ。
興味が恐怖を上回る。
話し掛ければ喧嘩になるかもしれない……そうすれば俺は確実に負けるだろう。
「お前、何でそんな殺気ばら撒いてんの?」
ビビってる事がバレない様に極めて軽く攻める。
「はひっ!?」
毒気が抜かれた瞬間だった。
近くで見るリナの顔は怒ってるのでも、拒絶しているのでもなく、緊張で強張っていただけだった。
これは何処にでもいる内気な女の子だ。
それが理解出来ると鳥肌がスッと引いていく。
恐怖が無くなり、俺の中に残ったのは彼女に対する興味だけになった。
俺の顔は女を惹き付けるのに長けたものであると、小さな頃から理解していた。
中学に上がってからは年代問わず女が寄ってきた。
だから、経験値が違う。
どんな女だとしても、俺が惚れる事はない。
女が勝手に俺に惚れるのだ。
ならば、何しても良いではないか__そんな考えはリナと付き合っても、変わる事は無かった。
我ながら酷い考え方だ。
だが、そんな俺をリナは認めてしまった。
高校生だった時から俺の浮気癖をリナは見抜いて言っていた。
「アンタの事を本気で好きな娘だったら、絶対に手を出すな。それ以外なら私にバレないようにしろ。それが守れないほど好きになってしまったのなら言え、これでもかってくらい殴った後別れてやるから」
と。
浮気がバレた時、リナは必ず浮気相手と面を突き合わせ本気かどうかを確認してきた。
恐らく相手が本気だったら、あっさりと身を退くつもりだったんだろうが、俺の女を見抜く能力に抜かりはない。
勿論、俺は半端なく説教という名のしごきを受けてきたが終れば許してくれた。
だから、俺はリナに甘えてきたんだと思う。
許してくれるんだから良いんじゃね? と。
俺はリナの本心に気づく事なく高校卒業して、大学入学と同時にリナとの同棲生活を始める。
そして、そんな生活が4年続き、卒業目前に起こった事件が全てを狂わせた。
リナの実家が豪雨による山崩れに巻き込こまれたのだ。
その事故でリナの祖父と義母が亡くなった。
そして父親は何とか一命を取り留めたものの、右腕を失ってしまった。
あの時のリナの憔悴具合は酷く、気丈なリナの心が壊れてしまうんじゃないかと思ったものだ。
リナの心は硬く強い。
それは間違いない事なのだが、柔らかく柔軟性に優れたものより脆い。
そんな当たり前の事に俺は気付かず衝撃を与え続けて来たのだ。
そこで俺は反省した。
元よりリナ以外に大した執着もなく、惰性で動いてただけなのだ。
だから、卒業したら結婚しよう。俺はお義父さんに弟子入りするから__そうリナに伝えた。
リナの祖父から義父に伝わった技術は無くすには惜しい。
本気で思っていたので、婿入りする事も職人の世界に入る事も思う所なく受け入れられた。
実家の事業も兄と弟がいるので、父には自由にしろと言われていた。
だが、俺は知っている、誰よりもこの父が俺の弟子入りを喜んでいる事を、喜んでなければ生活援助を申し出たりしない。
父は生粋の美術品コレクターだ。
だから俺の成功に期待したのだろう。
こうして俺とリナは誰からも祝福されて結婚した。
この時は俺もリナもそう思っていた……だが一人だけ、祝福の仮面を被っていた者が居た。
ここでそれに気付く事が出来ていたなら、大きく運命は変わっていたのに。
結婚一年目は、これ以上なく順調だったと言える。
田舎に来た事で人との接触が減った事により、俺の悪癖は完全に眠りについた。
だが、それが最大の要因ではなかったと思いたい。
幾ら俺や相手が共に遊びだったとしても、やられたリナは心に傷を負う。
それが分かったからというのが最大の要因であるはずなのだ。
それが証拠に当時のリナはとても良い顔をしてた。
同棲時にこんな顔をしていたのは、祖父やお義父さん、義母の話をしている時ぐらいだったのに、今は毎日その顔を俺に見せてくれる。
幸せを噛み締めていつまでもこんな時が続けば良いと、柄にもなく思っていた。
その幸せが壊れ始めたのは、リナの義妹が大学を卒業して戻って来てからだった。
リナの義妹、名は神城麻里奈。
義母である真由美さんの連れ子で、リナとは血は繋がっていないものの、リナは麻里奈を実の妹のように可愛がっていた。
麻里奈はリナのような美人タイプではなかったが、可愛い顔立ちで巨乳、男心をこれでもかと刺激するタイプだ。
はっきり言ってこんな田舎に戻ってこない方が、彼女にとって良かったはずだ。
それでも戻ってきた理由、それは俺であった。
リナの居ない所でのアプローチは強烈で、事有る毎に俺に迫ってくる。
始めは彼女の真意を見抜いていた為、俺は軽く流していたのだが……。
リナが妊娠した事により、俺の悪癖が再び目を覚ました。
半年も過ぎると、俺も溜まり始め悶々とする日々が続く。
そんな中、麻里奈のアプローチは日々強烈になり。
麻里奈の真意が、義姉のモノを奪う事で自尊心を満たしたいという事と知っていた俺は悪魔の囁きに耳を傾けてしまったのだ。
__自分の事を本気で好きでないなら手を出して良いんじゃないのか?
__リナにバレなきゃ大丈夫、なーにたかが浮気だ。
__俺も満足、麻里奈も満足Win-Winで何を躊躇う。
傾いた天秤は重りがなければ釣り合いは取れなくなる。
リナという重りを投げ捨ててしまった俺は、麻里奈に色々な意味で乗っかってしまったのだ。
一度してしまったら、二度目からは抵抗感はなくなり、リナが不在の度に俺は麻里奈と情事を繰り返す。
麻里奈がその時をジッと待っているのも気付かず夢中になって、身体を貪った。
そして、リナにバレた。
病院に向かう途中で忘れ物に気付いたリナは戻ってきて俺達を見つけた。
一瞬、呆然としたが、すぐに汚物を見るような目で俺に視線を向けると、黙って走り外に飛び出した。
身重なその身体で……。
「クスクス、あーあバレちゃった」
愛らしかった麻里奈の顔が邪悪に歪んでいた。
結局、その事が原因でリナは流産した。
後日、落ち着いたリナと話す事が出来たがそこで三行半を突き付けられた。
それからの事はよく覚えていない。
全身を無気力に囚われ、何も出来ずに俺は実家の部屋に引き込もってしまった。
そして一年後、俺に追い打ちをかけるニュースが飛び込んできた。
リナと麻里奈、それに義父が亡くなったというニュースが。
何があったのかその場にいる事が許されなかった俺には知りようがない。
否、はっきり言えば、生きる気力さえ残っていれば真相に辿りつけたはずだった。
しかし、全ての生きる理由を無くした俺は自ら命を断った。
そして、次に意識を取り戻した時に俺は聖剣になっていたと言う訳だ。
この手で抱いてやる事も出来なかった情けない父親に力を貸してくれ、お前の母を護る為に。
俺は必ずリナを護ってみせる。
もう何の罪もないアイツに不条理な死は与えない。
書いてて重かった。
あれどーしてこーなった。