14.ジンの回想①
point of view∶ジン
俺の名は神城仁。
正直、この姓を名乗っていいのか微妙な所なんだが、取り敢えずまだ旧姓に戻らない事にしよう。
さて、まず何から話そうか?
そうだなリナかいる世界について語る事にしよう。
まだ元奥さんも気づいてない世界について。
でもまあ聡いアイツの事だ。
俺がやっていた時少し見ているし、もうすぐ気づく事だろう。
あの世界はこっちでは『ブレイブクロニクル』というRPGだった。
このMMORPG主流の世の中で単大陸のスケールの小さいゲームだ。
はっきり言えばクソゲーと呼ばれていたが、チュートリアルで初見殺しをぶっこんでくる極悪さが一部のマニアに受けたってゲームだ。
全体的なストーリー構成も並。
ゲームシステムも並。
秀でていたのは女性キャラだけだが、俺は一人のお気に入りキャラがいた事であのゲームをやっていた。
えっ誰だって?
聞く必要があるか? ミリーナだよ。
可愛い系の顔に巨乳、清楚系のゆるふわタイプ設定。
何か男の欲望をギュッと凝縮したような設定だが、俺は見事に乗せられた。
あ、これだけは言っておかなければならないか。
あのゲーム、主人公の他に3人のメインヒロイン候補にファーストネームだけはプレイヤーが決めらる仕様になっていた。
だから、俺はお気に入りのヒロインに、元妻の美利奈に掛けたミリーナと名付けたんだ。
設定から言えば、ミリーナはリナっぽくない。
リナは若干目付きは鋭いが誰が見ても美人だった。
胸だって超はつかなくてもそれなりあったし、性格だってちょっと気が強いトコはあるが、リナの魅力にはカンフル剤にしかならない。
女性として魅力に溢れているのに、本人評価が著しく低いのも良かった。
自他元妻も認める巨乳好きの俺が本気で惚れた唯一の女だ。
おっと話がマズイ方向に向かってるな。
修正するから、何でそんなに惚れてんのに離婚れたんだ? って質問はしないでくれ。
話を戻すとブレイブクロニクルがクソゲー認定されたのは、チュートリアルの初見殺しに関わるが、それだけじゃないって事だ。
まずチュートリアルの初見殺しだが、剣を引き抜いた勇者が北の森の勇猛犬を倒す所までになる。
そうたった今、ミリーナが倒した魔犬だよ。
つまり、ミリーナ達はチュートリアルを終えたって事だ。
初見殺し要素あったか? って思うだろ?
それがあったんだよ。
ゲームには…
まず聖剣を抜くのはミリーナじゃない。
当たり前の話だが、聖剣を引き抜くのは主人公である勇者だ。
ゲームなら抜いた直後に森に向かうかどうかの選択肢が出てきて、yesを選ぶとすぐに勇猛犬との条件バトルが始まる。
チュートリアル中のバトルなら、操作説明がてら行われるから普通は簡単に倒せると思うだろ? けど勇猛犬はLv.1で倒せるような設定になってなかったんだ。
で、他のプレイヤーは何だこれ? ってなってプチ炎上。
それでも選択肢があったのを思い出したヤツがNoを選ぶと、外でLv上げが出来るようになってたんだ。
外の敵もLv.1じゃ倒せないほど強い設定だったが、聖剣持ち補正で1回は戦闘に勝てるようなバランスだった。
そしてLv.10ぐらいまで上げたプレイヤーが再び、勇猛犬に挑むとまたボロ負ける。
気合いでLv.20まで上げた猛者もいたがそれでもチュートリアルを抜けられない。
バグだろうって声がネットに溢れたがメーカーからは何のアナウンスもない……金返せって声で二度目の炎上を引き起こしライトユーザーは離れて行った。
と、ここでやっと猛者達の中からチュートリアルを抜けたって声が上がり出す。
聖剣を抜いた後、街の中に隠れているミリーナを仲間にしないとクリア出来ない仕様だったんだよ。
ミリーナを仲間にすると、チート級の魔法一発で勇猛犬は全滅。
そしてミリーナさえ連れていけば、ラスボス近くまでサクサク進めるクソ仕様だった。
一部からはチュートリアルゲーって声も上がってな。
まあミリーナを外してヒロイン候補二人とエリーゼの4人パーティで進めれば丁度良いバランスだったんだが、ミリーナは人気No1だったし、ストーリーを進めたいだけのヤツは楽だからコレはコレで有りって擁護派も出てきたんだよな。
けど、この後ラスボスが発覚すると擁護派も一斉に掌クルンする事になる。
なんてったってラスボスがミリーナなんだから……。
まだ、ラスボスになったミリーナを救うとかだったら良かったのに、このメーカー100%ミリーナとエリーゼが救いのないストーリーに仕上げていましたわ。
これには、ミリーナ推しとストーリーサクサク派が怒りMAXになって大炎上。
ミリーナ派はヒロイン候補でも何でもなくラスボス。
だったら初めからヒロイン感出すなよって話になるわな。
ストーリーサクサク派はラスボスになったミリーナが抜けた所為で、全体的なLvが足りなくなり、クリア不可能になって巫山戯るなと。
ここまで楽してきたヤツがレベル上げなんてやるはずないんだからこっちも当然の反応だ。
さて、この話。
俺がゲームとしてやっていた時は呆れながらも笑い話にする事が出来た。
だが、気づいた聖剣になってた俺はどうすれば良い?
動けずただただ時が経って行くんだぜ。
笑い話にもならん。
どんな罰だよって思ったけどさ。
じっくり考えたら、俺はそれだけの罪を犯したんだなって、そこで初めて気づけたんだ。
甘んじて受け入れよう……そう決めた時に現れたのがエリーゼを連れたミリーナだった。
それだけならあぁもうすぐこの試練も終わるのかって安心出来たのに、神様はまだ俺を許す気にはならなかったみたいだ。
ミリーナの中にリナが見えちまった。
転生お決まりの特典か、一発で分かったよ。
コイツはリナだって……同時に背筋が凍った。
このままだとリナが死ぬ。
駄目だ二度とリナを殺させたくない。
その一心で導いた答えは、リナを勇者にする事だった。
聖剣が勇者を決めるって設定なら俺に決定権があるんじゃないかと思って試してみたら案の定だ。
だが、成功したのは良いが、このクソゲークリアするにはどうしたら良いんだろうって悩みが生まれちまった。
ラスボスが居なくなった世界でリナを解放する術を探す。
それが俺に与えられた使命なのかもしれない。