第五話 闘技場
(よくよく考えて闘技場ってことは武器がいるよな)
「なあ、ルイナ。闘技場に行くまでの道で武器屋はあるか?」
二人が歩いて闘技場へ向かう最中、陽一がルイナの方を見て聞いた。
「そうですね〜…少し遠回りになりますが一件だけ武器屋がありますね」
「じゃあ、そこに寄ろう。俺、武器を持ってなくてさ」
「そうでしたか。ですが、闘技場に出るだけなら態態武器を買わなくても貸してくれますよ?」
「ええっ、そうなのか?」
「はい」
(なんて初心者に優しい街なんだ、王都ルナザード!俺みたいな奴が困らないように色々用意してくれてるって訳か)
「じゃあ、取り敢えず今日は大丈夫か。時間も無いんだろ?」
「そうですね。闘技場まで歩いて丁度いい時間なので、武器屋に寄るとなると走って向かわないと間に合いませんね」
「そうか…だったら、明日にでも買いに行くよ」
「はい。私もお供します。この街のことを案内しますね?」
「おお、ありがとな」
陽一は微笑みながら言ったルイナに礼を言った。
(やった〜。明日もルイナと一緒か。美人の仲間が居るとやっぱり心が癒されるな。たまに心が荒む時がある気がしないでもないが…今は考えるのをやめておこう)
「そういえばさ」
「はい?」
ルイナは不思議そうに陽一の方を見た。
「この街って瞬間移動出来ないのか?」
「瞬間移動ですか?!」
「え、ああ、うん」
陽一は驚いて聞いてくるルイナを見て少し戸惑っていた。
(何だろう、この反応は?まさか、禁止されてる古代魔法とかなのか?!有り得るぞ。確か、実在するスキルなら手に入れられるって書いてあったし。聞くのは良くなかったか?)
「瞬間移動はスキル名を『テレポート』と言ってとても貴重なスキルなんです」
「へ、へえ〜」
(良かった〜。取り敢えず、俺が考えていた最悪の事態にはならないっぽいな)
「確か、テレポートを使える人間はこの世で数人しか居ないという噂で存在しているのかすら分からないスキルなんですよ」
(そんなに貴重なスキルだったんだ…俺はユニークスキルを使ったおかげで持ってるけど…本来どんなことをして手に入れるスキルなんだろうか?)
「でも、よくテレポートのスキルのことを知ってましたね?」
「ええっ?!ああ、たまたま聞いたんだよね」
「ああ、そうでしたか」
(テレポートでこの街に入れなかったから聞いてみたけど、そんなに貴重なスキルだったのか…。取り敢えず、今は目立たないようにしよう。何があるか分からんからな)
それから二人は暫く歩くと、石で出来た如何にも闘技場っぽい建物が見えてきた。
「あれがこの街唯一の闘技場です」
「へえ〜これが?」
(思ったより大きいな。サッカーのドームぐらいはあるんじゃないか?)
「さあ、中に入って参加の申し込みをしましょう!」
「おお」
二人はそう言うと闘技場の申し込みをする為、中に入った。
「中はこんな感じになってるのか〜」
中に入ると、正面に受付のカウンターがあり、出場する為に並んでいる人の列があった。
「まだ、結構並んでますね」
「そうだな」
「今のうちにこの闘技場の事を少し説明しますね。ここのカウンターで受付を済ませたら、すぐそこの扉を進んで下さい。参加者の待機場になっています。後は自分の番になったらここの店員の方に言って武器を貸して貰って下さい」
「了解。出来るだけ頑張ってみるよ」
「はい。応援してます!」
「では、次の方どうぞ〜」
「お、じゃあ、受付に申し込んでくるよ」
「はい」
それから陽一はルイナと一旦別れて受付に向かった。
「トーナメントへの参加でよろしいですか?」
「はい」
女性の店員が聞いてきた。
「では、こちらにお名前と銅貨八枚を用意して渡して下さい」
「分かりました」
(当たり前だけどお金は掛かるのね)
陽一は渡された紙に名前を書き込むと、スモールポケットに入れておいた布袋から銅貨八枚を出して受付の女性店員に渡した。
「ええと〜タナカヨウイチ様ですね?準備が出来ましたらこちらの扉に入ってお待ち下さい」
「はい」
陽一は無事に申し込みを終わらせた。
(さてと、ルイナと少し話したら中に入るか)
「陽一?無事に受付できましたか?私、お金が必要だと言うのをすっかり忘れていました」
「ああ、大丈夫だったよ」
「そうですか。それは良かったです。これを口実に私にあらぬお願いをするかと思いました」
「何でそうなる?!しないと言った筈だが?!」
陽一は相変わらずなルイナに驚いていた。
(ルイナのこの癖とやらはどうやって出来たのだろうか?今度聞かないとな…)
「それでは、受付を終了します!トーナメントへ参加する方は扉の中へお入り下さい!」
受付の女性店員が呼び掛けた。
「おお、そろそろ行かないとな」
「私は観覧席で応援してますね」
「おお、また後でな」
「はい」
そう言うと二人は別れた。そして、陽一は店員に言われていた扉を開けた。
(おお、かなりの数だな。数百人は居るんじゃないか?)
陽一が中に入ると、ガタイの良い男たちが剣を振ったり、武器の手入れなどをしていてやる気満々で準備をしていた。
「それでは、これよりトーナメントを始めます。名前を呼ばれた方は準備をして、言われた入り口の番号の場所まで移動して下さい」
男性の店員がそう言うと、どんどん名前が呼ばれていった。
(こんな感じなんだな?確かに、出入り口っぽいところに数字があるな)
陽一は周りを観察しながら自分が呼ばれるのを待っていた。
「それでは、次、タナカヨウイチ!十番出入り口まで移動してくれ。第一陣は以上。呼ばれなかった者はその場で待機していてくれ」
(おっ呼ばれたな。この世界に来て初の戦闘か…緊張するな…でも、トールが言うにはその世界に馴染めるらしいからな。今は自分の出来ることを精一杯やろう!)
陽一は十番と書かれた出入り口の前まで移動した。すると、そこには男性の店員が居た。
「あの、武器を貸して欲しんですけど…」
「ああ、君は武器を持っていないんだね?ちょっと、待っててくれ」
そう言うと店員が何処かへ行ってしまった。
(そういえば、俺の武器のランクって全部星のマークが付いてたけど、何でも使えるってことで良いんだよな?何を使おうか?まずは、基本的な剣は使うとして…他は…あれ?そういえば、魔導書って何だ?魔法と違うのだろうか?ソフィアに聞くのを忘れてしまった。まあ、使ってみれば分かるか)
「待たせたね?この中から好きに選んでくれ。と言っても、自分が使える武器は限られてるけどね」
「はい」
男性の店員が移動式の台に武器を乗せて戻ってきた。
(ん〜、この剣っとかってどのぐらいのランクなんだ?そういうスキルで見てみるか。ユニークスキル!想像!)
〈ユニークスキル:想像を発動しますか?はい/いいえ〉
(はい)
〈了解しました。では、取得したいスキルを思い浮かべて下さい〉
(武器のランクを見るスキルが欲しい。後、『危険察知』も欲しい)
〈了解しました。では、『武器鑑定』『危機察知』のスキルを取得します〉
ナレーションが脳内でそう言うと、スキルの欄に二つ追加された。
《スキル》
武器鑑定・・・武器を注視すると、その武器のランク、攻撃力、魔法攻撃力、特性、状態が分かる。
危機察知・・・自分に危機が迫ると極度に寒気がする。(ただし、何が起こるかは分からない)
(よし、これで大丈夫。早速、武器鑑定を使うか。スキル!武器鑑定!)
《鉄の剣》
武器:剣 ランク:C 攻撃力:3000 魔法攻撃力:無し 特性:無し 状態:特に無し
(なるほど、こんな感じか…他の武器も大体似た様な感じか。ん?この爪みたいなやつは手に嵌めて使うのか?まあ、取り敢えず今は剣でいいか)
「剣にします」
「分かった。もし君が勝って他の武器にしたかったら言ってくれ。まあ、初めての人には難しいかもしれないけどね」
「頑張ります」
「それではタナカヨウイチ。君の健闘を祈る。先に進んでくれ。そして、終わったらここに戻ってきてくれ」
「分かりました」
そう言うと、陽一は剣を右手に持って先に進んだ。
「それでは全ての選手が揃いました。お互いの迎え合っている人同士で戦って下さい」
「おおおおお!!!!」
(おお〜凄い人の数だな)
陽一はナレーションの言葉で熱気に包まれた観客席を見ていた。この闘技場は長方形に近い形をしているらしく対戦相手が反対の入り口から現れるようになっていた。
「なんだ?お前が最初の相手か?まだガキじゃね〜か」
「ん?」
陽一の前には小太りの背が小さい大斧を持った緑髪の奇抜な髪型をしたおじさんが立っていた。
「ったくよ。こっちは賞金欲しくて出てんだ。遊びじゃねんだぞ?」
(なるほど、そういう感じなのね?武器の大きさが身長の大きさと同じぐらいなのが違和感しかないな)
「それでは一回戦、第一陣!戦闘開始〜〜!!!!」
「おおおおお!!!!!!」
ナレーションの声と同時に観客の歓声が大きくなった。
「さっさと終わらせて休憩してやるよ」
そう言うとおじさんは大きく跳躍した。
(見た目の割に動けるな)
「どうした?怖くて動けね〜か?!」
そう言うと陽一に向かって大斧を振り下ろした。
(躱してから反撃するか)
陽一は今居た場所から少し横に移動した。しかし、その動きを追えている者は殆どいなかった。
「なに?!」
おじさんが大斧を地面に減り込ませながら驚いていた。
「次はこっちの番だな?」
そう言うと陽一は大斧が地面に減り込んでいる隙を狙って近付いた。そして、次の瞬間、剣を振り下ろした。
「舐めるなよ!」
地面から抜いた大斧で陽一の剣を防いだ。
(やっぱりLVが1だと限界があるな。バレない感じでテレポートで背後に飛んでみるか)
「ガキだと思って油断してたが、案外やるじゃね〜か!」
「そらどうも」
「だが、経験の差って奴を教えてやるよ!スキル!パワーショット!」
そう言うと大斧が緑色に光った。
「あばよ!!」
次の瞬間、重そうな見た目とは相反して凄まじい速さで陽一に近づいた。そして、おじさんは大斧を陽一に向けて振り下ろした。
(今だ!スキル!テレポート!)
辺りはパワーショットによって砂煙が立ち、状況を確認出来る者は誰もいなかった。
「どうやって俺の背後に…」
砂煙が収まるとおじさんの背中に剣を突き立てている陽一の姿があった。
「そこまで!勝者、タナカヨウイチ!」
「おおおおお!!!!!」
決着が付いたことに観客が沸いていた。
(危なかったな〜。テレポートが使えて良かった。やっぱり、街全体には妨害魔法が無いらしいな。外からの侵入を防ぐためのモノだったって事か。当たった時に壁みたいなのが薄い気がしたからな。覚えておいて良かった)
陽一は試合に勝つと、十番出入り口に戻ってきた。
「君、若いのに強いね?」
「ああ、ありがとうございます」
店員が陽一の様子を見て話しかけてきた。
「武器を変えるかい?まだ、使える武器があるなら貸すことも出来るけど?」
「そうですね。じゃあ、色々試してみようと思います」
それから陽一は剣を置き、武器を槍に変えた。
(へえ〜これが槍か。剣に比べてリーチがあるな。でも、深く踏み込まれた時に相手に刃の部分を向けるのは難しそうだ。扱いも大変そうだな…)
「へ〜、君は槍も使えるのか。楽しみだな〜。それじゃあ、次の出番まで待っててくれ」
「分かりました」
それから陽一は自分の番が来るまで待っていた。
「よし、それではタナカヨウイチ!二回戦を始める」
「はい」
それから陽一はさっきと同様にして先へ進んだ。
「それでは続きまして、二回戦を始めます!」
「おおおおお!!!!!」
今までと同様、観客が湧いていた。
「私の相手は君かな?」
陽一の前には全身をヨーロッパ風の甲冑で覆い、剣と盾を装備した騎士らしき人物が立っていた。
「どうやらそのようですね」
「戦闘開始〜〜!!!!」
「おおおお!!!!!」
ナレーションの掛け声で試合が始まった。
「腕試しに出てみたけど君のような青年と戦う事になるとはね。でも、一回戦を突破したって事はそれなりに強いと言う事だろ?だったら、手加減は無しだ!スキル!硬化!」
そう言うと騎士の甲冑が橙色に光った。
(今のスキルは自分の防具を頑丈にする為のスキルか?でも、その重そうな防具じゃ俺に攻撃出来ないんじゃないか?まずはこっちから先に仕掛ける)
陽一は勢いよく騎士に向かって走り出した。その速さはLVが上がっている為かさっきの戦いよりも速くなっていた。
(これならいける!)
「はあ〜〜!」
陽一は槍を騎士の体に向かって真っ直ぐ突き刺した。
「甘いぞ!スキル!武器反射!」
「何!?」
陽一の攻撃は騎士の青く光った盾によって防がれた。
「次はこっちの番だよ!」
「くっ…」
陽一の攻撃を防いだ騎士は剣を振り下ろした。それを槍の柄の部分で止めた。
(何だよ今の…盾のスキルなのか?)
「なかなかやるね」
「どうも!」
陽一は力を一杯に使い、剣を押し退けた。そして、後ろへ大きく間合いを取る。
(あの盾のスキルが厄介だ。それにあの甲冑を貫通するだけの力が今の俺にあるかが分からない。だったら…)
「スキル!ステータス強化!」
そう言うと陽一の体が橙色に光った。
(力と速さで何とか押し切る)
次の瞬間、ステータス強化によってステータスが上がった陽一の姿が消えた。正確には高速で移動しているので見えはするが、それを追えるのはこの闘技場で一人だけだった。
「もらった!」
「速い!何も見えなかった…」
陽一の槍は騎士の首元にあり、今すぐにでも突き刺すことが出来る状態だった。
「そこまで!勝者、タナカヨウイチ!」
「おおおおおお!!!!!!」
観客は何が起きたか分からないが何となく凄いことが起きたことに沸いていた。
それから陽一はまた十番出入り口に戻った。
「次は何の武器を使おうか…」
「まだ、使える武器があるのかい?凄いね」
「そんな事ないですよ?」
(よくよく考えてあんまり色んな武器を使うと目立っちゃうか…まだ使ってない武器は斧、弓、魔導書、杖、爪の五種類か……弓と杖はこの闘技場には向いてないだろうな。だとすると、斧、魔導書、爪か…この爪は何なんだ?聞いてみるか)
「あの〜」
「はい」
「この爪のやつは何なんですか?武器の欄に無いですよね?」
「ああ、それはね、たまに何の武器も装備出来ない人が居るんだよ。だから、そういう人の為に作られた武器、それが爪だよ」
「へ〜」
(武器が装備出来ないって大変だな。でも、どうしようか…取り敢えず剣が一番無難で扱いやすかったからな。暫くは剣でいいか。他の武器はいつか使おう)
それから陽一は剣を使い、無事にトーナメントを勝ち進んだ。そして、次はいよいよ最終戦。
次回、下位魔法