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第四話 彼女は心配性

「あの〜どういう事ですか?」


 陽一はかなり困惑していた。目の前に居る絶世の美女がたわわと言っていいほどの立派な胸を手で庇うようにしているからだ。


「私は騙されませんよ!その黒い髪、黒い目、整った顔立ちにそこそこある身長。普通の女性であればあなたの容姿に心を許すかもしれません。ですが、私は由緒正しいハルバード家の一人娘。いくら貴方のような方が言い寄って来ても私の心は揺らぎません!」


(この人は一体、何を言ってるのだろうか?確かに、自分で言うのは何だがそれなりにモテた。でも、決して学校で一番のイケメンだとか、地域で噂されるほどの美男子だったかといわれるとそうではない。クラスに居る陽キャと言われる人達と仲が良いというぐらいだ。この人が一体、何を考えて言ったのかは分からないけど誤解を解かなければ…)


「あの〜僕は決してあなたの思っているようなことはしませんが?」


(よし、これでいい。これで誤解は解ける筈だ)


 陽一は目の前に居る彼女の誤解を解く為の言葉を伝えた。しかし、それが反って彼女に誤解を生んでしまった様だった。


「っ……?!私の思っていること?!貴方、まさかこの私の純潔を奪うつもりなんですね!?」


(あれ……?)


 陽一は青い瞳をうるうると輝かせながら胸だけでなく自分の脚の方まで庇う様にしている彼女に更に困惑していた。


「あ…あの〜?な、な、何を言ってらっしゃるのでしょうか?」

「私は貴方が言った言葉をそのまま受け取っただけです。女性にここまで言わせるなんて…私…もう…お嫁に行けない……」


 彼女はそう言うと今まで体を庇っていた手で顔を覆い、泣き出してしまった。


(ええ〜これ俺の所為でこうなってるの?!何でこの人泣いちゃってる訳〜〜?!)


 陽一は泣き出してしまった彼女を見ながら途方に暮れていた。すると、そこにタイミング悪く料理を持ったリーウェルがやってきた。


「お待たせしました!チョリのキャラアゲとキャレツのシャラダです!」


 そう言うとリーウェルは料理を机の上に置いた。


「お会計はあちらのカウンターですので」

「ああ…ありがとう……」


 陽一は目の前で泣いている彼女のことで頭が一杯になっていた。


「あの〜…こんなに美人な彼女さんを泣かせたらいけませんよ?」


(彼女じゃね〜よ!この世界に来て数時間の俺に彼女ができたらそれはそれで問題があるだろ!まあ、美人というところは否定しないが……)


「俺はこの人の彼女ではない。たまたま席が一緒になっただけだ」


 陽一はリーウェルに説明する為にそう言った。


「っ……!?たまたま……私のことはお遊び程度にしか考えてなかったという事ですね?そうなんですね…!?酷い……」

「ううん!?違うよ!?今のはこのリーウェルさんに言ったんだよ?!」


 陽一は更に泣き出してしまった彼女に何とか分かってもらおうと説明をした。


「あの…失礼ですけど、今のはちょっと…傷付くと思います…」


(おめぇ〜の為に説明してやったんだろうが!!!ふざけんなよ?!その口、どうなってんだ!?)


 リーウェルは陽一に若干、顔を引き攣りながら言った。


「いえ、良いんです。慣れてますから…私のことを私として見てくれる方なんて……」

「ん?どういう事だ?」


 陽一は涙を拭きながらそう言った彼女の言葉が気になった。


「あんまり彼女を泣かせちゃダメですからね?それじゃあ、ごゆっくり」


 そう言うとリーウェルは軽く頭を下げて元の業務に戻っていった。


「全く…彼女じゃないって言ってるのに…」


 陽一は呆れたように言った。


「貴方も私のことを利用しようとお考えなのでしょう?」

「利用?」


(どういう事だろうか?…いや、待てよ。彼女は多分、公爵家の人間だ。そして、彼女の発言から察するにもしかしたら昔に良くない思いでもしたのだろうか?)


「私は公爵の地位を与えられたハルバード家の長女、ハルバード・ルイナと申します」


(やっぱりそうか…武器のランクが星だったからそうだとは思っていたけど…)


「……やはり、驚かないのですね…貴方も私の事を知っていたという事なんですね…」


 ルイナは浮かない顔をしながら言った。


(まあ、知ってたといえば知ってたけど…ここは一つ、芝居をした方が良さそうだ)


「いえ。実は僕はこの街に来たばかりでよく分からなくて…田舎の中でも特に世間と関わりが無かったところなので、その公爵?っていうのがどんなものなのか今一よく分からなくて…」

「!……そうだったのですね?申し訳ありません。私が早とちりしてしまったばっかりに…」

「いえ、僕の方こそ言うのが遅れてしまいました」


(はい、おっけ〜い!ちょろい、ちょろいよ。まあ、嘘を付くのは少し心が痛いけど、話しを円滑に進める為にはこの方がいい。ごめんね、ルイナさん)


「それでさっき言ってた事はどういう事なんですか?」

「はい。私はさっきも言った通り、公爵家の人間なんです。公爵家は王家の次に位が高い地位です。ですから、その地位を利用しようとする方々が今まで何百人も現れました。私を騙して利用しようとする者、お金欲しさに誘拐しようとする者、地位欲しさに求婚を求める者、今までの事を事細かに語ったらキリがありません」

「そんなことが…」


(身分が高い公爵家だからといって良いことだらけではないって事か…)


「ですので、貴方が私の席に座った時は何か企んでいるのではと警戒してしまいました。申し訳ありません」

「いえ、座ったのはこちらですから」


 陽一は頭を下げたルイナにそう言った。


「ありがとうございます」

「でも、そんな偉い方がどうしてこのギルドに?冒険者は危険を伴う仕事、態態ここにいるのは何か理由でもあるんですか?」

「その……ちょっと色々ありまして……」


 陽一の質問にルイナが言いずらそうにして言った。


(なるほど?公爵家の人間が態態このギルドに居るという事はちょっとでは無く、かなりの事情がある筈だ。でも、この様子だと今聞くのは流石に良くないだろうな…)


「そうですか…人には誰しも言い辛いことの一つや二つあります。態態言いたくない事は言わなくても大丈夫ですよ」

「はい……」


 ルイナは一点を見つめながら元気のない返事をした。


(ああ〜、なんか元気がないな…よし、話題を変えてみよう)


「ご飯を食べても良いですか?お腹が減っちゃって…」

「えっ?ああ、はい。どうぞ」


 ルイナは少し驚いた反応をしたが微笑んでそう言った。


「僕はこの街に来たばかりなので色々教えて欲しい事があるんですけど良いですか?」

「ええ。何でも聞いて下さい。貴方には申し訳ない事をしてしまいましたから」


(なっ!?何でもだと!?いや、待て待て。違うぞ。この何でもは違う。基本的にという言葉が前に付く筈だ。落ち着け、俺)


「っ……!?まさか、何でもと言った事を利用して私の身体についての情報を聞き出すつもりですね!?」

「ち、ちげぇ〜よ?!」


 胸を両手で庇う様にしながら言うルイナに陽一は声を裏返しながら言った。


「今、嘘を付きましたね?やっぱり私の純潔を奪うつもりだったんですね?」


(違う!違うよ?!行き過ぎ!考えが俺の数十歩先までいっちゃってるよ?!)


「そんなことする訳ないじゃないですか?やだな〜」


 陽一は片言になりながらそう言うと、チョリのキャラアゲ元い鳥の唐揚げを口にした。


「ま、まさか…今チョリのキャラアゲを食べたという事はお前は食われる運命、これからお前を食べてやるという事ですか?!」

「ん?!んんん!!!」


 陽一は首を横に振りながら何とか自分の意思を伝えようとした。


(何でそうなるんだよ!?この人の頭は何でそこまで飛躍させることが出来るんだ?!)


「その首の動き?!お前には拒否権など無いということなの?!それとも、その動きで私の注意を引いて催眠を掛けるつもりなの?!どちらにしても私の純潔は今日までなのね……」


(なるほど。この人はもうダメだ。何というか被害妄想みたいなのが凄い!ここまで来る才能だよ。俺が行動するだけで何を言われるか分からん)


「んんっ!あのな?俺はそんな事しないから取り敢えずその飛躍した妄想をやめようか?!」


 陽一は急いで食べ物を呑み込みそう言った。


「なっ!?そんなに焦ったように呑み込むなんて…そこまでして私を…?このケダモノ!それに加えて妄想をやめろだなんて!私をあんな事やこんな事にしてやるから黙って従えということですね?!」

「んな訳ねぇ〜だろ!?どんな人生を送ってきたらそこまで被害妄想が出来るんだ!?いいか?俺は確かにあなたのことは可愛いと思ってる」

「や、やっぱり!?私の身体が目当てなんですね!」

「違うわい!今まであなたがどんな人生を送ってきたかは知らないが俺はあなたを襲ったりしない、信じてくれ!」


 陽一はルイナの目を真っ直ぐ見て言った。


「……分かりました。取り敢えず貴方のことを信用しましょう」

「はぁ…よかった〜」


(全く、どうなるかと思ったわ…)


 陽一は何とかうまく纏まった事に安堵していた。しかし、ふと周りに目をやると、二人はそこそこ長い間言い合いをしていたので周りの人が二人の事を気にして見ていた。というより、女性に対して襲ったりしないと言っていた陽一のことを見ていた。


(違うよ?俺悪くないよ?俺じゃないからね?)


 それから陽一は周りの目を気にしながらご飯を済ませた。


「貴方、この街に来たばかりと言っていたけど冒険者になる為にここへ?」

「まあ、半分正解かな。俺は魔王を倒す為に冒険者になった方が良いかなと思ってさ」

「そうですか…魔王を…」

「ん?」


 ルイナが考えたような顔をして言った。


(何を考えてるんだろう?)


「あの、私とパーティを組んでくれませんか?」

「えっ?!パーティ?!」


 陽一は真剣な顔でお願いしてきたルイナに驚いていた。


(パーティか…確かにルイナは強い。一緒にパーティを組んでくれるならかなり心強い)


「分かった。よろしく頼むよ!」

「本当ですか?!嬉しいです!」


 ルイナは嬉しそうにして言った。


「っ……!?まさか、パーティを組む代わりに私の純潔を奪うつもりですね?!」

「いや!誘ってきたのそっちだろうが?!もう意味分からんわ!それ、そろそろやめようか?!」

「そ、そうですよね…すいません。いつもの癖で…」

「どんな癖だよ…聞いた事ないぞ…」


 陽一は呆れながら言った。


「にしても、パーティってどうやって組むんだ?」

「パーティに必要なモノはありません。一緒に冒険をしたり、クエストに挑んだりする仲間。それがパーティです」

「なるほど。じゃあ、よろしく頼むよ?」


 そう言って陽一はルイナに手を出した。すると、ルイナは身体を少しビクッと強張らせた。しかし、ルイナはその強張りを解くと陽一の手を握り、二人は握手を交わした。


「ルイナ…で良いかな?」

「ええ。貴方の名前は?」

「そうか、そういえばまだ言ってなかったか。俺は田中陽一だ」

「田中陽一…では、陽一さんと呼んでも?」

「陽一でいいよ」

「そうですか…では陽一と呼びますね?よろしくお願いします!」

「ああ、こちらこそ!」


 陽一はギルドの中でルイナという初めての仲間ができた。


「ところで、LVを上げたいんだけど何か良さげなクエストはないか?」

「ん〜そうですね…陽一の今のLVは幾つですか?」

「ああ〜実はLVがまだ1なんだよ。だから、どうすれば良いのか俺じゃ判断出来なくてな」

「なるほど…」


 陽一の話しを聞いたルイナがどうするかを考えていた。


(この世界はLVを上げないと自分が強くならない筈。だったら、魔王と戦うまでに今はLVを上げることに専念した方が良いだろう)


「では、闘技場はどうでしょうか?」

「闘技場って何だ?」

「闘技場はこの街にある自分の実力を試す為の場所です。トーナメント式で勝てば次の試合に進むことができます。負けたらそれ以上試合はありません」


(ほうほう。そんなモノがあるのか)


「負けの条件は何なんだ?」

「体に少し傷が付く、武器が壊れるなどですね。危険な時は審判が止めてくれるので大怪我をする心配はありません。怪我をしても回復魔法で傷を癒してくれるので陽一でも出られると思いますよ。丁度、今日のお昼過ぎからなので急げばまだ参加できる筈です」

「へ〜闘技場か…色々試してみたいし、出る価値はあるな…」


(人との戦闘でも経験値が得られるってソフィアも言ってたしな)


「分かった。俺、闘技場に出てみるよ!」

「はい!では、早速向かいましょう!」


 それから二人はご飯の会計をリーウェルにしてもらうと、ギルドを出て闘技場に向かった。

次回、闘技場

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