第一話 異世界転移
「ここは…?」
田中陽一が気が付くと見知らぬ場所にいた。辺りを見渡すと薄暗い空間に自分がいることが分かった。
「おお?来たなぁ?」
「ん?」
陽一が薄暗い空間から声が聞こえた事に気が付いた。すると、次の瞬間、薄暗かった空間の一部が青白く光り、そこにあった階段を照らしていた。そして、その階段の上にある立派な椅子にそこそこ歳をとった白髪で髭を生やした男性が堂々と座っていた。
「待っておったぞ。お主が田中陽一だな?」
「ああ、そうだけど…」
いきなり目の前に現れた男性に対し陽一は困惑しながら返事をした。
(誰だ?このじいさんは?新手の詐欺だろうか。俺お金なんて持ってないけど…そもそもここは何処なんだ?)
「うむ。困惑しているようじゃのう。無理もない。お主に何があったか説明しよう」
「はあ・・・」
(どういう事かさっぱり分からんが取り敢えず聞いてみるか)
「いいか?お主は死んだのだ」
「……はい?」
(説明しようと言うから何を話すのかと思っていたが何を言ってるんだこのじいさん?何処かで頭でも打ったのかな?可哀想に…夢と現実の区別も付かなくなっちゃったのか…)
「おい!何じゃその顔わ!ワシがボケてるとでも思ってるような顔じゃなあ?!」
「実際、思ってるしな」
「なにぃ?!それを本人の前で言うとか…お主、とんでもなく酷い奴じゃのう!」
「あのな、俺はここがどこで、なんでここに居るのかすら分からないんだぞ?あんたの茶番に付き合ってる場合じゃないんだ」
陽一はやけにテンションが高い男性に向かって本音を言った。
「うわ…本当に酷い…ワシがこれから説明しようと思ってたのに…」
(何なんだこのじいさんは…)
陽一は指を付けたり離したりして拗ねている男性を見て少しイライラしていた。
「取り敢えず何があったか話してくれ」
「っ……!?ワシ、話してもいいの?!」
(変なじいさんだな…)
陽一は目を輝かせて聞いてくる男性に戸惑っていた。
「ああ、いいよ。話してくれ」
「よしきた!ワシに任せとけ!だ〜ハハハハ」
(うるさいじいさんだな…)
陽一は体を仰け反りながら笑う男性を見て若干引いていた。
「コホンッ、いいか?今からお主、田中陽一の最期を話す」
「おお…」
(いきなりだな…)
今までの様子とは打って変わって真剣な声色で話す男性に陽一は少し身構えた。
「お主はその日、いつもの様に高校から家に帰っておった。その途中、お主はとある信号で青になるのを待っておった。その時、道路を挟んで向かえ側に居た親子の子供が道路に飛び出した。すると、運悪くトラックがそこを通ろうとしておった。それに気が付いたお主は子供を助ける為に飛び出した。そして、お主はそこで人生を終えた。トラックに轢かれてな」
「そんな事があったのか…」
男性の話しを聞いた陽一が思い詰めた顔をした。
「なあ、その子供はどうなったんだ?」
「その子供は無事じゃよ。お主が助けてくれたおかげでな」
男性が微笑みながら陽一に向かって言った。
「そうか…なら良かった…」
(本当に良かった…俺の分まで元気で生きてくれ)
「お主には感動したよ。自分の命を擲ってまで子供を助けるとはのう」
「いや、俺じゃなくてもみんなそうしてるさ」
「そんな事は無い。誰にでも出来ることじゃ無いんじゃよ?」
「そうなのか」
(このじいさん、最初はよく分かんなかったけど案外いい人なのかもしれないな)
「そこでじゃ!」
「ん?」
陽一は今までの真剣な雰囲気を吹き飛ばした男性が何やら良からぬことを考えている事が声色からすぐに分かった。
「お主にはもう一度、人生を送る機会を与えようと思っての」
「良かった〜……ん?もう一度?」
陽一は思ったような事では無かった事に安堵した。しかし、それと同時に疑問を抱いた。
(もう一度ってどういう事だ?そういえばこのじいさんはなんで俺の事を知ってたんだ?それに、俺が死んだのであれば今のこの状況はどう説明する?)
「そういえばお主にはまだ名を名乗っていなかったのう?ワシの名前はトール。一般的には雷の神として知られておる。お主も聞いた事ぐらいはあるじゃろ?」
「あ、ああ…」
陽一は自分をトールだと名乗る男性に驚いていた。
(トールって神様だろ?じゃあ、何か?!このよく分からんじいさんが神様だってことか…?信じられない。でも、もしこのじいさんの言ってる事が本当なら俺の事を知ってた事や何があったのかを知ってる理由に納得がいく。…いや、待てよ…もしそうだとしたら俺はこのじいさんに結構酷い事を言ってるんじゃないか?まずいかもしれない…)
陽一は冷や汗をかきながら今までどんなことを言ってきた思い出していた。
「おいおい!神に会えたからってそんな緊張すんなよ!照れちゃうじゃん!だ〜ハハハハ」
(ん〜…なんか今までの無礼とかを謝った方が良いと思ったけど、このじいさんを見ているとそんなことしなくて良くね?と思ってしまうのは俺だけじゃない筈だ…)
「それで?どうじゃ?もう一度人生を送ってみんか?」
「ん〜…人生っていっても具体的にどんな人生のことなん…だ?」
陽一は敬語にするか一瞬迷ったが今までの口調を続けた。
「お主……」
「はいっ!?」
(やっぱり敬語じゃないとダメだったか…まずい…何されるか分からんぞ…相手は神様だ。俺が到底考えても思い付かないような事を言ってくるかもしれない…)
「よ〜〜〜くぞ聞いてくれた〜〜〜〜!!!!!!」
(ね?到底思い付かないような事を言ってきそうなアホみたいな声を発しているではありませんか?)
トールは嬉しそうにテンションを上げて言った。
「いいか?お主がこれから行くのは異世界じゃ!」
「異世界?!」
(異世界ってあれだろ?魔法とか剣とかがあるファンタジー世界だろ?何それ、面白そうじゃん!まずは話しだけ聞こう。その方が絶対にいい)
「その世界は魔王に支配されつつある世界。そんな世界で人間は逞しく生きていた。しかし、世界が魔王の支配に徐々に侵食されていくと、人々の笑顔は減り、悲しみや苦しみなどが増えていった。そんな時!一人の人間が人々の希望になった。人々はその人間を勇者と呼んだ。勇者は人々を魔王の支配から解放するため、仲間と共に魔王を倒すための冒険に出るのだった」
「おお〜」
陽一は拍手をしながら感心していた。それにトールは嬉しそうにしていた。
「簡単に言うと、世界が魔王に支配されつつあるからお主には勇者としてその世界を救う為に戦って欲しいということじゃな」
「なるほどね」
(どうするか…どうせ元の世界には戻れないだろうし。異世界に行って世界の為に戦うっていうのもいいな)
「なあ、具体的にどんな事をすればいんだ?それに、俺剣とか魔法とか使ったこと無いんだけど?」
陽一はもう敬語のことなど微塵も考えず、純粋に思った事を質問した。
「うむ。剣や魔法は大丈夫じゃ。その世界に合うように自然と体が動く筈じゃ。あとは、仲間を集めながら冒険して魔王を倒すって感じかのう」
「なるほど…」
(母さんと父さんには先に死んじゃって悪い事をしたな…でも俺、異世界でもう少し頑張ってみるよ。世界の為に戦ってくる)
「トール!俺、異世界行くよ!」
「おお!本当か?!それは良かった。お主には期待しておるぞ!」
陽一の話しを聞いたトールが嬉しそうに笑顔で言った。
「では、お主を異世界へ送る。準備は良いか?」
「……ああ。大丈夫だ!」
「うむ。では、田中陽一!お主の活躍を期待しておる!」
トールはそう言うと階段を下り、陽一のところまで来た。
「右手を前へ」
「おお」
陽一はトールに言われた通り右手を出した。それからトールは陽一の右手に自分の右手を翳した。すると、陽一の右手の甲に紋様が現れた。
「これは神の加護じゃ。お主を守ってくれる筈じゃ」
「ありがとう」
「なあに、ワシにはこれぐらいしか出来んのでな!だ〜ハハハハ」
(結局、良い奴だったな…)
「それではお主を異世界に送る」
そう言うとトールは陽一から少し離れ、両手を陽一に向けて翳した。すると、陽一の足元に青白い光りを放った幾何学模様の魔法陣が現れた。
「これで異世界に行くのか…」
陽一は徐々に魔法陣の光りが強くなっていく中で期待と不安を募らせていた。
「はっ……」
そんな時だった。トールが間抜けな顔をしていた。
「はっくしゅ!!!!あっ……!!!」
「ん?」
トールは大きめのクシャミをした。そして、その後に大きな声であっという言葉を発した。
「おや?どうしたのかな?トールおじいさん?」
「ん?いや、あの…その……」
「話す時は人の目を見るものだよ?」
陽一はニコニコ笑顔を浮かべながら目を逸らしたトールに言った。
「あ…はい…」
「それで何があったのかな?」
「クシャミをしたら送る異世界が変わっちゃった!だ〜ハハハハ」
「すぅぅぅぅ……ふざけんなぁぁぁ!!!!このクソジジイがぁぁぁぁぁ!!!!!!」
陽一はトールに怒鳴り付けた。
「今すぐ元に戻せ」
陽一はゴミを見るかのような目でトールを見ていた。
「あの…それが…一度行く世界が決まると変更が出来なくて…本当にごめんなさい!!!」
(なるほど…このジジイはいつか必ず殺そう)
「基本的にどの世界もやることは同じだから…お願い…怒らないで…」
トールは目を瞑り、両手を自分の顔の前で合わせて言った。
(ここに来てからあまり時間は経っていないが俺にはこのジジイがまだ何か隠し事をしているのが分かる。基本的にどの世界も同じような感じならあの反応は少し大袈裟だ。だとすると…)
「トール。今本当のこと言うなら怒らないよ?」
「え?マジで?!実はな、お主の行く事になった異世界はとても攻略難度が高くてな。上から数えて五番以内には入る世界でな?いや〜まさかこんな事になるとは!だ〜ハハハハ」
トールは何事も無かったかのようにしていた。
「うん。とても面白いね?どのぐらい面白いかというと、目の前にいる白髪のジジイをボコボコにするぐらい面白いね?ハハハ」
陽一は乾いた笑いをした。
「本当にごめんなさい…わざとじゃないんです。代わりと言ってはなんですが、ステータスなどはかなり強くしてあるのでそれで許して?ね?」
「はぁ……分かったよ。俺、頑張るから応援しててくれ」
陽一は若干呆れながらトールに言った。
「分かった。ありがとう!お主のことは見ておるぞ」
「ああ」
二人がそう会話を交わすと、足元にある魔法陣の光が陽一を包み込んだ。
「ん……」
陽一が目を覚ますと、木の葉の隙間から太陽の光が漏れていた。
「ここは…異世界なのか?」
陽一は体を起こして辺りを見た。すると、自分が木の根元で倒れていた事が分かった。そして、少し離れたところに石垣を円形状に高く積み上げて壁にしている立派な街があるのが見えた。
「取り敢えず、あそこに行ってみるか」
そう言うと陽一は立ち上がった。すると、ブレザーのポケットから白い封筒が地面に落ちた。
「何だこれ?」
(こんなの俺持ってたっけ?)
陽一は不思議に思いながらもブレザーから落ちた白い封筒を拾った。
「中身は…」
そう言うと陽一は封筒を開けた。すると、中に手紙が入っていた。
〈陽一へ〉
この世界はステータスと言うと自分のステータスを確認する事ができる。他にも色々あるとは思うが、それは自分で色々試してみるといい。それも冒険をする上での楽しみの一つじゃ。お主は今、王都ルナザードの近くにいる筈じゃ。まずはそこに向かうと良い。お主が異世界生活に早く慣れることを祈っておる。トールより
(なるほど…こんな手紙まで用意してくれたのか。色々言いたい事はあるけど、今は感謝しないとな)
そう言うと陽一は手紙をブレザーのポケットに仕舞った。
(さてと、取り敢えずやってみるか)
「ステータス!」
陽一は手紙に書いてあった通りにやってみた。すると、自分の視界に文字と数字が現れた。
「おお!これがステータスか!」
陽一は現実世界では有り得ない出来事に高揚していた。
《ステータス》
LV1
HP 18,000/18,000
MP 7,000
《装備》
武器 無し
武器2 無し
頭 無し
胴 異世界の服 物理防御+3
脚 異世界の服 物理防御+2
アクセサリー 無し
獲得経験値 0
所持ゴールド 0
力 1,000
魔力 2,000
速さ 1,250
技 1,000
守備 850
魔法守備 1,050
攻撃力 1,500
魔法攻撃力 2,500
俊敏さ 1,250
物理防御 855
魔法防御 1,050
《ユニークスキル》
神の恩寵・・・魔王の影響を受けない。死亡した時に蘇る。状態異常無効。呪い無効。
想像・・・想像したスキルを得る事ができる。(ただし、実在するスキルでなければならない。実在しないスキルの場合は取得したいスキルに近いスキルに変更する事ができる。ユニークスキルは想像で得る事はできない)
《スキル》
無し
《武器》
剣 ★
槍 ★
斧 ★
弓 ★
魔導書 ★
杖 ★
(ええと〜、よく分からんな。これはどうなんだろう?凄いのか?確かトールがかなり強くしたって言ってたからそれなりに強いとは思うんだけど…如何せん、俺にはこの世界の常識が無い。取り敢えず、王都ルナザード?に行ってみよう。まずは、情報を集めないとな)
「と、その前に…便利そうなスキルだけ取得しておこう。ユニークスキル!想像!」
〈ユニークスキル:想像を発動しますか?はい/いいえ〉
陽一が想像と叫ぶと脳内に機械のような声のナレーションが聞いてきた。
(おお。何となくやってみたけど…これがユニークスキル、想像か。俺、本当に異世界に来たんだな…)
陽一は異世界に来たことに感動していた。
(答えは、はいだ)
〈ユニークスキル:想像を発動します。取得したいスキルを思い浮かべて下さい〉
(なるほど。だったら、経験値アップ。取得するお金の増加。ステータス強化。敵感知。あとは…テレポート。取り敢えずこんなとこにしておくか)
〈了解しました。では、『取得経験値&ゴールド3倍』『ステータス強化』『敵感知』『テレポート』のスキルを取得します〉
ナレーションが脳内でそう言うと、スキルの欄に今言った四つが追加された。
《スキル》
取得経験値&ゴールド3倍・・・取得する経験値とゴールドが通常の3倍になる。(ただし、ゴールドはモンスター関連の時にのみ適用する。無限に増やす事は出来ない)
ステータス強化・・・自分のステータスを一定時間向上させる。(ただし、LV、経験値、ゴールド、装備、スキルは対象外)
敵感知・・・自分に敵意を向けているモノの位置を感知する。(感知する範囲は魔力の数値によって変化する)
テレポート・・・自分が行きたい場所に瞬間移動する事ができる。(ただし、屋内のような閉ざされた空間への移動や魔法などによって妨害されている場所には移動出来ず、可能な限り移動する。空気が無い場所には移動できない。使用者に触れていると、自分以外のモノも一緒にテレポートできる)消費MP 距離に応じて変化する
「おお〜凄い!」
(こんな感じなのか〜思ったより簡単に出来るんだな。この世界に詳しくなったらもう少し試してみよう)
「早速、王都までテレポートのスキルを使ってみるか。スキル!テレポート!」
陽一がそう言うと、王都まで瞬間移動した。
次回、冒険者ギルド