クォーターエルフはへっぽこ3
なんか不思議な匂いがする……なんだろう
動きづらいと思いながら寝返りをうった。
目を開けるとコンクリート造りの天井と鉄格子が見えた。
「よく、王族エルフなんてさらえたな」
「ああ、あの軽薄なお嬢様のおかげでね」
男性の話し声が聞こえる。
「クォーターエルフらしいが、天下の王族エルフだ」
「小柄だが王族エルフの美しい深碧色の瞳……まさに生きる宝石だ」
ガシャと音がして鉄格子をつかんだらしいとわかった。
悪かったね、小柄で……グーレラーシャ人だもん、本当ならこげ茶の瞳とか髪が良かったよ。
「長い髪がエルフっぽくないな」
「売る前に美容師に切らせよう」
なんか、売るって言ってますけど……あのそれ困るよ。
たとえ、戦闘能力がなくても私はグーレラーシャ人なんですけど……髪を切られるとかんざしさすの大変だしね……短髪やハゲのグーレラーシャ人もいるけどね……
大体ここどこなのさと思いながらそっと横を見るとバッチリ鉄格子の向こうの武装した不審者たちと目があった。
「本当に深碧だな」
「ああ、あのお嬢様に感謝しないとな」
大儲けだと生体商品を観察するような目で見られたよ。
後ろの止まり木に足が繋がれてるの珍獣屏風鳥だよね、カラフルな翼と長い尾羽根が特徴の。
向こうの檻は小型猿が何匹だろう……
映像でしか見たことないエキゾチックアニマルが沢山……
その向こうには翼人も……檻に……
なんかぼーっとする。
「美しい……あれも喜んで大金を出してくださるだろう」
依頼通り、指定されたクォーター王族エルフだからなと聞こえた……かの方? だれ? よくわからない……意識が……
「コーディネーターに王族エルフ風の衣装を用意させよう」
王族エルフの衣装なんて私は似合わないと思う……普段から戦衣着て暮らしてるグーレラーシャ人なんだけ……
なんでこんなにだるいんだろう……
「動きが悪いな、あの香は効き過ぎか?」
「自称ドゥラ=キシグ香国一の闇香料屋とか言うところから仕入れたんだが……動物とエルフは違うか? 少し減らすか……止めるか?」
戦闘能力は無いというデータだし、駄目になるとまずいから、止めておこうか……ともうひとりの声が聞こえたところで意識が遠のいた。
次に目が覚めたときは、夜だった。
意識は混濁してない、変な匂いもない。
起き上がるとキーとか鳥の声が聞こえた。
背中側は何かフワフワの布団らしきものが床に固定され薄い毛布がかけられていた。
少しふらつきながら立ち上がり通路側を見ると珍獣のオンパレードだ、翼人もいるけど小人はいない。
さて、奴らの間違いはこの戦衣を取り上げなかったことだ。
髪に刺してたかんざしは武器と有名なので取り上げられたみたいだけど、この戦衣は防御力は下手な鎧より高い……だが、本領発揮はこうに閉じ込められたときだ。
普段着の戦衣でも簡素な刺繍が入ってる、刺繍を解くと刺繍糸に包まれた天鉱合金のしなやかなラインがでてきた。
グーレラーシャ人が戦衣を必ず羽織る理由がこれだ、もっとも通常はこの特殊な刺繍糸を使うことは少ない、ほぼ戦闘能力で切り抜けられるからだ。
たぶん、この天鉱合金のラインで鉄格子は切れるけど……私が逃げ切れるタイミングを見計らわないとだよね。
監視カメラには刺繍糸抜く変な女に見えてるかな? まあ、使うときはさらに天鉱合金だけ抜くんだけど……。
取り上げられないように後ろを向いて手首に巻いておいた。
普通のグーレラーシャ人なら暗記とか仕込んでるんだけど、使えないもんは怪我のもとだから持ってないしね。
ルーがたぶん、きっと来てくれるし……ガナリスの闇がたぶん動いてくれると思う。
でも断髪される前に来てほしいな。
そうじゃなくてもこのクォーターエルフなのにエルフっぽい尖り耳のせいでちっちゃい頃エルフと間違えまくられたのに、絶対に断髪回避だよ。
私、グーレラーシャ人だもん。
うん、髪を伸ばして一本結びして、幼年学校入学式の紺色の制服を見せたら、エルフのお祖母様にダウリウスと似てる〜と狂喜乱舞されたくらいグーレラーシャ人だもん。
色違いのちびダウリウス〜ってなんだろう?
どうせ似てるならヒフィゼ家のチョコレート色の髪と目が良かった……筋肉ももっと付けばいいのに……
たぶん、私のスペック的にチャンスは一回だよね。
この際諦めて、この髪を切られるか……でも、若いモンの断髪ってグーレラーシャ人的にはハゲるより不名誉で戦闘に負けたとか、もう傭兵できませんとか……
昔よりゆるいけど、断髪に眉をひそめるお年寄りも……おしゃれさんや外国、異世界帰りは短髪の人も増えてるみたいだけど、私はせめて髪型だけでもグーレラーシャ傭兵のように見られたいよ。
本当はルー……ルアティウス王子殿下に求愛行動されてるなんてわかってるもん……私が……もっとグーレラーシャ傭兵国人っぽければ……せめて下等戦士の下でも持ってれば、自信を持ってルーの腕の中に行けるのに……
初めて会ったのはうーんとちっちゃい頃だ。
確か、ルーが姉上様ズから逃れて王宮の柱に隠れてるのを、久しぶりにダウお祖父様がきて浮かれてた私が王宮の廊下をフラフラしてたらオレンジがかった金髪の可愛い男の子が柱の影でふるえながら泣いてたのを……えーと、声かけて逃げられて追いかけて、立ち入り禁止の中庭はいって王宮警護官長に正座で説教、ダウお祖父様も一緒にされた記憶が……
うん、よく仲良くなったよ、ルー、私と……本当に……
でも、それ以来、メリリノア姉さまと愛黎姉さまも含めてよく遊んで、親友で……いつから求愛行動取られたんだっけ?
うーん……今ひとつよくわかんない……
でもさ、私、基本的に戦闘能力ないから……身分違いより、そこが気になるんだよね。
というか、元々戦闘騎馬民族ってあんまり、身分違いとか気にしないし……先代国王陛下のウェティウス様なんて異世界人を伴侶にしたくらいだし……グーレラーシャ男の愛を止めるより息の根止めるほうが簡単ってことわざ思い出したよ。
でもね、グーレラーシャ女性の理想のプロポーズは『俺の背中を任せられるのはお前だけだ』だし……守れないから……せめて、下等戦士の下位でも持ってれば……『あなたの背中は生涯私が護る』って言えるのに……
あのオレンジがかった金髪で深い紫の瞳の美丈夫な幼馴染がヘタレワンコ王子なのは、たぶん私のそんな弱気なところを……さっしてないな、うん。
あのヘタレワンコ王子っぷりは昔から変わんないし……でも高等戦士の上位は持ってるはずなんだけどなぁ……
「それにしても……あれって誰さ?」
指定されたクォーター王族エルフっていっても、容貌的に本当にダウお祖父様によく似てるんですけど? チョコレート色ジジイじゃないだけでさ。
王族エルフなお祖母様とは緑の瞳だけだけどハーフ王族エルフなお父様とは結構似てるんだけどね……お母様は栗色のかみがそっくりだけど、本当にヒフィゼ系ねって、ダウお祖父様のお姉さまのジャスミナおばさまの方が似てて、身体付きも胸が大っきいところがそっくり〜、私似の貧乳はどこいった〜とお母様が叫んで、お父様がそんなの脂肪の塊だ、君の魅力はそこじゃないよとここぞとばかり抱きしめてた。
うん、うちは私が仮に生きて帰れなくても安泰だね。
とりあえず、寝て体力温存しなくっちゃ。
絶対に最後まで諦めない。
それがグーレラーシャ人の心意気だもんね。
読んでいただきありがとうございます