クォーターエルフはへっぽこ2
今日こそ、ストップ、ハニーバーな朝食生活だよ。
そんなことを思うながら着換えを不本意ながらおいてあるガナリス部屋群に急いだ。
ヨーグルトソースサラダにチーズにオリーブの実にと朝食を思い浮かべながら王宮の静かな廊下を歩いていると向こうから誰か来た。
ヘタレワンコ王子の叔父王子で黒猫軍師なイェティウス殿下がいつもの黒い戦衣をまとって颯爽と通っていった。
横に避けて王族に対する略礼をするとイェティウス王子殿下も静かに会釈して去っていった。
グーレラーシャの王族のわりにイェティウス王子殿下も浮いた噂がないなぁと思った数ヶ月後、ボインな異世界人拾って溺愛な黒猫軍師をみるとおもわなかったよ。
そんなこんなで着替えに実家のガナリス部屋群に寄って着替えて出てくるとダウリウスお祖父様が珍しく来ていた。
「レゼルテア、相変わらず、朝帰りか? いい加減あきらめたらどうだ?」
「諦めるも何も、ルーとは単なる幼馴染……」
と言いかけたところでチョコレート色の目が半眼になったダウリウスお祖父様に言葉がつまった。
かの有名な戦闘文官さんと同世代のお祖父様はかくしゃくとした美老人で、元王立傭兵ギルド管理官長だ。
名門ヒフィゼ家の出なんだけど、王妹のエルフなお祖母様に捕まり、ケレス森国に婿入りした、父様の婿入り先に朝からいるなんて珍しいなぁ。
後で、よく聞いたらエルフの国の先代ケレス森国の国王妹のお祖母様を抱き上げすぎて少し里帰りしてろって蹴りだされたらしい、それで里帰りかたがた孫最弱な私に会いにも来たらしい。
お祖母様、軍人だからねぇ……でもグーレラーシャ男に愛しい妻を抱き上げるなはたぶん無理だと思うんだよね。
「俺もたいがい諦めが悪いが、グーレラーシャ傭兵国の男、それも王族なんぞ、執着の塊だぞ、諦めてルー坊の腕の中におさまったらどうだ」
「……えーと」
「レゼ〜おはよう〜今日も可愛いね〜」
口ごもってると父様が部屋の奥から出てきて手を振った。
ハーフエルフなダルフィーラ父様は戦衣は着ていない、短い栗色の髪に焦げ茶の目の美中年で一応私より戦闘能力はある、グーレラーシャ傭兵国人には劣るけど。
ダルフィーラ父様は僕はハーフだけど王族エルフだからとケレスらしい軽い短いローブとズボンをはいて、髪もエルフらしい短髪で尖った耳をさらしている。
エルフは森の中に住んでるので基本的に王族でも動きやすい格好で女性も短い髪が多いらしい、だから、たまに父様にエルフらしく短くして髪飾りつければいいのにと言われるけど、私はグーレラーシャ人の意識が強いんだよね、耳は尖ってるけど。
「レゼ、今日はお休みかい?」
「……ああ~ごめんなさい、行ってきます〜」
時間を見てあわてて手を振った。
クソー、今日は朝ごはんはハニーバーだぁ、ルーのあほー。
今日も、パンにはちみつかけられなかったじゃないかぁ〜。
ロッカーに常備してあるハニーバーが何本あったか思い浮かべながら長い王宮の廊下を走った。
「まあ、身の程知らず、廊下を走るなんてはしたない」
今日も元気に外交官令嬢が絡んできました。
縦ロールのピンクゴールドな髪に私より少し大きい身体にエメラルド色のタレ目の女性がだんだんスカートのドレスを着て異様に細いコルセットをつけてるという腰に腕を当て立ってる。
あのーここは裏口方面なんで、関係者以外はあんまり使わないんですが?
出勤してきた王宮勤めの人たちも怪訝そうな顔してるしやめましょうよ。
「忙しいのであとでお願いします〜」
「私はアキュア聖王国の公爵令嬢ですわ〜なんで身の程知らずがルアティウス王子様とイチャイチャしてますの〜」
廊下でわめかれても困るよ、そりゃ私は庶民クォーターエルフですけどね、耳を押さえて思わすとまった。
究極の庶民がなんでルアティウス王子様とルー様と仲良くしてますの〜この寸胴〜コルセットつけないなんて野蛮ですわ〜
あれ? この人、私は庶民だけど、実家は貴族って知らないのかな? それに寸胴じゃなくてウエストあるよ、戦士のお姉さま方みたいに素敵な筋肉ついてないけどね。
それに幼馴染だしさー、コルセットなんてつけるのはアキュア聖王国の正装のときだけだよねと思いながら気配を感じたので振り向く前に後ろから捕獲された。
「レゼはガナリス家とヒフィゼ家の孫ですが」
「まあ、ルー様、ごきげんよう」
外交官令嬢がまるで仮面を付け替えたように愛らしい笑みを浮かべた。
カーテシーとかいうスカートをつまんで腰をおろす礼も完璧だ。
「ゼセル嬢、ルー呼びは困ります」
「まあ、ルー様ったら、その庶民は身の程知らずといっても幼馴染でございましょう? 」
なんか通じてないなぁと重い腕の拘束をペチペチたたいた。
「ルー、悪いけど遅刻するから離してー」
「レゼ、なんで腕の中から出ようとするんですか〜」
仕事だよ〜、仕事に行かせてーとジタバタすると渋々離してくれたんであわてて走って裏口から出て、なんとか路線バスに間に合った。
まあ、はしたないってゼセル嬢の方がはしたないと思う。
うん、庶民だけど裏口なら顔パスだもん……思いながら息を整えた。
「それは災難でしたね」
細かい蔓草模様の小物入れを並べながら店長が笑った。
そりゃ他人事だけどさ。
そんなことを思いながらレース糸でできた花のかんざしをガラスのグラスに立てていく、確か新進気鋭の手芸作家でなくて老婦人がお孫さんに何か買ってあげたくて作った温かみのあるレース編みでグーレラーシャ女子に人気なかんざしで売れ筋だ。
ダンブラーくらいのグラスに銀のかんざし本体とレース編みの可愛い花が雫型のビーズとゆれて可愛い。
だいたいルーがあのゼセル嬢とかに良い顔してるから頭にくるんじゃない? 当分、夕食の誘いなんて乗らないんだからね。
ストップ朝食ハニーバー生活だよ。
そんなことを思ってたのが懐かしいです……おかしいな、普通に仕事が終わってルー対策に覗いて裏口から出ただけなのに……
たしかにお昼頃来たヘタレワンコ王子はムカついてたので撃退した、冷たいこと言った……でもいつもなら帰りも来るじゃないさ〜
つーか私、今ピンチですよー
こんな時こそ来やがれ〜ヘタレワンコ王子〜
こっちは戦闘能力皆無なんだからねー
今日は忙しいのか(ごくごくたまにほんとにたまにある)ルーの迎えがなかったんだよね、こういうときに限って〜
「オーっホホホ、さあ、やっておしまいなさい〜」
縦ロールのピンクゴールドの髪がよく目立つ仮面舞踏会みたいな羽のついた黒の派手な仮面をつけた見覚えある若い令嬢が黒いフリフリドレスで倉庫の木箱の前で高笑いしてる。
おかしいなぁ、今日も普通に惣菜屋にいく方々、歩きながらグーレラーシャ傭兵国風水餃子にしようか、平パンのチーズひき肉のせハニーのせ焼きにしようか悩んでたはずなのに……
『嬢ちゃん、仕事なんでね』
見覚えあるグーレラーシャ傭兵国人がいつもどおりのさり気なく目立たない格好で裏道に引っ張り込んで手刀で意識をかってくれた。
そして、現在この有様ですよ。
「息の根を止める依頼は受けていただけませんでしたけど、ええ、自分で交渉しろってどういうことですのー」
「……そりゃ、そうだよ」
見覚えあるピンクゴールドの巻毛にため息をつきながら見覚えあるグーレラーシャ傭兵国人が倉庫の入り口を見張ってるし……
ゆるゆる契約と縄にしたんだから自分でなんとかしろってこと? 借りにも闇の家業が裏家業なガナリス家の本家なんだからって……
あのおっさん、本部で会うといつも飴くれて頭なでてくれるのに〜 あそこのお姉さんもよくハニータルトクッキーくれるのに〜
お仕事は別なんですね、くそ。
そう、ピンクゴールドの巻毛の嬢さんはよりによってガナリス家が裏家業として請け負ってる闇の家業に頼みやがったんです。
もちろん国家公認です、傭兵ギルドではさばけない、裏のお仕事をするんです、暗殺とか誘拐とか諜報とか……
「ルアティウス様はわたくしと結ばれるのですわ、別れていただきますわ」
ピンクゴールドの巻毛が床に鞭をピシッと打ち付けようとして自分の足を打って痛いですわ〜と騒いだ。
お付きの従者男がお嬢様〜と慌てて足をなで、このしれもの〜とポカポカたたかれてる。
でも、お嬢様の後ろにいる何か普通っぽいけど不気味な日よけローブを目深にかぶった男性? が不気味だ。
「こちらの、方たちがこの世か、あの世かにエスコートしてくださいますわ」
「えー、暗殺は契約外だわよ〜」
ハニータルトクッキーのお姉さんが口に手を当てた、そんなことしたら私のほうが……とちょっと青い……うん、弟がなんかごめん。
し、知ってますわよ〜
きー、とお嬢様が騒いだところで、従者が動いた。
「さ、さあ、参りましょう」
ふるえながらナイフを手にちかづいてくる……さ、刺される? 華麗にさけら……れないから下等戦士になってないんじゃない〜。
ルー恨むよー、化けて出てやる〜。
針が従者の手に突き刺さりナイフが床に落ちた。
そのまま崩れ落ちて私も巻き込まれれ木箱から落ちた。
「私のレゼに手を出すとはいい度胸です」
「ルアティウス様、なぜここに」
ピンクゴールド令嬢の声が聞こえたけど、見えないんだよね。
ところで、いつものヘタレ王子と違う冷徹な表情のルアティウス王子殿下がゆっくりと倉庫に入って来るのが見えた。
不気味な男性? はまだ動いていない。
得物の槍は倉庫の入り口から入る光を受けてひかっている。
ヘタレ王子遅いよ〜 求愛してるなら早く来てよ〜。
崩れ落ちて動けない従者の下からクッキーお姉さんがひきづりだしてくれて、ちょっと木箱のかげに隠れてなさいと囁いてくれたので木箱の後ろに隠れて様子をうかがった。
「ルアディウス様? いえ、わたくしは漆黒の麗ですわ、この身の程知らずの平民を成敗……」
ピンクゴールド令嬢をルアティウスはにらみつけて隠れてる私をみて目を細めた。
「さっさとやっておしまいなさい〜」
ピシッと鞭を打とうとして今度はお尻に当たって痛がる令嬢が叫んだ。
だから、暗殺まで請け負えるほど、もらってないってーの、それに、レゼルテア嬢ちゃんになんかあったら、こっちがやばい〜
と飴のおっさんが叫んで槍で攻撃してきた、ルーを避けた。
「いくら家業といっても、私のレゼルテアをさらうとはいい度胸です」
「だ、か、ら、きちんと保護しただろうがぁ〜」
いざというときは盾になったわ、このアホ王子〜と言いながら高等槍士のルーの攻撃を避けまくってるところを見ると結構手練らしい。
「お嬢様〜」
従者がナイフを拾って振り回した。
ちっしろーとが厄介なと飴おじさんが拘束符を取り出した。
「希少な王族ーエルフを取り扱う日が来るとは……」
しかもケレスの王族とヒフィゼとガナリスの血を引くと背後に声が聞こえて寒気がした。
いつの間にか例の不気味な男性? がいないと思った瞬間、背後から口を押さえられて意識が飛んだ……まずい、まずすぎ……
ルー……ルアティウス……たすけ……
読んでいただきありがとうございます