闇の底
部屋の片隅、押入れの中に彼がいる。
彼の声は小さすぎるので、僕はそっと近づいた。
押入れを覗くと、そこは夜の闇。
涼やかな静寂が僕の心を満たす。
彼は光を嫌うので、僕は後ろ手に扉を閉めた。
トン、と音を立てて僕は暗闇に包まれた。
ここには彼と僕の二人ぼっち、
外の声は聞こえない。
深い闇の中、僕は彼と対話する。
彼の言葉は難解で、僕は何度も聞き返す。
彼は優しく繰り返す。
夜の底、顔の剥がれ落ちた僕らは、
静かな街の灯りを見上げている。
僕らの小さな部屋は、彼方に墜落していく。
僕らはそれも見つめている。