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慈悲転生のその先で  作者: 山羊沢 秋
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わたしと彼女の世界

 青い空、高く伸びる木々、小鳥の囀り、獣の息遣い。そして、美しい金髪のエルフの友人。それがわたしが今手に入れたもの。わたしの手離したくない宝物。


「おはよう、ユヅキ。今日もいい天気よ。……貴方が好きな鳥も彼処で鳴いているわ」

「おはよう、レク。……そうだね。わたし、レクと一緒に居ることが出来て──幸せ」


 レクと呼ばれた女──レク=セネラルの、ふわりと微笑む美しい顔に、同性ながら思わず見蕩れてしまう。

 背中にさらりと流れる黄金の髪。すっかり見慣れた長い耳。透き通る様に白い肌。そして、この世のどの宝石よりも煌めくエメラルドそのものを嵌め込んだような瞳。わたしの髪を耳に掛ける為に白魚の様な指先が触れ、擽ったくなる。ひとつひとつの所作が絵画から抜け出してきた淑女の如くさまになっており、木々の緑の隙間から落ちる木漏れ日がそれを際立たせる。

 此処にはわたしとレクしかいない。絶望しながら死んだわたしの心を満たしてくれるレクの存在と、わたしの新しい家こそ、至高の存在だ。


「……っとと! いつまでもこうしてる訳にはいかないよね。行ってきます!」

「えっ、まだゆっくりしてていいのに……寝起きでしょう? 今日は私がやるわ」

「ううん、この森に住まわせてもらってるお礼だから。このくらいやらないとね。……行くよ、マーチ」


 ぴゅるるる! と指笛を吹く。その途端木の上から小さな獣が降ってきた。薄灰色の鱗に包まれたマーチと呼ばれた小竜は、「ピィ!」、と鳴いて勢いを殺すことも無くわたしの肩に乗る。衝撃に数歩よろめくも、直ぐに愛おしくなってよしよしと頭を撫でた。


「待っててね! すぐ帰ってくるから!」

「……もう、わかったわ。気をつけてね」


 ぱたぱたと小さな体に見合う翼を動かすマーチを宥めながらレクに手を振った。

 さて、今日のご飯を探しに行こう。ご飯探し兼広い森の探索の魅力は何時でもわたしの心を捉えて話さない。今日は何にしようかな。せせらぐ川に手を浸らせて、近くに住む動物や魔物を狩って調理してしまおうか。たまには野菜中心もいいな──と思いつつ、落ち葉を踏みながら歩く。レクは人がイメージするエルフそのものの見た目をしているが、超がつくほど肉好きなのである。戯れる小動物ですら食料としか見てないのではないのかと思うこともあるが、そこの切り替えはきちんとしているらしい。

 ……やっぱりお肉にしよう。猪を狩って、魔物の息の根を止めて、ちょいと添える程度の薬草を採取すれば今日のうちは大丈夫だ。魔物だって食べるところはある。脚あたりがかなり美味しい(それでも最初にレクに与えられた時はかなり嘔吐いてしまった覚えがある)。


「マーチ、偵察お願い」

「ぴゅるい!」


 小さな体が獲物を探す為に舞い上がる。ぱたぱたと翼を動かすその姿はまるでぬいぐるみやマスコットのようだが、こう見えて鍛えれば一匹で城を落とすらしい。しかしわたしも彼もそんな事は望まないので好きにさせている。

 わたしの元に舞い戻ったマーチは北の方向に火を噴く。それを見て、わたしはでかした! と大声でマーチを褒め散らかしたのだった。


「それって魔物?」


 問うと、マーチはこくこくと首を縦に振った。わたしは腰の短剣に手を添え、ゆっくりと腰を落とした。

 茂みに身を隠すと息を殺しそっと獲物が訪れるのを待つ。もし敵が複数であったなら単純にその中に躍り出るのは格好の的、単細胞のやることである。とレクに言われたのはもう懐かしい思い出だ。


「ふふ、美味しいのだといいな……」


 がさりと落ち葉を踏みつける音がする。──きっと数は三。音の重さからして相手はゴブリンであろう。ゴブリンらは脂が多めで、食べるところが少ないのだが(更に緑なので食欲があまり湧かない)強くなればなるほどかなりの旨味を持つ。

 然しまあわたしはあまり好きではない。そもそも食べようとする人がわたし以外に存在するのか……とは思うが、まあここはエルフの森でわたしはそこに住まわせていただいている人間であるので、そこを悲観してはいけない。こんなゴブリンでもレクと食べると世界一の食べ物になってしまうのだから気にすることは無い。

 錆びかけたお古の短剣が太陽の光に輝いたその瞬間、わたしはそこから躍り出る。

 突進の勢いで一匹の首筋を刺し確実に殺すとそのゴブリンごと対岸の草むらに潜り、残り二匹が突然の敵襲に呆然としている間に木に登る。弓を担ぎ上から確実に頭を撃ち抜くと、生き残ったもう一匹がわたしに向けて飛び上がった。肩を掴まれて縺れる様に地面に落ちるものの何とかゴブリンを下敷きにし、両手でしっかり握りしめた短剣を振りかぶり喉元に突き刺した。


「ふう……終わったよ、マーチ」

「ぴィルルル!」


 マーチが口に銜えていた袋の中にゴブリン達の死骸を詰めると、ついでにそこらに生えていた薬草を頂いていく。後は猪だけなのだが、今日は見当たらない。──猪はいたらいいなレベルのものだったので、わたしはそうそうに切り上げてレクの元に帰ることにした。

はじめまして、山羊沢秋と申します。初連載初投稿ですので暖かい目で見守っていただけると幸いです。どうぞよろしくお願いします!

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