私、キラキラしたい!! 星の鼓動を聞いたの!! 野球、しよう!? etc.
タイトルに深い意味はありません。
あまり気にしすぎないようにお願いします。
というか、そもそも分かるのかな……。
テキストファイルを立ち上げる。
すると、重なるようにして表示されていた〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕という文章の上に、真っ白な横長の長方形が一番上に現れた。
「っわ!?」
……。
今までは〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕が画面上に出てきても態度を変えなかった癖に、テキストファイルが出現した途端、攻撃(?)を止める。
俺は、その様子をジト目で見ながらも、頭の中で、キーボードを叩く様子をイメージする。
叩く文字は『……そんなに読みたいか?』だ。
俺はそれを叩き終え、エンターキーを押す。
そのイメージはやはりスキル【プラットフォーム】と連動されており、俺のPC上、正確にはテキストファイルに的確に反映される。
このスキル【プラットフォーム】自体が、発動を念じたことにより、使用できた。
だったら、このスキルから生み出された俺のPC自体も俺の意思によって動かせてもおかしくない――そう結論付けておく。
その文章が画面上に写されると、スライム(大)は今日一番の驚きを見せる。
「えっ、えっ!?」
そして自分の体を360度回転させる。
シムラ後ろ!!と指摘されたか、あるいは、私メリーさん。今あなたの後ろにいるの、と言われたかのような反応だ。
周囲に誰かいるのではないか――そんなある意味とても人間らしい仕草を見せたスライムは、しかし直ぐに画面に向き直る。
「は、はい!! 読み、たい、です!!」
今度は、会話の相手がPC越しにいるように視線をそこに固定した。
まるでテレビチャットでもしているみたいだ。
そんな純粋な好奇心を、俺はしばらく見つめた。
そして、なんだか少々気恥ずかしさのようなものもあり――
『……その熱意に負けたぜ』
とその頬に集まった熱を誤魔化すように、俺はその一文を打ち込む。
「ふわぁぁぁ!!」
それを見たスライムはまるでプレゼントを貰う前の子供みたいに、体全体で喜びを表現する。
トランポリンにでも乗っているみたいに、ボヨ~ンボヨ~ンという擬音が付きそうな飛び跳ね方だ。
俺は、右端によせてあった『ボッチが教える救い方~救われた女性陣は単なる師弟関係では満足できなようです!!~』をドラッグ。
そして左にマウスを移動させる。
「わっ、わっ!? 動い、た!!」
一動作一動作に、スライムは感動する。
簡単な手品を見せてもらった子供のようなはしゃぎ振りだ。
中央辺りまで持ってくる。
すると、先ほどまでは画面の右端からはみ出して読めなかった全文が、表れた。
「うわぁぁぁ!! ――あ、あの!!」
これで、読めるようにはした。
そうすると、スライムはまた先ほどのように辺りを見回し、誰かを探し始める。
多分漠然としたPCの所有者――俺を探しているのだろう。
まあ直ぐ傍にいるんだがな、勿論コイツに俺のことは見えていない。
「あり、がとう、ございます、神、様!!」
スライムは感謝の言葉を述べた。
その方向に、俺はいないのだが、このスライムが伝えたい気持ちみたいなのは、それでも十分伝わってきた。
「……そんなんは、いいから、読むんなら、早く読め」
やはり何となく気恥ずかしくなり、聞こえないと知りつつも、俺はそんなことを口にしていた。
画面は最大化せずにいたし、そもそも読了に3時間前後はかかる文量だった。
なので、最初に表示された文だけでは勿論全部は終わらない。
スライムが読み始めて1分もしないうちに顔を上げるから、もしかして一瞬でつまらない・切る判定をされたのかと冷やっとした。
だが、次の文書へと進めないのだとわかると、俺はホッとする。
そして1分前後したら、その都度マウスのホイールを動かし、文章を上に流していくというとても手間な作業をすることにした。
丁度、ゆっくり流れる映画やドラマ終わりのエンドロールを、もっとゆったりペースにした感じだ。
確かにとても面倒で、普通ならこんなことはしない。
しかし、たとえモンスターとは言え、PCでも文字を通した間接的な繋がりとはいえ。
この世界に来て初めて、まともに誰かとそれらしいやり取りをする機会だったから。
それに、何より――
「…………」
スライムは一度として、読む目を止めることはなかった。
本当にちゃんと読んでいるのか、理解できているのかとの疑問もあるにはあった。
面白くないかもしれない、つまらないかもしれないと予防線を張るような言葉を、何度もかけようとした。
聞こえないと分かっていても。
テキストファイルに書いて、伝えることはできた。
でも、黙っていた。
――真摯に俺が書いたものと向き合ってくれている――そう感じたから。
そうしてどれくらいの時が流れただろうか。
空はもう既に、星の光が自己主張を強める時間帯。
辺りは暗闇に支配され、PCの画面が放つ光だけが、視界を確保する頼りとなっている。
スクロールの残りとの関係から、もう間もなく章の終わりだ。
自分としては感動できるように締めくくっているつもりなんだが。
そして、これ以上ホイールを動かしても、画面が流れない場所まで来た。
さて、スライムの反応は――
「――プッ」
え!?
笑われた!?
嘘っ!?
最後笑う要素なんて一つも入れてないはずだけど!?
これはあれですか!?
『最後まで読んだけど、面白い要素なんて一つもありませんでしたね(笑)』っていう嘲笑の笑いか!?
「――プギュゥゥゥ!!」
いや、違った。
なんかスライムの鳴き声だったらしい。
本当に感極まって泣き出してしまった、みたいに声が上がる。
人っぽい「うぇぇぇん!!」みたいな感じではなく、生物的なルーツであるスライムの鳴き声でそれが出ていた。
あれだ、何かバラエティーの企画であったが『日本に住んでる外国人は驚いたとき、日本語じゃなくて、母国語で驚くんじゃね?』っていうの。
あれみたいな感じ。
本当に感動したから、今までたどたどしくも話していた人の言葉ではなく、スライムの鳴き声が出たっていう。
ふぅぅ……一先ず、『クソつまんない物読ませやがって』的な展開じゃなくてよかった。
そして一応は自分が書いた意図というか、どこをどう読んでほしいかを、いくらかは物語から読み取ってくれたようだ。
それはスライムであっても、変わらない。
俺は目の前で未だ感動の余韻に浸っているスライムを見て、胸の内に何か温かい物が生まれるのを感じる。
そしてそれは何だかくすぐったくって、でも不思議と嫌じゃない――そんな何かを。
俺も俺で、そんな心地よい感覚に包まれていた。
すると――
「――プッ、プギュゥゥゥ!!」
――突如として、スライムが発光しだした。
……おや!? スライムの 様子が……!
――ってなんでやねん!?
そんな要素一切なかったけど!?