【プラットフォーム】に、興味は、ありませんか?
音声が流れた後、頭の中に〔⇒はい いいえ〕という文字が、浮かんできた。
突然のこと、驚きの声を上げるも、勿論誰かに聞かれるということはない。
今は、この事態に対応しないと――
「って、あっ!! そうか、PC置いてきたまんまだ――」
【プラットフォーム】という言葉があったことから、多分何かがあったのは、俺のPC。
俺は自分自身が他人に認識されないんだから、自分の身の回りの物も当然それに準じる、と勝手に思っていた。
突如スライム達の声が聞こえてきたから、ということもあるが。
それと、スキルを発動して出てきたんだから、出したり収納したりできるもんだと。
でも、もしかしたら、そうじゃないのかもしれない。
まあ今はそれはいい。
置いとこう。
『〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕』
うん。『許可申請を受けました』とあった。
とすると、何か俺のPCに悪さをしようとした、という感じではない。
俺が立場的に上位で、どうするかを決めることができる、ということになる。
そうすると、じゃあ【プラットフォーム】を更に使ってPCを収納するよりは、どういう風にこのスキルが使われるのかを見た方が、後々に効いてくるか。
期せずして自分の【プラットフォーム】のスキルの使用例が出来たことに驚きつつ、俺は急いでPCを置いてきたところに戻った。
そして、そこにいたのは――
「う、わぁぁぁ、なん、でしょう、これ……」
「…………」
――スライム(大)がいた。
お前かよ!
いや、確かにお前が去っていった方角、俺が来た方と同じだったけど!!
周囲はすでに暗く、不気味さを醸し出す森の中、PCの画面が放つ光に見惚れるスライム(大)。
さっきの落ち込み様はどうしたよ!
こっちのシリアスな雰囲気返せ!
お前の仲間、滅茶苦茶お前のこと心配してたぞ!!
『ぁぁ……仕方なかったとはいえ、あの子に辛い仕打ちをしてしまった。許しておくれ』的な空気充満してたからな!!
はぁぁ。
なんか、もし変な奴だったらどうしようとか、そんな心配も全く必要なかった。
『“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました』とあったが、あれはコイツからだったのか。
『“ ”から』というのは、要するにあれか、名前がないから空白になったのか。
ということは、別にこのスキルの利用に“名前”という要素は重要ではないということかな。
俺は目の前でなされている事象を観察しつつ、スキルがどういうものなのかの考察をする。
……ってかそもそも止める手立てもないしね。
「……これ、もう少し、で、見え、そう!」
スライム(大)は俺のPCの画面右端に避けて置いていたテキストファイルに興味深々だった。
お前、さっきまでのテンションと全然違うじゃねえか。
その知識欲をもっと戦闘面に活かしていたら、お前の仲間もこんな仕打ちしなくて済んだのに。
〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕との文章が、中央にでかでかと表示されている。
しかし、それには全く関心を払っていなかった。
スライム(大)が見ているのは、俺が書いたファンタジーもののお語で、しかし、右端へと寄せられてしまっているため、文章の冒頭部分ばかりが映っている。
このスライムは、何とかそれを見ることはできないかとその場で飛んだ跳ねたを繰り返していた。
「……ってか、これが文章だとわかるのか、コイツ」
俺が驚いたのは、そのことだった。
テキストファイルに書いていたため、例えば俺が書いた文章には『ルークはコウに、女性であることがバレてしまっていないか気が気でなかった』という部分がある。
ヒロインの一人が、へまをして、男装していることを主人公にバレないか冷や冷やしている場面だ。
画面上にはこれが“ルークは”というところまでしか見えておらず、直ぐに次の行へと移る。そして“気でなかった”が次の文章として画面に映っているのだ。
つまり、普通に見たら『ルークは/気でなかった』としか文章としては読めない。
勿論形式的な主語、述語は揃っている。
しかし、文章としてはおかしいのだ。
それはこの世界の言語がルビのように振られていても変わらない。
そうすると、このスライムは、本来の文が他にあり、『ルークは/気でなかった』は今画面に表示されている一部分でしかないと理解できていることになる。
……それは、モンスターとしては凄いことなんじゃないだろうか。
「――ふ、ふにゅ!! ん、んん!!」
俺が今の状況を観察していると、痺れを切らしたのか、スライム(大)は、とうとうPCに向かってその体をぶつけ始めた。
お、おいコラッ!?
――と、焦るも、その必要性がないことは直ぐにわかった。
俺のPCは一回り古い機器で、型落ちセールだったのを買った。
なので、そこまで耐久性が優れているわけではない。
しかし、スライムが体をぶつけても、びくともしなかった。
これは――
「やっぱりスキル【プラットフォーム】として出したから、か?」
そう考察してみる。
しかし――
〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕
思考を中断させるかのように、また、先ほどの音が。
今回は目の前で見ていたので、何とかこの事象の因果関係を把握する。
「な、なん、で? ねぇ、なんで……?」
スライム(大)が体を当てる度に、何度も何度も同じ音が俺の頭の中を流れ、同時に画面上にその申請が重なって表示される。
〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕
〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕
〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕
〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕
〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕
〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕
〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕
・
・
・
・
・
・
「わ、わかった!! わかったから!!」
途中から迷惑メール並みに増え続ける許可申請に、背筋がゾッとした。
スライム(大)は多分純粋に見たいがために、どうすればいいかわからずたた体当たりをしていたのだろう。
だが、もう俺からしたら声がヤンデレのそれだった。
やべえよ、お前、その執着心もっと戦闘欲に変換しろよ。
怖ぇよ、後、滅茶苦茶怖ぇよ……。
そんなんだから同胞に旅立たさせられんだよ。
俺はスライム達を発見する前に習得していた、イメージ上で操作するという方法を用いる。
そして、テキストファイルを立ち上げた。