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ハグ……しよ? ってか、したら?

 スライム(大)は、しばらくその場を呆然としていた。

 だが、ここでじっとしてても何にもならないと悟ったのか、そのボロボロの本をムニュっとした体に携えて、トボトボその場を離れだした。




 ……何とも言えない現場を目にしてしまった。

 見てしまった以上、どうしてもスライム(大)に対して同情的になってしまう。

 

 まあそこはいい。

 人情(人じゃないというツッコミは無しだ!)として、そういった感情が湧いてしまうことは避けられないんだから。

 

 


 ――問題は、今の俺には、あいつにしてやれることが、何一つない、ということだ。



 今の今まで、俺はこの騒動の中心点で、誰でも気づけるような場所に浮かんでいた。

 それでも気づかれないのだ。

 

 そして、今のところ俺はこの世界にて、物理的に干渉する術を持たない。




 助けたい奴が、手伝ってやりたい奴がいるのに、何もできないということがここまで虚しいことなのか。

 ここまで胸が締め付けられるような想いをすることなのか。


 


 俺は、その場で無力感に打ちひしがれていた。




 そうしてどれくらい同じように浮き続けていただろうか……。





「……あれ?」




「――ピギィィ……」





 他のスライム達が、戻ってきた。

 




「ピギィッ、ピギッピュ」


「ピィ、ピィィ……」



 先ほどその場を離れた群れのスライム皆が、暗い、悲しい雰囲気を隠そうともせずに。 


 そしてスライム達は戻ってくるなり、スライム(大)が大切にしていたと思われる捨てられた本を、それぞれ手に取る。

 彼らは自分たちで付けたはずの土埃などを一生懸命、丁寧に払っていた。

 

 

 綺麗にした後は、まるで我が子を抱き上げる如く大事そうに本を抱えて……。



「…………」


 

 俺はどうせ聞こえないから、ということではなく。

 言葉が出ず、ただ彼らが本を持っていく先を黙ってついていった。




 そこは、一見岩に穴を掘って作った、粗末な一部屋だった。

 だが、そこには入れ替わり立ち替わり、スライム達が先ほどの本を持ってきては、丁寧に丁寧に並べていく。


 数にしてみると100冊あるかどうか、というところだが、モンスターたるスライムにしてみれば、途方もないくらいの数になるのだろうか。



 差し詰めスライム(大)のための、図書館だ。

 それを見ると、俺はもうこの穴を、粗末だなんて表現することはできなかった。


 きっと彼らが、あのスライム(大)のために作ったのだろう。



 

 そこから少し離れた場所に、草を敷き詰めただけの簡素な集会所が設けられていた。

 スライム達からしたら、これでも豪華なつくりなのかもしれない。



「ピギィ……」


「ピィィ……」


「ピギィピギィ」



 そこには5匹ほどのスライムがいた。

 スライム(長)を中心に、皆沈んだ様子でいる。


 

 

 スライム(大)の去る前と後の違いから、彼らが何に対してここまで沈んでいるのかは、明らかだった。







「――……お前ら、不器用過ぎだろ」






 俺は、誰にも姿が見えないこと、声が聞こえないことを、今この時だけは感謝した。

 

 


 スライム達は、わざとスライム(大)を追い出したのだ。

 スライム(大)に、自分自身を守る力を持ってもらうために。


 彼らの言葉が分からなくても、今までの状況を踏まえると、推測することはできる。



 スライム(大)は、人間が読むような本を大事にし、そして俺が分かる言葉を話せるくらいだ。

 要するに、他のスライム達とは違って本人の努力か何かで、彼の頭はモンスターにはない程に優れていた。

 そして体も大きい。

 だが、戦おうとしない。


 彼らは今ままでもスライム(大)無しで戦ってきたのだ。

 生き延びているということから、戦力としてはそもそも期待してない。

 

 でも、彼らは、スライム(大)に対して戦え、と要求していた。


 要するに、自分で自分を守る術を持ってほしいのだ。

 彼らがいつまでも、守ってやれるわけではないから。

 


「プグィ!」


「プギィッ……」


 一匹のスライムが入ってきた。

 中々区別がつかないが、どうやら本を戻す作業をしていたスライムらしい。


 片付けが終わった、との報告だろう。

 スライム(長)はそれを聞くと、溜息のような長い鳴き声を上げる。

 

 

「プギュゥゥゥゥ……」



 そして、スライム(大)が去っていったと思われる方を向く。

 他のスライムも同様にして同じ方向へ振り返った。


 皆、彼の身を案じるようにして沈黙する。



 ……獅子は我が子を千尋の谷に落とすという。

 可愛い子には旅をさせよという言葉もある。



 このスライム達は、あのスライム(大)を大切に思っているのだろう。

 彼の去った後、申し訳なさそうに本を大事に扱っていた辺りを見ると、もしかしたら自分たちの誇りのように思っているのかもしれない。

 自分たちとは違って、別の言語も覚え、自分たちにはわからない人間の世界を理解できる、あのスライムのことを。


 でも、だからこそ自分たちが守れない事態が起きるかもしれない。

 そんなことがあったとき、せめて自分で身を守れる術を手に入れておいてほしいのだ。


 まだ自分たちが守ってやれる間に。

 何かあってからでは遅いから。





 コイツ等は全く……。






 俺はその場を離れ、あるところに向かおうとした、その時――




〔“  ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕


 


 頭の中に、あの音声が響いた。

野暮なことは言わず、そっとその場を離れる。

大和魂溢れるその心意気。


スピリット先生、正にブシドーです!!

(訳:“サンシャ〇ン成分に限らず、バン〇リ成分も偶に含みます。” または“今話も何もしていないスピリット先生へのツッコミは無しでお願いします!!”)


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