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“ピギュィ!?” だって!? じゃ、じゃあ……が、頑張ルビィ!!

 人が出すのとはまた違ったような声が、更に何度か耳に届いてくる。

 夜の森の中、声は不気味なほど響いてくる。

 声はどこか切迫した様子で、事態の深刻さを訴えていた。



 何事かと、俺は声の聞こえた方へと文字通り飛んで行った。

 1分もしないうちに、その発生源へとたどり着いた。



「ピギュッ!! ピギッギ!!」


「プニュン!! プニュフィ!!」

 

「ご、ゴメン、なさい……ゆるして、ください。おねがい、します」



 そこは、少し開けた岩場だった。

 ここには木は生えておらず、そのためにできたスペースを利用して、生活している者達がいた。


 



 ――スライムだ!




 

 見た目は夜だということもあってか、藍のような深い体色をしている。

 だがその体は透き通っていて、中に空気泡のようなものまで見て取れた。

 子供が遊ぶボールくらいのサイズで、それが跳ねたり、転がったりしている。


 何匹ものスライムが一つの場に集っており、そこで小さな輪を形成していた。



 しかし、この世界に来て、初めて自分以外でモンスターを見つけた喜びなど抱けない位に、その場の雰囲気がただならぬものだった。


 

 

 輪を作り出している多数のスライムはどれも似たり寄ったりな姿をしているものの、その跳ねる動きの大きさや、鳴き声に含まれている険からして、随分と怒っていた。


 そんな怒気に充てられているのは、中央に一匹だけポツンといるスライムだった。

 その一匹は他のスライムとは明確に区別できる体をしている。

 

 一回り程大きく、他のスライムがサッカーボールくらいの大きさだとしたら、この一体は差し詰めバランスボールと言った位だ。


 そんな体格差があるにも関わらず、最も大きいスライムが、他の小さなスライム達に囲まれ、非難されるような形になって、縮こまっている。

 


「ワタ、シ……たたか、えません。つよく、ないです」


「ピギィッ!!」


「プニィン!!」



 そのスライムが更に特徴的なのは、この一匹だけが、俺が理解できる言葉を話していたことだ。

 他のスライムのは、本当に“鳴き声”と表現するしかない程で、俺には何を言っているのかさっぱりわからん。

 しかし、それでもあの言葉を話すスライムは理解できている様子で、周りのスライムが鳴けば鳴くほど申し訳なさそうに、辛そうに縮こまる。


 

 何とはなしに、その中に浮遊していっても、どのスライムにも俺は認識されなかった。

 まあやはりというか何というか――



「あぁ、ああ~――聞こえるか、聞こえる奴がいたら返事してくれ」


 

 ――そんな声を出してみても変わらない。

 俺なんていないが如く、彼らはこの糾弾の場を継続する。



 

 ……もしかしたら、このスライムなら――なんて淡い期待感は呆気なく潰える。

 まあ、流石に甘いか。

 他のスライムと違って、一匹だけがなんか俺にわかる言葉を話していたから、俺の声も聴くことができるんじゃないか、なんて。



 

 俺は、残念な気持ちはありつつ、事態を静観することに。

 というより、それ以外に俺にできることなんて今のところないのだが。



「ピギィッギィ!!」


「あっ!? そ、それは――」



 輪の外にいたスライムの何匹かが、一時その場を離れた。

 そしてそれ程時間が経たない間に戻ってくると、行きには持っていなかったものを、彼らは携えて帰ってくる。


 それを見たスライム(大)は、驚愕の声を上げた。



 

 ――それは、沢山の本だった。

 

 彼らの上を漂って、その本の表紙を盗み見る。

 どうやら人間が書いたもので、冒険譚や歴史書、恋愛物など色んな種類の本がそろっていた。


 ……だがそれらの表紙は勿論、日本語で書かれているわけではない。


 俺、この世界の文字、やっぱり読めるんだな。




 戻ってきたスライム達は、本をあてつけるようにして、スライム(大)の目の前に放り投げる。

 それを何度も繰り返され、スライム(大)の周りにはちょっとした本の山ができるほどだった。



「や、やめて、ください! だ、だいじ、な、ものです!」


「ピギュィ! ピィッ、ピィッ!!」


「で、でも、ワタシ、ほんと、に、つよく、ないんで、す」


 スライム(大)が頑なに首(?)を縦に振らないところを見て、何匹かのスライムが前に進み出た。

 そのスライム達は何やら芝居じみたことを始める。


 一匹のスライムが、別のスライムを自分に乗せて串団子みたいな形に。

 そのスライム団子が、おそらく怖くなるような鳴き声を発しながら、スライムの群衆に近づいていく。


 それに対してスライムの群れは怖がる素振りをして、逃げ惑う振り、をした。



 ……俺の翻訳が正しいかはわからんが、どうやら彼らはモンスターに襲われるスライム達、を演じているらしい。

 

 そしてその次に、10匹位のスライム達が次々におにぎりの如く一か所に密集する。

 それは統一された一つの意思に操られているようにして、モンスター役のスライム団子たちに向かっていった。

 スライム団子は驚いたようにして逃げ出していく。



 ……なるほど。

 つまり、今までの会話と、今の寸劇を総合すると、どうやら彼らはスライム(大)にこう言いたいらしい。


 



 先手:集団の意思


 ――スライム(大)、お前体でけぇんだから、戦えよ!! じゃねえと、てめえの本捨てっぞ!?



 後手:スライム(大)


 ――いや、自分、強くないッス!! この体のでかさ、ただの見せかけッス!! 本は捨てないで欲しいッス!!



 




 うむ、見事な翻訳。

 何となくだけど、多分大体あってると思う。

 

 これ、【ラーニング】で【翻訳】とかゲットできないのかね。



 

 

「わた、し……」


「…………」


 スライム(大)の態度に業を煮やしたのか、集団の中から一匹が進み出てきた。

 他のスライムは、彼(あるいは彼女?)が跳ねると道を空ける。


 ……どうやら群れの長的存在らしい。



「ピギィ」


「あっ、そ、れは――」



 そのスライム(長)は、小山になっていたところから器用に一冊だけ抜き取ると、スライム(大)の目の前に放り投げる。


 そして、愛想をつかしたというように、他のスライム達を引き連れて、その場を離れだした。



「あ、あぁぁ――」


 中には、ちょっと同情的な目で後ろ髪引かれるようにスライム(大)を気にする者もいた。

 しかし、最後には、みながその場を離れていった。


 スライム(大)は、その場を動けずにいた。



 



 ――スライム(大)は、一冊の本をお供にすることだけを許され、群れを追放された。




Q:タイトルの割に、スピリット先生は活躍がほとんどない……。


A:ほ、翻訳を頑張ったんや!? スライム達のボディーランゲージを言語に精一杯(震え声)!!


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