表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/23

序章

はじめまして。

モンスターに転生する主人公ということで、うまく表現できるか心配です……。


読者の皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

 自分が意識を失っている姿を、皆さんは見たことがあるだろうか。

 酔っ払い潰れている横顔を同僚に撮られただとか、あるいは、寝顔を恋人に、とか。


 それらを見せられて、ああ、自分はこんな姿をしているのか、ブサイクだな、アホみたいな面してるわなどなど。

 そしてそんな恥ずかしい思いをしながらも、笑ったり、慈しんだ顔をしてくれる相手がいることに、どこかホッとしたり。


 要するに、それは相手がいることを前提としている。

 ちなみに俺にそんな相手はいない。


 友達……大学に入って何か変わるかと淡い期待を持ったが、講義は常にボッチで過ごし、単位は無事取り終え、本当に何事もなく卒業した。

 親しい同僚……「おう、神里(かんざと)!! 俺この後合コン行かないといけないんだ、、代わりにやっといてくれ」と仕事を押し付けてくるクソ野郎なら周りに溢れてますが何か?

 そして恋人。

 

 一時欲しいな、などと考えた時期もあったが、いないならいないで特に困らないことに気づいた。

 勿論いたらいたで、今の自分の生活が色鮮やかに変わっていくのだろうが、積極的に欲しいとは思わなくなった。


 


 ――おっと、ちょっと話が逸れたか。


 要するに、俺には自分の寝顔を見る機会など訪れようもない、ということだ。

 (ちなみに親はなしだ。息子の寝顔を写した画面を見せられて「智博(ちひろ)、お前面白い顔してるな!!」とか親父に言われても殺意しか湧かないし)


 では、なぜこんな長々と前口上を述べてまで、そんな話題を出したかというと――







 



 



 ――俺の目の前に、俺の死体があるのだ。










 いや、何か殊勝なミステリの叙述トリックをしてるとか、ふざけてるとか、そんなんではなく。

 状況を詳細に説明するとだな。




 意識を司る俺:今、宙に浮いている(空中浮遊ってこんな感じなんだ……)。

 死んだ俺:開いたPCを前に突っ伏してる(悲壮感溢れる顔。吐血してないのがせめてもの救いか)。













 ――やっべ、俺、死んだわ。








 

 アイエェェェ!? 死んだ!? シンダナンデ!?

 いやもう過労死で間違いないでしょ!!


 クソがっ、だから言ったじゃねぇか!!

「えっ、でも、俺、今月もう残業130時間超えてんだけど……」って!!

「修行修行!! 若いうちは修行してなんぼッしょ!!」って意味わからんわ、じゃあお前も合コン行ってないで働け!! お前同い年だろうが速水!!


 


 ……まあ、断らなかった俺にもその要因があるんだろうが。

 思念体か精神体かはよくわからんが、ぼんやりと風船のように宙に浮く俺は、自分の死体を改めて目に入れる。


 働き方改革と威勢のいいことを言っていても、その皺寄せが来るのは俺たち末端の末端。下っ端の下っ端だ。

 持ち帰った仕事を眠い目をこすりながらも必死にPC上で処理していた俺は、遂に限界を迎え、そしてプツリと糸が切れたように倒れた。

 

 その際の意識は最早あやふやだった。

 最後は「ああ、これで寝られる……」くらいの感想しか頭に浮かばなかったくらいだ。



 

 ああ、俺、本当に死んだのか……。

 無念というか、悔しいというか、何とも言えない気分になってくる。



 こんなことなら、もっと沢山勉強しとけば良かった。

 こうして労基署もビックリのブラックに入社しちまったのも、俺にはそんな会社に入るしか選択肢がなかったからだ。

 もう少し色んなことを学んで、色んな考え方を身に着けておけば、もっと違う働き方もできたかもしれないのに。


 そしてもう一つ。

 俺は、浮遊する自らの体をぎこちなくも動かして、死体となって突っ伏している自分の体の後ろに回った。 


 その画面の右上をのぞき込む。


 ――そこには、頻繁に使う小説投稿サイトのお気に入りバーが。

 灰色の人生を送っていた俺にも、趣味と呼べるものくらいはあった。


 そのサイトに上がっている誰かが書いた小説を読んでは、その語られるお話に夢中になった。

 小説といえば頭がよくて、文章を書くのがうまいやつが仕事として作り上げるイメージがあったが、今ではそんなことはない。

 多少文章は荒っぽくても、発想が面白かったり、魅力的なキャラクターを素人が書き、それを読むことができるようになった。

 

 俺も最初は読むだけだったが、それらに触発されて自分で色んなジャンルの物語を書いてみたりもした。

 


 ――でも、一度もアップすることはなかった。

 

 死んでしまったことからもわかるように忙しかった、というのも勿論理由の一つではあるが……。

 まあ、死んだからこそわかることもある。

 

 ちょっとの勇気が、出なかったのだろう。

 

 こんなことなら、上げてみたらよかった。

 もしかしたらつまらないと罵倒されるかも、誰にも読まれないかも、なんてうじうじせず。

 

 俺が沢山の作品に触れ、そうして心に感動という名の水を注いでもらったように。

 誰か一人でも、もしかしたら俺の書いたものを受け入れてくれる人がいたかもしれない。

 心を豊かにしてくれた人もいたかもしれない。

 

  


 ま、今となってはアフターフェスティバルだがな!!



 今度生まれ変わるなら、色んな人に影響を与えて導いてあげられるような、そんな賢い奴になりたい。

 あわよくば転生チートでハーレムしたい。


 ……ははっ、ないか。


 ――そうして空元気でいると、突如視界が暗闇に包まれる。


 しかし、驚きはない。

 だって、俺はもう死んでいるんだ。


 もっと無というか闇的なものに覆われててもおかしくはない。



 

 ――そんな俺に、今度はどこからか声が降ってきた。



〔――願いを聞き届けました。スキル【ラーニング】を付与。合わせてスキル【プラットフォーム】を付与〕


 おおう!? 

 スキルとな!?

 これはもしかして、もしかしなくても転生特典というやつですか!?

 

 おっしゃぁぁ!! 

 信じてましたよ神様!!

 

 うっしゃほれ見ろ、ちょっと打ちひしがれてたけど、やっぱり見てる人は見てるね、元気出た。るん♪って来た!

 これで来世は勝つる!!


 なんか大逆転が起こったッポいのではしゃいでいた俺に、さらなる声が。


 

〔願いの総計…………+2。異世界への精神体転送につき、プラス体では転送不可。転送可能なゼロ体に戻すため、マイナスを加重します〕


 ……はい?

 えっと……神様?

 良いんですよ? そんな世界のバランス的なもの気にしないで。

 ブラック企業にボロ雑巾のように使い潰された哀れな子羊を見かねて、転生特典だけ下されば。

ってかゼロ体って何だよ、プリン体の仲間か何か?


〔転生に際する人間にとってのマイナス要素……【非人間に転生】〕


 ちょ!?

 ちょ待てよ!?

 

 何言っちゃってんのコイツ!!

 非人間!?

 

 嘘だっ!?


〔加えて……モンスターとしての転生に際し、【非生物への転生】〕


 おいぃぃぃ!?

 ってか俺転生先モンスターなの!?

 しかも『非生物』!?


 えっ、えっ!?

 非生物ってなに!?

 ま、まさかゾンビとかか!?

 

 い、嫌だ!!

 何でだよ!!


 そんなんだったらチートとか転生特典いらないから人間にしてくれ!!

 普通の人間に生まれてスローライフ送るから!!

 

 

〔総計…………±0。転送可能を確認。転生を開始します〕


 聞けやコラぁ!!

 くっそ、神なんてろくな奴いねぇな!!

 

 嫌だよ、ゾンビなんて!! 

 

 百歩譲ってもスライムにしてくれ!!

 転生するならスライムがいい件!!


 ってかスライムも非生物だよね!?

 あれ? スライムって生物!? 非生物!?


 クソっ、だからもっと勉強しとけば良か――



 〔転生、開始〕


 うぎゃぁぁぁ――  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ