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第7話 リトルウィッチハイスクール

「本当に外部の人間を連れてきてしまったようだな。」


「す、すいません」


やれやれといった様子に、まちは怯えたように謝罪する。


改まって、みずほが言う。


「ここは魔法学園。礼儀、教養、規律、そして魔法を学ぶ学校だ。」


(魔法!ありえるのかそんなことが。でも、それなら説明できるかもしれない。あれは僕の人生で感じたことのない不思議な感覚だった。大体この状況事態意味不明なんだ。それこそ、魔法なしでは理解できないぐらいに。)


「じゃあ僕は、魔法で召喚されたということですか?」


「理解が早くて助かるよ。だいたい正解だろう?稲荷まち」


「あー……えっと……」


禁書のコーナーに入っただけでも大変なことなのに、さらに魔法に理解のない人間を連れてきたとなれば、重い罰が待っていることは簡単に予想できた。


まちはそう思って言い訳を考えていたが、言い逃れようとすること自体がもはや無駄なことのように思われた上に、自分を睨みつける眼光にその気力も失せたので正直に語り出した。


「えー、禁書を使って使い魔を呼び出そうとしたのですが、何故かこの男が出てきてしまいました。」


「だ、そうだ。理解は追いついているか?」


あまりの急展開、信じられないような出来事に思考が停止しそうになる。


でも、男子高校生の持つ感性は大興奮している。


(禁書!使い魔!すげぇ!!)


こんなに真面目に、茶化すことなく話しているということは、魔法は実際にあるのだろう。


そう思わざるをえないのが現状だ。


「はい!」


空想上の産物だった魔法があることに、志引は心の内の興奮が抑えきれなかった。


隣で急にテンションが上がったジャージ男に、若干引いている少女もいたが。


みずほが、組んでいた手を崩して正面に差し出す。


「火よ」


広げた手のひらの上の何もないところで、炎がユラユラ揺れた。


「おぉ……」


こんなところでマジックをし出すような人間がいるだろうか。


もはや魔法の存在は疑いようのないものに思えた。


「ざっとこんなものだ。」


(ずっと、ずっとあればいいのにと思っていた。そしたら退屈なこの人生も変わるのにって。それが今ここにある。手の届く場所に、紙や液晶の上でなく現実としてここに。)


彼は自らの人生に対して疑問を抱くことがあった。


本気になって努力したことはなく、いつも多数派に従って生活する日々だった。


友達はいたが、意見をぶつかり合わせて喧嘩したことはない。


一緒に泣いたり笑ったりしていると思ったこともない。


家族とも一定の距離をとって接していた気がする。


特にやりたいこともない自分は、このまま何も為さずに生を終えるのだろうと思っていた。


魔法があれば、何か自分に能力があれば、こんな、踏み固められた道を外れないように外れないようにと進む人生を、つまらない日常を変えられるのではないかと思って過ごしてきたのだ。


だからこんな質問が出たのだろう。


「あの……僕でも……魔法は使えますか?」


何よりも先に口をついて出た。


高鳴る鼓動を感じながら、淡い期待を持った問い。


みずほは驚いた顔をする。


魔法が常識でない世界からやってきて、魔法を知って最初の言葉がこれである。


魔法に対して、意欲的な人間であることは明らかだった。


そしてそれは、だからこそ、苦い顔に変わった。


「残念だが……。」


帰ってきたのは言葉はその期待を粉々に打ち砕くものだった。


(変わらないんだ、何も。世の中は僕ひとりのために都合よく回っているわけではないんだから。)


志引からは雰囲気だけでも落胆が伝わってきて、まちは罪悪感を感じた。


「そして、外部の者がここに足を踏み入れた場合は記憶を消すことになっているんだ。連れてきておいて勝手だろうが、すまない……」


半分も耳に入ってこない。


言葉がするりとすべり落ちていくようだった。


巣立ちかけた鳥は、空を飛べずに地に落ちた。


僕が魔法を使えたら人類史に残るヤリ○ンになります。

年末年始は毎日投稿で、ライフポイント削りまくりでいくぅ。

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