第3話 邂逅
1・2話は同じ時系列で進んでます。
「はぁ…はぁ…なんで…?召喚は成功したはずじゃ……?」
いきなり頭上から男子が降ってくるという、並みの人生なら体験することが難しい出来事によって乱れた呼吸をなだめながら、少女の疑問が口をついた。
残念ながら答える相手は誰もいない。
両者ともに混乱していた。
現実感のない出来事に対応できないままだった。
床から光を放つスマートフォンだけが確かな存在のように思えた。
このままでは埒があかないと志引は思った。
「えっと、僕は武隈志引って言います。」
ファーストコンタクトでするべきは自己紹介だと、体に染みついた習慣が彼を動かしたが、それ以上の言葉を紡ぐことはできない。
これは当然とも言えることで、普段からあまり女子と喋ることのない志引が、こんな美少女と、ましてやたった今キスしてしまった女の子に対して、どのような言葉をかけるのが正解なのかはわかるはずがなかった。
むしろ気の利いたことを言おうとしたことで、頭の中は真っ白だった。
「私の名前は稲荷まち」
対してまちは落ち着きを取り戻したようだった。
今の状況は自分の責任で、なんとかしなければ、という思いが彼女を冷静にさせたのかもしれない。
「ところで、あなたは何者?」
「何者?って言われても…」
志引は自分の置かれている状況がよくわかっていなければ、また、彼がそれを理解する為の情報も全く足りていない。
「自分でもわからない。自分の部屋にいて漫画を読んでいたら急に…そして君の上に乗ってて…それで……」
まちの方へ目をやると、体を小刻みに震わせているように見えた。
そして小さな光源でもはっきりとわかるぐらい赤面している。
「あ、ごめん!その…キスしちゃったこと」
「べ、別に謝ることじゃないわよ!し、ししし仕方なかったことなんだから!!」
言葉の上では許すようなことを言っているが、態度からは明らかに怒っているのが伝わってくる。
志引は少しでもドギマギしてしまった自分が恥ずかしくなって視線を逸らす。
また頭に何も浮かばなくなった。
静寂が空間を満たす。
「ああスマホ、そういえばスマホは持ってきたんだった。」
苦し紛れにそう言って、志引は落ちていた自分のスマホをポケットに入れた。
「ホントに、気にしなくていいから。」
志引の落ち込む雰囲気が伝わったのか、まちがもう一度そう言葉をかけたが、その気遣いが心に痛い。
優しさが他人を傷つけてしまうこともある。
「ああ、うん」
その時だった。
まちが使った魔術書が、唐突に強い光を発し始めた。
「強い魔力反応…」
まちがその本を開くと、今まで書いてあった文字は消えていてた。
代わりに、
『finished a role』
という文字列が浮かび上がっている。
より一層光が増す。
「伏せて!!」
まちが本を投げ捨て、志引へと駆け寄り、かぶさるように倒れこむ。
バン!!!!
突如、本が弾け飛んで、図書館内に爆風が吹き荒れた。