第20話 鏡花水月
図書館から出る頃には日も沈みかけていたので、3人はそのまま食堂へ行った。
食堂は9時までは開いているらしい。
「おなかすいたよ~」
美園が、涙目におなかをさすりながら言う。
「も、申し訳ないとは思ってますよ。ただ、志引のせいで熱くなってしまって……。」
(ああぁ、そんな冷たい視線で見つめないでくださいぃ……。)
「あ、あはは……」
まちの凍てつくような視線に苦笑いで返す。
魔法が使えると分かって嬉しいはずなのに、一日片付けし続けた疲労感がその感情を押しつぶしてくる。
「でもさ、外部から来て魔術が使えるなんてすごいよ!志引くんには才能があるかもね!」
「僕に…才能……」
「うん!この学園に通える、それぐらいすごいことだよ!」
「それは……いいですね……」
自分が魔法を学ぶ。
想像するだけでわくわくしてしまう。
そして、これまでの不安で退屈な世界とはおさらばする。
これは逃げだろうか。
やりたいことだけをして生きていくのは世間に敗北したことになるのだろうか。
魔術学園で自分が学ぶことで、具体的に将来どうなるかは志引に全く見当がつかなかったが、このとき彼はきっとここで楽しく過ごせるような、そんな気はしていた。
安定や堅実さ、周囲の目よりも今が大切だった。
「掃除はちゃんと終わったか?」
「あっ、みぃちゃ~~~ん」
背後から現れた小柄な人影に美園が抱きつく。
うっとうしそうに立っていたのはみずほだ。
「大変だったんだよ~、ほめてほめて~」
「離してくれたら褒めてやるよ……」
頬ずりに対してみずほは心底だるそうにしている。
(おおっ、キマシタワー!!!)
さっきまでのシリアスなムードはどこへ行ったのか、あるいは変態に流れは関係ないのか。
「そうだ、志引くん。君の処分が決まったよ。」
「僕の処分ですか……?」
あたかも学園に通う気分になっていたが、学園側からすると志引は外部の人間である。
ここに来てしまった時点で、彼の記憶消去は決まっていた事項だったのだ。
それを思い出して少し落ち込む。
「まって、みぃちゃん。志引くんは魔術が使えるよ?ここに残す選択肢もあるんじゃない?」
「なっ!?それは本当か?だったら考え直す必要があるな……。」
ここにとどまることは、志引の望んでいることである。
そのチャンスが巡ってきたことに心が躍った。
「魔力を感じなかったから適性はないものだと思っていたよ。そうか……。いや、まぁ、今回の話は処分というよりは、帰るまでの君の所在に関してなんだ。」
「はぁ。」
たしかに毎日まちと生活していたら身が持たないような気がする。
(男子寮とかかな……)
「君が残るにせよ、帰るにせよ。現段階では外部の人間であることに変わりない。だから存在は誰にもばれてはいけない。ばれると色々ややこしくなってしまうからな。しかし、我々は仕事があって君をずっと見守るのはどうしても難しい。そこでだ……」
ここまでくると結末は見えた。
志引の存在を知る3人のうち、2人は無理だといっているのだ。
まちが顔を真っ青にする。
「ま、まさか……」
「ああ、夏休み中はまちと一緒にいてもらうことにした。」
「ええええええええええええええええ!!!!」
本日2度目の絶叫であった。
???「いつから12時12分に投稿すると錯覚していた?」
ごま40「なん………だと…………!?」
読者「どうでもええやん」