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一章2 『いかれた武器商人』※挿絵有

 左右から蒸気が噴き出す通りを、両手に重い荷物を抱えながら歩く。

 ウチが今住んでる国マキナヴィスは現在戦争状態で、敵国グーバスクロに押されに押されの防戦一方。兵士不足の武器不足で、どこもかしこも武器づくりに勤しむ企業ばかりだ。石炭と蒸気で動く重機が、今日も至る所で人殺しの兵器を作り続けている。


「Hi!シーエちゃん。その素敵な左腕をもっと素敵に改造してみなイ? もっと可動域増やすトカ、強度あげるトカ、武器付けるトカ」


 いきなり真横から大きな声をかけられる。折角ばれない様に反対方向を向いてたのに。


「何度目だよその挨拶…これで日常生活に支障は無いよ! つか改造するにも金かかるんだろ? 店長」


「モッチロン! 高くしておきますヨ?」


「そこは安くしろよ!!」


挿絵(By みてみん)


 目の前には手をスリスリしながらウザ絡みをしてくるヤベーサイボーグが1機。脳みそ以外全部機械部品に変換し、体を改造しまくってる。ヤベー。

 お前は何だ、アイルビーバックとか言う殺戮機械にでもなりたいのか。見た目は十分似た様なものだが。

 ちなみにその殺戮機械が出てくる映画はウチは見たことがあるらしいのだが、覚えてない。脳すらも機械に変えた第三勢力が攻め込んでくるけど仲良くなる胸熱物語らしい。


 こんなヤベー奴がウチが勤めるバイト先の店長なんだから、頭が痛くなる。


「ていうかシーエちゃん、店長は冷たくナイ? ちゃんとズンコって名前で呼んでヨ」


「ウザ絡みやめてくださいって意味であえて店長と呼びました。ちゃんと仕事して下さい。店長」


「敬語に戻ってルし!! ちゃんと仕事してるヨー? ワタシの体を使って取り寄せた新作パーツのお試し&レビュー制作」


(それは8割お前の趣味だろう…)


 店先をたまたま通っただけでこのめんどくささ。働いてる時はめっちゃウザイ。今日は確か夕方からシフトだったはずだ。憂鬱…。


「てかドコ行くノ?」


「普通に施設に帰るんだよ。みんなの分の買い物済ませてな」


 ウチは両手に持つ袋を見せびらかす。中には大人数が食べる用の食材が詰まっている。ウチ等が今住まわせてもらってる施設は結構な大所帯で、食事の買い出しだけでも結構な運動になる。


「機械の体になればそんな面倒な食事取らなくても済むヨー?」


「だから金かかるっつの! 関節動かすにも稼働魔力使うしエネルギー効率が悪い! 食物を経口摂取して胃で消化した方がよっぽど安上がりだ」


 そう。機械の体は便利な反面、栄養補給は全て特製の培養液でしか出来ない。関節の駆動にも稼働魔力を使用し、常にカロリーが減っていく。筋肉で体を動かした方がよほど低コストだ。

 特にズン子みたいに脳以外全てを捨てた体ならなおさらだ。何故脂肪細胞も捨ててしまったんだこの変態は…培養液はとても高価なのに。あ、コイツ金持ちだった。死ねばいいのに。

 培養液は高い。金持ちはそれでもいいのだろが、ウチは金が無い。無いからバイトしてるのにこのクソ店長は。


「まるでグーバニアンみたいな言い草だネ! ま、ワタシは彼らを差別しなイけど?」


「差別しないのは結構だが戦時中なんだから変な言いがかりはやめてくれ」


 ウチの後ろにいる、グーバニアン被害者への精神上もよろしくない。

 グーバスクロの狂兵士、彼らはグーバニアンと呼ばれ、今もマキナヴィスの各地で暴れまわっている。ウチが記憶をなくした原因も、どうらやコイツ等のせいみたいだ。

 …って情報ズンコ知ってるはずなのに、そのウチに向かってグーバニアンみたいて…マジヤベーなこいつ。いかれてやがる。まぁウチは気にせんけど。


 また後でなと告げ、ウチは早々にその場を立ち去る。去り際に「二人とも何かパーツにトラブルがあったラいつでも気軽に言ってネ!」と声をかけられる。

 ウチはその声に背を向けたまま、ズンコにつけてもらった左手を上げて答えた。重い荷物を持ったまま義手の左手を上げたので、余計に稼働魔力を使ってカロリーを消費する。あー失敗した。


 悪い奴じゃねぇんだけどなぁ…


 「今度お茶しない?」と遠くから聞こえるズンコのセリフを華麗にスルーしつつ、ウチは施設に向かう。ヤツと一緒にお茶とかウザ絡みの連続で頭が痛くなる。ただでさえウチの脳は故障してるというのに。てかアイツは口も胃も無いのにどうやってお茶飲むんだよ。


 記憶をなくして仕事も無く、フラフラしてた時に助けてくれたのがズンコだ。仕事をくれ、無くなってた左腕に義手をつけてくれ、ウチの相棒を自主稼働可能にしてくれた。が! それはそれ。これから生活して行く上であの路地はあまり利用しないようにしよう。ウザイ事はウザイ。施設からスーパーまでの近道なんだが。はぁ。



 5年。

 あれから5年たった。らしい。

 らしというのもウチには特別な問題があって、正確に日時を把握してはいるが、その5年前の記憶が全く無い。情報で知ってるだけだ。さっきの映画も情報だけ知っている。

 どうもウチもウチの相棒も、1ヶ月間の間の記憶しか保持することが出来ない様だ。なのでさっきの鬱陶しい会話も1ヶ月たてば忘れられるという訳だ。おぉなんとお得。

 でもウチの1ヶ月前の最古の記憶ですらズンコは鬱陶しかったから、たぶん1ヶ月後も鬱陶しいんだろう。記憶が消えても意味無いな。


「今の会話日記に書くの?」


 背中から相棒の声がした。かわいらしい女性の、とても愛おしい声が。


「いやいらんだろ。日記を書く腕が疲れるだけだよ…」


「だよねー」


 特にグーバニアンの件は、と心に強く思う。最後にかけてもらったセリフくらいは書いても良いかなとも思うけど。

 しかしこの相棒一切喋らないと思ったら背中にピッタリくっついて隠れてやがったな。ウチがズンコに合わせて体をひねる度、対角線上に来るように移動しまくってたもんな。

 まぁそれが正解だけど。


「見つからなくて良かったな」


「それな。ボク、シーエ以上に絡まれるから」


「ひゅ~モテモテ~♪」


「殺すよ?」


 洒落にならない。ウチ等は運命共同体なのに。あ、相棒がウチの人格を削除すればウチだけ殺せるのか。なおさら洒落にならない。


 脳以外全て機械で出来た相棒。脳の下から4本の虫の様な機械の足を生やし、稼働魔力で動く可動式脳みそ。

 本人の人格だけじゃない、ウチの人格と記憶までを保存し、文字通り一心同体となったウチ等が生きていけるキモ。


 ウチが記憶喪失になった際、最初に解体した脳の持ち主。


 そんなアルビがちょっと怒った顔をしてこっちを見ていた。

■キャラ紹介「シーエ」

挿絵(By みてみん)

苗字であるイーヴァイは仮の名です。とりあえず苗字無しだと生活不便なのでアルビが付けました。


■キャラ紹介「ズンコ」

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白いです! [一言] 肉と機械の戦争.....Twitterで拝見しましたが、サーキックとメカニトを参考にしたそうですね。
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