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二章6『カニバリズム』

「疲れた…」


 ウチはつぶやくと共に、しりもちをついてその場にへたり込んだ。


「シーエ!? 大丈夫?」


 アルビが心配してくれる。


『あれだけの戦闘の後だ。それに、色々あったしな…』


 エムジが労わってくれる。そう。色々な事がありすぎた。助けられなかった乗客、少女。目的のわからない敵の動機、言動。重要なはずなのに思い出せない、ウチの記憶。


「ふぅ…」


 ウチはズリズリと四つん這いで、エムジの死体…ではないな今生きてるから。切り離された体の方へ向かう。


『どうした? 流石にもう首は繋がらないと思うが』


「ああいやいや違くて、お腹減って」


『…は?』


 エムジから間の抜けた声が聞こえる。ウチそんな変な事言ったか?


「今回の戦闘、出来る限り培養液は使わなかったんだ。ウチ自身のエネルギー、カロリーを使った。だから疲労感と空腹感が凄いんだ今」


『…なんで液を使わなかった?』


「そりゃエムジとアルビのためですやん。あの敵の強さも解らなかったから、どれだけ戦闘が長引くかも想像つかなかったし…。脳だけになったアルビとエムジには培養液が必須だから、使いたくなかったんだよ」


『それは…まぁ…サンキューな』


「ごめんね気を遣わせちゃって」


 エムジとアルビがちょっとバツの悪そうな声を出す。


「いやいや大丈夫。結果的に何とかなったしね」


『で、俺の体に近づいてるのはなんでだ?』


「? 食べようと思って」


『!!!?!!?!?!??』


 何かエムジがパニクってる。ウチはその隙にエムジの服を脱がしにかかる。


『待て待て待て待て!! 何!? 食べるって何!? 何で俺の服脱がせてんだ!!?』


「そりゃ布ごと食べられないだろう…」


『食べる事が当たり前みたいに言うなよ! 何!? お前人食べるの!!? しかも俺食べるの!!?』


「どっちかっていうとウチはエムジに食べられたいけど…あ、性的な意味でね? でも今は食べるしかないじゃん?」


『そんな話してねぇよ!! お前何でそんな普通に人食べようとしてんだよ! 食べないだろ普通!!』


「え!?」


 え、めっちゃビックリした。食べないの…? あれ、ウチの常識が違う?? ん?


「…戦場で魔力使ってたらカロリー不足になるよな?」


『あ、ああ』


「でも都合よく食べられるものが落ちてるなんてことはないよな?」


『まぁ、そうだな』


「でも死体はいっぱいあるよな。…食べないん? 軍では。これは常識では無いん?」


『いや…食べるケースも、ある。確かに。ある。俺は経験ないが、そういう戦場はあると聞く』


「ならウチ間違ってないじゃん」


『躊躇なく食おうとするのがやべぇって言ってんだよ!!』


 えぇー?


「まあ、ウチは確かに人と少し性癖が違うし? もしかしたらそこは違うのかもしれないけど…カニバリズムはメジャーなものだと思うが」


『ぜってぇ違ぇ!!』


「あとネクロフィリアも結構いけるなウチ。今知った。親しい人だとダメだけど、フィクションや今生きているエムジのこの体とかなら、行けるどころか好物。性的に見れる」


『どうでもいいわお前の性癖は!! つーかさっきから何で黙ってるんだアルビ!』


「ええ!?」


 突如話を振られたアルビがビクっとする。かわいい。


「…いや、もうシーエの会話について行けなかったから、思考を停止してた」


『お、おう。確かに正しい反応だ。でもな! 今まさに体を食べられようとしてる俺には思考停止は出来ない!!』


「さて脱がしましょうねー♪」


『何でズボンから脱がす!?』


「エムジのチ〇コを食べたい」


『死ねぇぇぇぇ!!!』


 とんでもない力の稼働魔力でウチの行動が妨害される。ちょ!? エムジさんこの行為の意味わかってます!? エネルギー補給しなきゃいけないのにあなたが意味もなく魔力使ったら培養液減るじゃないですか!!


『お前に食べられるくらいなら、ここで培養液を使い切って死ぬ!』


「ええぇ!?」


『食いたきゃアレ食えばいいじゃねぇか!』


 エムジがウチの首を曲げ、先ほどのグーバニアンの死体を見せる。思いっきり曲げられたから首が痛い。


「まぁボクも、それに同意かな」


『な! ほら! アルビも同意してる!』


 こんなに必死なエムジめずらしい。かわいい。


「しかしウチはエムジが食べたい! そして下半身舐めたい!」


『させるかぁぁぁ!!』


「ああ! ちょ!! 培養液が! 洒落にならないですって!!」


『だったら俺から離れろぉぉぉ!!』


「ああああ! エムジの下半身がぁぁぁ!!」


 魔力で引きずられていくウチ。このままではマジで洒落にならないので、しぶしぶグーバニアンの元に向かう。ちえー。

 エムジの体はこのままここで腐るだろう。その前に下半身脱がして食べておきたかったが…残念。


 でもマジで、エムジが培養液使ったら洒落にならない。そもそも敵がまだいる可能性だってある。無頭の女性は姉と一緒来たと言っていたが…別動隊のグーバニアンがいないとも限らない。しっかりとカロリーは摂取して魔力を使えるようにしておかなかれば。


 とぼとぼ歩きながら、少女の死体の脇を通過する。いくら人肉を食べるのに抵抗が無いからと言っても、被害者の体を食べようとは思えなかった。非常時なら、別なのだろうが。

 さっきまで騒いでたエムジも、少女の死体を見たのか、黙り込む。ウチと違い、エムジは彼女の死に怒りを感じていた。安堵を感じたウチとは正反対だ。


 あ、見たと言えば…


「エムジ、アルビ、ちょっと聞きたい」


「ん? 何?」


『どうした急に』


 ウチは散らばったグーバニアンの肉片を口に運びながら、エムジ達にちょっとした質問をする。

 ちなみに流石グーバニアン。筋肉質で調理したらさぞいい味するんだろう。人間は雑食だから肉が臭いが、ウチは臭めの肉も結構好きみたいで、割と好みの味だ。生だと…まあ何ともって感じだが、焼いたらうまそう。でも焼くのに魔力使うのも本末転倒だからやめる。そもそも原子を振動させて熱する稼働魔力は、この3人ではエムジしか使えないし。

 …しかしこの肉、高たんぱく低カロリーでカロリー摂取には向かないな。どこかに脂肪細胞の塊を持ってたりしないかな。ちばらっててよくわからん。


 それはそれとして話題戻しまして。


「視力ってどうなってる?」


「視力?」


『俺は今見えてないが…』


 ああやっぱりそうか。実はウチは最初の無頭の女性からの逃走の際、視力を酷使しすぎて失明したっぽい。エムジに攻守を交代してもらうまで視力が持ってたのが幸いだが、その後の二体目との戦闘中に見えなくなった。

 まぁそれは別に問題はない。稼働魔力を用いたセンサーを使う事で、周囲にある物体は完全に把握できる。なので戦闘は特に問題無くこなせたし、先ほどもあわよくばエムジのモノの形を正確に把握しようと四苦八苦していた。


 なおこれはウチが軍人だからか、センサーの感度はすさまじいみたいで、ズボンの内側に隠れた状態のエムジのモノの形はしっかり把握できたし、ぶっちゃけ撫でまわした。エムジにはヒミツだ。軍人にはこの能力使って人知れず痴漢しまくってる奴多そうだな。

 …ウチが軍人だった時代、ウチの体をまさぐって興奮してくれた人がいたとしたら嬉しい。何故かいない気がするのが悲しいが。


 ただこの空間把握能力だけでは不便な事も多い。まずは色が見えない。形しか把握できないので、色の情報が無いのだ。あとは遠景が見れない。稼働魔力の有効範囲は背中に装備した脳の数にもよるが、ウチは先ほどから半径50mくらいしか把握できてない。それより先の情景がどうなってるのかはわからないのだ。

 もう一つウチに取って重要なのが、文字が読めない事。筆跡で凹んだ紙を把握すれば読めないことは無いが、しんどい。日記を書くのも読むのも大変になるので、視力は欲しいのだが…。


 そんな中。


「ボクは見えてるよ」


 アルビが意外な事を言った。


「え、どうやって?」


「ズンコにもらった小型レンズで…ほらこの耳についてる奴」


 アルビの脳の両脇にはヘッドセットみたいな機械が付けられている。これには周囲の音を拾う機能と、小型のレンズが付いているみたいだ。音を拾うのは普通に魔力で空気の振動を感じれば行けるが、これは稼働魔力をセンサーとして繊細に使うので、慣れて無いとカロリー消費も大きいし疲れるそうだ。アルビはその補助機能としてこの機械を装着してるとの事。これがあればさほど慣れて無くても簡単に音が拾えるらしい。


「あとボクが声出せてる理由、これもこの機械。ホント、ズンコには色々助けてもらってるよね…」


 そういえばエムジはさっきから思念魔力で会話してるが、アルビはずっと発音して会話している。これも練度に寄るが、空気を振動させて音を発声させる稼働魔力を、少量の運動で増幅してくれるのもこの機械なんだそうだ。めっちゃハイスペックじゃないか。


『なるほど…俺も街付いたらそんな機械を購入するだな。体も新調しなけりゃならねぇし』


 だったらその古い体をウチに好きにさせてくれてもいいじゃないか。主に性的な意味で。


「ウチもレンズ買うか」


「あれ、シーエ目見えないの!?」


「ああ、さっきの戦闘でね。資金的には、エムジの体買ってもまだまだ余裕あるだろ」


 ズンコも頭にレンズを装着していた。あれから毎日エムジからズンコの記憶は見せてもらってるので、しっかりと見た目も記憶されてる。

 自分の目がレンズになる。ズンコとお揃いみたいで、ウチは少し嬉しくなった。


 そんなこんなしながら、ウチは食事を終える。ふう満腹。

 あ、ちなみに今ウチめっちゃ普通に人食べたけど、普段から食べてる訳じゃないよ? 非常時だからね。そもそも同種食いは健康上良くないし、習慣化したら確実に何かヤバイ病気、主にプリオン病になったり人に感染しやすいウィルスや細菌にめっちゃ感染する。

 プリオン病で代表的なのは狂牛病だな。あれは牛だけど。まぁ脳食べなければだいたい大丈夫だけど、何が原因でプリオン病なるかわかったもんじゃないし、ウィルス等の危険性は他の部位でも発生するし。


「消化するまで少し休んだら出発しよう。ここから一番近い町はどこかな? ウチちょっと疲れたから誰か脳連結サーバーで探してくれない?」


『キャドっぽいな。戻る事になるが、しょうがないだろう。運が良ければまた別の便に乗れるかもしれないしな』


「ええー、ボクもう飛行機は怖いかな…」


「そこは我慢するしかないねー。しかしキャドまで歩くと…山道だし、ウチの壊れた足だと1日以上かかりそうだな。グーバニアンの食べやすそうな部位、一応持っていくか」


『あとは空港に今回の事件も伝えておかないとな。おそらく墜落前にパイロットが事故の事は伝えてるだろうが、グーバニアンに襲われたことや乗客が全滅したことは知らないだろうし…』


 人の死を報告する。死んだ方の親しい人に、その人がもう帰ってこない事を報告する。それは、とてつもなくつらい作業で…


「エムジ、ウチがやるよ」


『いや、俺がやる。軍用ネットからの報告の方が信憑性が増すし、お前にはさっきつらい役目を押し付けちまったからな…』


 少女の母を解体したことを、エムジは言っているのか。あんなこと、誰だってやりたくない。だからウチがやった。それだけだ。

 どんなつらい事だって、ウチはやってやる。逃げない。心がどんなに擦り減ろうと、ウチは…


『シーエ。おいシーエ』


「え、あ。何?」


『なんか追い詰めた顔してたからな。大丈夫だ。ちゃんと報告は終わったよ。お前にばかり、キツイ役目はさせない』


「…ありがとう。エムジ」


 人から想ってもらうってのは、幸せな事だなと思う。そしてその人を失うのは…。ズンコもウチとアルビの事を大切に思ってくれていた。

 エムジとアルビは何としても守らなくては。今回は本当にギリギリだった。二人が生きてて、本当に良かった。


 しかし。さっきのウチの思考は何だ? どんなことだってやる覚悟。それを固めたのはいつだ? 本当に過去のウチは、どんな軍人ライフを送っていたんだよ。


『シーエ、もうしばらく休んでからで良いんだが、聞きたい事がある』


「ん?」


『二体目のグーバニアンとの決着の際、お前が言った言葉だ。「そのくらいの罰で、許される罪とは思って無い」 あれの真意を、教えてくれ。わかる範囲でいいから』


 それはウチも気になっていた。突如心に沸いた謎の言葉。



 グーバニアン達の動機を、探っていく必要がありそうだ。それはこの戦争に、そしてウチの記憶に深くかかわりがある情報なんだろうから。



良いこのみんな! 人肉は食べると本当に危険だからたべちゃダメだぞ! シーエとの約束だぞ♪

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