私には居場所が無い。
「私には居場所が無い。」
いや、こう言うと語弊があるかもしれない。
「私には居心地の良い居場所が無い。」
幾分、納得のいく文章になった。
私は家庭に問題があるわけでも、
いじめられているわけでもない。
しかしそれは、居場所がある事にはならない。
彼女が欲しいという男は幾らでもいる。
そして私もその一人だ。
私は周りのことを気にしたり、
或いは自分の歳を気にしてそう言っているのではない。
何なら私はまだ二十歳を迎えていないし、
ましてや結婚に焦るような年齢でもない。
しかしながら私は。
どうしようもない孤独感に苛まれている。
別に私は家族と不仲な訳ではないし、
友人が一人もいない訳でもない。
だが。
贅沢を言うなと言われればそれまでだが、
私は現状に多大な不満を抱いている。
例えば、勉強。
例えば、仕事。
例えば、趣味。
更には、休憩。
それらをするときに私は孤独になる。
確かに、マイペースな私には誰かと一緒に何かをするのは向かないだろう。
だが、それとこれとは別問題だ。
一人で淡々と勉強をしていても。
複数人でやった方が楽しいゲームを一人でやっていても。
つまらないことはないが。
心の底から楽しいと、思えないのだ。
もし、隣で一緒にやる人が居たら。
きっとそこには何の不足もない。
味気のない毎日の繰り返し。
じわりじわりと蝕んでくる孤独感に、私は気が狂いそうになる。
そんな理想的な存在が。
居ない訳ではないのだ。
しかし、手は届かない。
私の目に彼女は映っても、
彼女の目に私が目に映ることは永遠に無いのだ。
そんな現実に嫌気がさした私は、気晴らしに小説を書こうとする。
空想の中で、自分だけの世界を構築する。
その世界は、理想郷だ。
私の欲しいものが全て揃っている。
実在するもの、しないもの。
科学的なもの、非科学的なもの。
それら全てが私の作る世界を彩り、輝かせ、豊かにする。
人間味のある登場人物たちや、彼らの住まう街並みが。
彼らの喜び、悲しみ、怒り、恐怖、全ての感情が。
私によって作られ、世界中に満ちて行く。
私の手によって創り上げられた理想郷は。
しかし私の存在を許容しない。
世界を創造した「神」は、立ち入ることはおろか、存在することすら許されない。
空想の世界なのだ。
仕方のないことだと、わかってはいる。
そこで私は、登場人物たちに感情移入をし、少しでも、その理想郷に立ち入ろうとするのだ。
暖かな食卓、苦楽を共にする仲間たち。
そして恋をし、やがて愛し合う……。
ふと正気に戻ると、私は酷い恐怖感、いや、嫌悪感、否、そのどちらともつかぬ不快な感情に襲われる。
彼らの持つものを、私は持っていないと思い知らされる。
彼らは、苦しみ足掻いても、最終的には皆がそれぞれ居場所を持っている。
私がそう描いたのだ。
しかし、肝心の私は。
空想を膨らませ、世界を彩れば彩るほど、私の目に映る私は色を失っていく。
紙面上の、あるいは画面の向こうの世界は、理想郷などではなく。
ただ、現実をモノクロに写すだけの鏡だ。
息苦しい。
自分の描いた夢に、溺れてしまう。