第7話
「1回の表、二.三年生チームの攻撃は1番サード前川君」
まさかのウグイス嬢がいることに一年生達は驚いた。
そしてあの二人…嵐士と反塚が反応した。
「嵐士!ウグイス嬢だぞ!」
さっきまでの緊張はどこに行ったのか、反塚はかなりテンションが上がっている様に見える。
「これはたまらんな!今日の俺は活躍しかしないわ!」
「お前ら黙って集中しろ!」
晃樹が二人に注意したところで試合が始まる。
まず晃樹は1番の前川の脚を警戒して内野を前に出した。
1球目は要求通りの内角でストライクを取った。
2球目は外角にスライダーを要求したが、ここで前川はセーフティバントを試みて見事三塁手の前に転がす。
反塚も素早く処理するが前川の脚が勝りセーフとなった。
「あいつ速いだろ?なんせ50m走は5秒台だもんな(笑)」
そしてここで打席に入るのが一番警戒していた海老沼。
しかもランナーがいる状況で海老沼を迎えてしまった。
1球目は外角にボールで2球目は外角にストライクを取った。
(何をしてくる?すんなり送るかそれともエンドランとかか?)
頭で色々考えていると3球目を投げた時に一塁ランナーの前川がスタートを切った。
結果はセーフになった。
(しまった…海老沼さんを意識しすぎて前川さんの脚を忘れていた)
海老沼を警戒するあまりに前川の盗塁時に少し動作が遅れてしまった晃樹にたいして声が飛んできた。
「おい!ちゃんとしやがれ!俺と代わるか!?」
遠藤の声に冷静になる事を自分に言い聞かせる晃樹。
(ここは1点は仕方ないと考えよう、とりあえず一人ずつ確実にアウトを取る)
4球目は引っ掛けさせランナーを進塁させないように内角へのスライダーを要求した。
(この状況で海老沼さんがすんなり送るとは思わない…打たせてアウトを取る!)
しかし海老沼はここでセーフティ気味のバントを試み、その打球は確実にサードに取らせる上手いバントになった。
投手が処理出来ないと判断してから反塚が突っ込んだ事によって処理が少し遅れてしまい一塁はセーフとなってしまった。
晃樹は絶対に無いと思っていたバントをされ、更に一つもアウトを取れなかった事にショックを隠しきれない。
(へっへー♪ バントが無いって思ってるのがバレバレだよ♪)
そう…今の打席こそが海老沼の最大の特徴を表した打席だった。
これで状況は0アウトランナー 一塁三塁。
バッターは3番の笹岡を迎える。
(ランナーが溜まった状況で柳谷さんには回したくない…ここは1点をやってでもゲッツーを取りに行く!)
晃樹は内野に前進守備では無く併殺シフトを指示した。
カウントが1ボール1ストライクなった3球目は外角にストレートを投じるも打ち返される。
打球はライトへと上がり三塁ランナーの前川はタッチアップの準備をする。
(俺の脚なら余裕で帰れる!)
右翼手の陵謙が捕球し前川はスタートを切る。
誰もが点が入ると思ったが結果は本塁アウト。
陵謙の矢の様なノーバウンド送球で前川の脚を止めた。
送球の間に二塁に進塁した海老沼は驚いていた…が。
(投打の天才三神陵謙…あの肩はヤバいだろ!対決が楽しみだ!)
でもやはりここはスポーツ選手だ。
味方に点が入らなかったのに自分の楽しみが増えた事の方が嬉しく思う。
状況は一転して2アウトランナー二塁。
しかしまだ安心出来る状況では無い。
得点圏にランナーがいる状況で迎えるは4番の柳谷。
しかし晃樹は宮崎から柳谷は緩い変化球にはめっぽう弱いと聞いていた。
その情報通りで1球目2球目はカーブで早くも追い込んだ。
3球目は内角にスライダーを要求した。
ここで緩急を使ったストレートを投げるのも普通にありだろうし苦手なカーブで押し切るのもありかもしれないが逆にストレートとカーブは警戒されている可能性が大だ。
なので一番頭に無いであろうスライダーを晃樹は要求した。
結果は詰まらせる事には成功したが柳谷のフルスイングとパワーが上回り打球は左翼線を抜けて行きタイムリー二塁打となった。
その後、5番西村にもタイムリーを打たれ初回に2点を取られてしまった。
「ごめん…2点も取られてしまった…」
正直井戸川の投球は悪くなかったがやはりここは中学校上がりの一年生達と1年2年多く高校野球を経験した二.三年生達との差が出てしまった。
負ければ三年生引退まで試合に出れないこの紅白戦で早くも2点差を付けられた一年生達はかなりのダメージを負ってしまった。
「みんな、それに晃樹も、あんま落ち込むなよ、まだ試合は始まったばかりなんだから」
「そうだぞ!まあ俺が今からサクッと塁に出てくるから!みんな後は頼んだぞ!」
一瞬"負け"の二文字を思い浮かべた晃樹と他の一年生達だが陵謙の一言と嵐士の明るさに救われたかのようにまたやる気に満ちていた。
そうまだまだ試合は始まったばかり。
一年生達は再び気合いを入れ直して初回の攻撃に入る。