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エルフの奴隷を買った。

作者: 城鐘 狐月



 ある男が奴隷商と会い、商談をしていた。


 男は一人暮らしである。仕事をしながら家事もこなさなければならないのは億劫だが、使用人を雇うようなお金もない。だから、人ではなく物を買う事にした。


 その奴隷市場に居たのは計三十人程の奴隷。男は牢の中の奴隷たちをゆっくりと吟味した。そして、小一時間悩んだ結果は、エルフの奴隷だった。金の髪を持つ、自分よりかなり年下の女だ。


「なあ、エルフとは、高いのではないか?」


「エルフもエルフですが、奴は耳が下向きのエルフでしてね。人間より少し高いくらいなのですよ」


 そのエルフの奴隷の値段は充分男の予算に収まる程だった。男はエルフの奴隷を買った。


 男はエルフの奴隷を家に招くなり、体を洗った。髪はぬめりを帯び、体は垢だらけだったからだ。


 次に、エルフの奴隷に食事を振る舞った。暖かくとても美味しい食事だ。エルフの奴隷は最初は困惑していたが、一口食べるとその味にやみつきになり、ものの数分で平らげてしまった。


 男は暫くエルフの奴隷と暮らすうち、読み書きを教えていった。


 そして次に、皿の洗い方、食事の作り方、服の畳み方、洗い方、様々な事を教えていった。


 そんな日々を過ごす中でも、男が欠かさなかったことがある。それは添い寝をする事だ。寝る前、エルフの奴隷を固く抱き締め、可愛い可愛いと言いながら眠る。それが男の一日の最後の楽しみだった。エルフの奴隷もそれが好きだった。男の温もりに気を許すうちにストンと寝てしまうのがどうしようもなく好きだった。


 男は奴隷ではなく、一人の使用人としてエルフの奴隷を扱った。良い事をすればお小遣いもあげる。時には使い切れない程の大金を渡される時もあった。酷いミスをすれば叱りもする。ただ、ただの一度も手を上げた事は無かった。



 ある日、男はエルフの奴隷との契約を破棄した。エルフの奴隷を買ってから丁度三年の頃だった。


 そして、家からエルフの奴隷を追放した。


 理由を聞いたが男は答えなかった。ただひたすらにエルフの奴隷を怒鳴りつけ、今すぐ荷物を纏めてこの家から出て行けと言った。エルフは路頭に迷った。しかし、幸いにも三年間貯めていた小遣いがあったので、暫くはお金に困らなかった。


 数週間後、エルフは隣町の酒場で働き始めた。


 エルフは一生懸命働いた。働いて働いてお金を貯めて、男を見返してやろうと思った。どうだ、お前の捨てた女はこんなに立派になったのだ、と。


 エルフは綺麗な服や調度品を買えるようにまでなった。粗末だが、自分の家も持っている。そして酒場で働き始めてから一年が経った。酒場に男が現れた。


 白髪が増え、酷く窶れていたが、エルフは直ぐにあの男だ、と思った。男の頼んだ物は酒とつまみを少しだけ。閉店間近だったので客は男しか居なかった。男はエルフに一緒に飲んでくれないか、と頼んだ。


 エルフは虫の良い話だ、とも思いつつ、これまでの一年の出来事を話した。男は酷く楽しそうだった。


 いよいよ閉店、という時に男はもう一度だけで良いから一緒に寝てくれないかと頼んだ。


 エルフは最初怪訝そうに問い返したが、頼む、の一点張りだった男に屈し、男を自分の家へ招いた。


 寝巻きに着替え、シングルベッドに二人で寝た。別に何をするでもなく。ただ、男はエルフを抱き締めながら寝た。エルフも、その温もりに懐かしさを感じながら眠った。




 翌朝、男は死んでいた。



 妙に冷えると思った時、男はエルフの隣で死んでいた。


 綺麗な死に顔だった。本当に思い残す事のないかのような、満足そうな笑顔のままで男は逝った。


 エルフは男を抱き締めた。


 エルフを家から追い出したのは病気に苦しむ自分の姿を見せたくなかったから。エルフに大金を渡したのはそうなった後、生活に困らないようにそう悟った。


 腹の底から沸く涙を流し、エルフの奴隷は心の底から慟哭した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悲しい話なのに とても綺麗で じんわりとくる流れで うるっと来ました [一言] 良い作品ありがとうございました
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