プロローグ
赤黒い空に、紫の雲が蠢いている。
その天を突き刺すかのように尖って聳える灰色の山脈は、標高一万メートルを優に超える程に巨大なのだが、山肌には一本の木も生えていなかった。
今、天と地の狭間の頂で、岩を砕きながら何か巨大な物が地響きをさせて倒れた。
「まさか……これ程までとは……西の魔女よ……」
突っ伏したのは、翼幅三十メートルを超える白銀の竜だった。
その白銀の竜は、目の前に立つ黒いマントを羽織った小さき者に言ったようだったが、マントの人物はフードから目を覗かせもしないし、言葉も返さなかった。
魔女と呼ばれた者は、倒れた竜に近づき、その眉間に埋め込まれてある漆黒に輝く宝石に手をかけた。そして、まるで石ころでも拾い上げるかのように、苦も無くこぶし大の宝石を引き抜いた。
「西の魔女よ……次元石を何に使う気だ……?」
白銀の竜がそう言うと、魔女のフードが揺れた。中で笑ったようだった。
「フフン……。知れた事を……。本来の使い方以外に何がある?」
老齢な魔女の印象とは違い、張りのある女性の声だった。
その魔女の手の上で、黒色の石が、一層と輝きを増す。
「求めるのは何だ? 天界の無限の力か? それとも、妖精界の莫大な財宝か?」
「……ワシは、そんな物に興味はないわ」
黒色石の色が、一瞬だけ白に変わった。また黒に戻ったかと思うと、白になる。そうして点滅を繰り返すと同時に、周囲に黒と白の雷のような波動を、交互に空中に放った。
「なら……、西の魔女よ、何を欲する……?」
魔女は、白銀の竜に背を向けると、一歩二歩と、ゆっくり遠ざかる。
「…………大……福」
魔女は、ぽつりと言った。
「ダイ……フク……?」
聞いたことの無い言葉だったようで、白銀の竜は、いぶかしがりながら復唱した。
次の瞬間、魔女の手にあった黒色石は、爆発するかのように砕け散った。
…………それと…………みたらし……