占い師と少女
昔の話、私は家族に内緒でひっそりと街中に出掛けたことがあった。
小学生の私にとって街中は魅力的なところであったか危険なところでもあった。小さな私の体では人々の波に埋もれてしまうからだ。
だから、家族は一人で行ってはならないと言っていた。
「人がいっぱい」
怒られるかもしれない危険を犯して私は人混みの中を歩いていた。
歩いているうちに人混みがなくなって寂れた喫茶店まで辿り着いた。
「こんにちわ」
扉を開けて店主に挨拶をする。
「リリカちゃんいらっしゃい」
店主がそう返す。
小さな時のお気に入りの場所。私はここで、あの人を待っていた。
「あら、来てたの?」
詩音さんが顔を覗かせた。
「うん、早く来ちゃったの」
毎週土曜日、こそこそと隠れて行っていた喫茶店で私は詩音さんに占いを教わっていた。
きっかけはごく単純に占ってもらっときにタロットカードが綺麗ではまってしまったのだ。
「リリカ、ダメじゃないか」
ある日、たまたまパパに見付かってしまった。
そこから私はあの喫茶店に行けなくなってしまったのだ。
「久しぶりだね」
そのあと引っ越したためこの街中に来るのは久々だ。景色も少し変わってしまったけれど何処か懐かしい。
いつも通っていた道を見つけた。そうだ、ここを真っ直ぐ。それから美容院で右に曲がる。少し狭い路地裏を通ってそれから────
「ない」
およそ10年の時が過ぎた今。あの時のお気に入りの場所はなくなってしまった。
跡形もなく無くなってしまった。
ダメだったか。まぁ、かなりの時がすぎてしまったから詩音さんも店主の久瀬さんも私のことは忘れてしまっているだろう。
詩音さんに聞きたいこともあったのだけれど何処かで会えたら良いのにな。
「仕方ない、帰るか」
来た道を戻りだした。
「こんなところに占いの館?」
昔は無かったな。少し行ってみるか。
「いらっしゃい」
意外と人気のある所らしく入ると多くの人手溢れていた。
10年前には無かったな。
「何か占ってほしいことはある?」
「私、占い師になりたいんです」
相手はにっこりと笑うと水晶を覗き始めた。
「誰かに習っていたの?」
「10年前に少し…」
後は、本を読んだりして独学で。まぁ、占いの館とかに行ったりもしたけれども。
「筋はあるよ」
「そうですか」
それはよかった。少しホッとする。
「でも、なるのは今じゃない」
「そうですよね」
怖いのは家族の反対。
「時期を見分けることが大切ね」
「はい、ありがとうございます」
頑張ろう。地道に探してみよう。
そうして占いの館をあとにした。
「もう、10年か」
リリカちゃん、随分大きくなったな。あっちは私のことに気づいてないけれど。
まぁ、無理もない。あの時と違って色々あって容姿が全く違うのだから。名前も違うし。
でも、楽しみだなぁ。力はある方だし後は、占い師になることが課題だね。
どのみち、後3年経ったら会う運命だしその時にもう一度占ってみたいね。