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実体のない恋心

 目を覚ましたとき、私には記憶が存在しなかった。


 ここは、どこだろう?手をついて起き上がる…


 あれ?手の感触が何かおかしい。起き上がれたはずなのに手は何も掴んでいなかった。


─どうして?─


 声を出しても音にはならない。


 近くにあるリモコンを掴もうとする。


 私の手はスルッと宙を掴んだ。リモコンに触ることができない。辺りを見回すと小さな鏡があった。


 トコトコ歩いて鏡を覗いた。


─嘘…─


 そこには何も写って居なかった。


 私はこの世に存在しないのかもしれない。幽霊なのかも知れない。


 ガチャリと扉が開いた。


 中に入ってきたのは若そうな男の人だった。彼は私の存在には気づかないのかそくさにテレビにスイッチを入れた。


 そして、私のとなりに座る。


 手を伸ばしてみた。でも、触れないのは人でも物でも変わらないみたい。残念、これじゃ私が何なのかもわからない。


 目覚めたときには記憶がなかった。そのため、自分の顔も覚えていなかった。


 …静かだ。


 あの人が一人でご飯を食べている。聞こえてくるのは、テレビの音と微かに鳴る食器の音くらい。一人で暮らしているからかしらね。


  彼は本を読んでいた。時は静かに流れ部屋には紙を捲る音が響いていた。


 ことり…彼は本を奥と何処かへ行ってしまった。


─私も行けるかな─


 彼が出て行った後の扉の前にたつ。この先には何があるだろうか?希望にも似たような感情が私を包む。


 一歩、前へ出てみた。…しかし、扉を潜り抜けることが出来なかった。


─残念─


 試しにドアノブを触ろうとしても触れなかった。


 私は、ここから出ることが出来ないのだろうか。記憶はないし、閉じ込められたままで災難だ。


 まぁ、お腹が空いたり喉が渇いたりはしない分ましなのかもしれない。


 こうして奇妙なままに始まった同居生活は1ヶ月以上過ぎていた。


 最近知ったこと。彼は、学生であること。洋楽が好きだということ。お風呂が長いこと。たまに夜中に出掛けること。


 今日も彼が帰ってきた。少し疲れているように見える。


─お疲れ様─


 彼には声が届いていない。でも、ちゃんと頑張っているのは知ってるよ。


 思ったより疲れていたようで彼は布団を敷いてお風呂にも入らずに寝てしまった。私も部屋の隅っこで丸くなる。


 今日は彼に何があったのかな?友達と喧嘩でもしたのかな。知りたいけど出ることができないし、そんなことしていたらただのストーカーだよね?


 彼のことがいつの間にか好きになってしまったけれどこれは私の一方的な思いでただの彼の迷惑にしかならない。


 それからまた1ヶ月、淡い恋心を抱いて彼との生活を楽しんでいた。


 彼が外出用のコートを羽織る。


 時計は夜の12時を指している。


─こんな時間にお出掛けですか?─


 たまに夜中に出掛けていたけれど彼はいったい何をしているのかな?


 彼に合わせて外に出てみた。


─星空が綺麗ですね─


 彼が開けた扉を抜けて外に出ることができた。


 彼はいつもこうやって夜中のお散歩を楽しんでいたのかな?


 歩いて歩いて、辿り着いた先は森の中の廃墟だった。


─不気味なところ─


 彼は馴れたように蝋燭に火を着けた。


 暗かった室内が照らされる。


─何これ!─


 ガタガタ震えが止まらなかった。目の前には血だらけの死体があったのだ。


 何で…?


 彼が殺したの?まさか?


 だって友達と喧嘩するようなことがあっても彼は基本的に穏やかな人だ。殺してしまうほどの争いをするはずなんてない。


 ギィィ──


 彼はいとも簡単にノコギリで死体を解体していった。


いったい、どうして?いつもの優しい彼はどこに行ってしまったの?


「新しい子はどこだっけ?」


 隣の部屋に彼が向かう。震える足をなんとか踏み出して彼に着いていく。


「私をどうするつもり!」


 真っ青な顔の女性が叫ぶ様に言う。


「生きていたのを後悔するまでいたぶってあげようか?」


 すると、彼は持っていた針でブスブスと女性を刺していた。


 狂ってる。彼は異常なほどに狂っていた。


─もうやめて!─


 私が叫んでも、彼の体に体当たりしても彼は針を刺すのをやめなかった。


「もうやめて!どうして?」


 声を振り絞るようにすると何とか話せるようになった。


「だれ?」


 ここで私の意識は途切れた。



「夢…」


 目が覚めると私はふかふかのベットに寝ていた。


 布団を捲る。きちんと触ることができる。私は生きている。


「嫌な夢」


 あの人は何がしたかったのだろう?


「ねぇ─」


 ギィーっと扉が開いた

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