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宮沢弘の文学論

冒頭について考えてみる

作者: 宮沢弘

##### はじめに


 森の本屋さまの「みんなで越えよう冒頭の壁!」を読みまして、私の場合どうしているのかと思い、ちょっと自分の投稿履歴から抜き出して考えてみました。なお、ジャンルはすべてSF:空想科学です。


##### 私の冒頭の例


フリークス (Freaks): http://ncode.syosetu.com/n7466dl/


|    街の喧騒で目が覚めた。豆腐売り、魚売り、牛乳配達、新聞配達。

|   それぞれが売り声をあげて、下宿の横の小道を歩いていった。

|    私は寝間着のまま部屋のドアを開け、廊下から階下の玄関に向かっ

|   た。玄関の郵便受けに入れられていた新聞を取り、食堂へと歩いた。

|   「タケちゃん、おはよう」

|    食堂の台所から大家さんが声をかけてきた。

|   「おはようございます」

|   「今日は大学かい?」

|   「午前中は仕事で、午後から大学ですね」

|    答えながら椅子に座り、新聞を広げた。

|

|      2051年 10月 20日(金)

|

|    新聞の頭には今日の日付があった。金曜日ということは、「書術」

|   と「弁術」の講義だ。

|    目に入ったのは、女優「大須賀おおすが奈央利なおり」の熱愛が発

|   覚したという記事だった。第一面に大きな見出しと、ドット描画によ

|   る彼女の肖像と、熱愛の相手とされる男性の肖像があった。

|   「ほいよ」

|    大家が朝食を乗せた盆を持って来た。

|   「熱愛ってのはうらやましいもんだねぇ」

|    新聞を覗き込み、そう言った。

|   「大家さんだって言ってたじゃないですか。旦那さんと熱愛だったっ

|   て」

|   「いやだねぇ、」

|    大家は右手を触りながら答えた。

|   「あたしが言ったこと憶えてるのかい? そうだねぇ。その女優さんに

|   比べればたいしたたぁないさ」

|    話を聞きながら、私は新聞を横に置き、箸を取った。

|   「まだね、あのころってなぁ見合いが普通だったからねぇ。見合いじゃ

|    なかったってだけさね」


 現在執筆中のものです。

 ここでは、「豆腐売り」、「魚売り」や「下宿」、「見合いが普通だった」などと、新聞の日付「2051年 10月 20日(金)」によって、時代と文明の間に齟齬があることを示しています。なお「下宿」については、アパートなどではなく「下宿屋」のようなものと、すぐ後に示しています。

 これらによって現実との地続き感も示しています。ただし、これは、そういうことを知っていなければ成立しないやりかたでもあります。

 また「ドット描画」により、(わかる人にはわかるかもしれない形で)解析機関が導入されていることも示されています。

 加えて熱愛についての報道が第一面にあることから、それがいわゆる日本のタブロイド紙でないなら、先の時代と文明の齟齬の他にも、文明そのものが現実とは違うことを示しています。また、大家との会話によって、そういうものが日常であることも示しています。



Jailbreak: http://ncode.syosetu.com/n1685dj/


|    それはかなりの昔から放送されていた。

|    長い間、それは三年に一度。だが、翌日の世間話になって終りだっ

|   た。また長い間は二年に一度。それでも、翌日の世間話になって終り

|   だった。そして最近は年に一度。しかし、翌日の世間話になって終り

|   だった。そういう頻度だったし、その程度ことだった。

|    今年に入り、五月の時点で三回めの放送がなされた。今年一回めの

|   放送は、それまでと同じようなものだった。やはり、翌日の世間話に

|   なって終りだった。二回めの放送は、四十五分の枠がとられた。だが、

|   翌日の世間話になって終りだった。そしてこの三回めでは九十分の枠

|   がとられ、放送されていた。

|    七十分のドキュメントに続き、何人かが並んでいる最初の映像に戻っ

|    た。

|   「このように、資源によってはあと十年で採掘が現実的にはできなく

|   なるそうです。なぜ、このように重要なことがらがこれまで発表され

|   なかったのでしょうか?」

|    カメラが一旦引き、並んでいる人々を映した。

|    司会の男性は、横に並んでいる有識者に問いかけていた。

|   「こちらをご覧ください」

|    カメラが別の一人を映し出した。有識者の一人、経済学部教授と書

|   かれた席札が前に置かれた男性だった。男は机の下からプロップを取

|   り出した。

|   「この二、三年、資源採掘コストはかなりの上昇を見せています。」

|    その男はまた別のプロップを取り出した。

|   「こちらは、リサイクルの分を除いた、物価指標の上昇です。こちら

|   は数年前から上昇傾向を見せています」

|    カメラはまた司会に戻った。

|   「そうすると、公開せざるをえない状況になったということでしょう

|   か?」

|    カメラは経済学部教授を映し出した。

|   「そういうことでしょうね」

|   「すると、この傾向はこれからも続くということでしょうか?」

|   「おそらくそうでしょう」

|    経済学部教授が答えるのを映したのに続き、カメラが別の女性を映

|   した。環境問題評論家と席札にはあった。

|   「しかし、二酸化炭素排出による温暖化への対策として、私たちはす

|   でに再生可能エネルギーと資源のリサイクルの技術を発達させていま

|   す」

|   「と言うと?」

|    司会の声がうながした。

|   「先ほどの方が見せたように、新たに採掘する資源に必要なコストは

|   上昇しても、リサイクルによって実際の物価には影響は見られていま

|   せん」

|   「それに……」

|    その声の主をカメラが映した。

|   「原油の採掘についても、二十年前からごく一部で言われてはいまし

|   たが……」

|    その男の席札には政治問題評論家とあった。

|   「技術革新、新しい油田の発見などによって、結局今までは、すくな

|   くとも大きな問題になってはいません」

|   「ということは、いたずらな心配は必要ないということでしょうか?」

|    司会の声に合わせカメラが引いた。

|    出演している誰もがうなずいていた。

|   「えぇ。心配する必要はありません」

|    政治問題評論家が答えた。


 これは長く引用したわりには、大してここで述べることはありません。

 細かいことを除くと、「こういう舞台が設定された」ということを示しているのみです。

 ただし、TV放送ということから、それも何回めかの関連する放送であることから、日常ではあることを示しています。



無知性の凱歌 Revised 1: http://ncode.syosetu.com/n1853de/


|    西暦1990年、あるいはそれ以前から、概念としては言われてい

|   たことがある。その言葉が現われたのは、始めは虚構においてだった。

|   当時を生きていた人にとってはずいぶん時間が経ってから、動物愛護

|   団体がその言葉を蘇らせた。またしばらく時間が経ってから、人権団

|   体がその言葉を使い始めた。

|    その段階になり、2/3人権、ともかくそういう言葉が知られるよ

|   うになった。

|    そう言われるようになり、人々は怒りを現わした。それは、ただそ

|   の言葉が使われた歴史によるものだったのだろう。動物に対して言わ

|   れた言葉であったし、虚構においてもそうであったのだから。1/1

|   人権以外など存在しない。人々はそう主張した。

|   「では」ある政治家が口を開いた。「何であれ障碍がある方々は1/

|   1人権を行使できているだろうか?」

|   「その」ある人が言った。「1/1人権という言い方自体が差別する

|   ものだ」

|   「確かに」その政治家は言った。「そうかもしれない」

|   「やはり」ある人が言った。「そういう意図ではないか」

|   「違う!」その政治家は言った。「現実がそうなのだ。それを、もっ

|   とましな現実に」

|   「それみろ」ある人が言った。「差別が前提にあるではないか」

|   「それについては」その政治家は言った「現実がそうなのだ。だから、

|   もっとましな現実に。それとも、その前提がなければ、あなたは困る

|   のか?」

|    そして、その政治家を問い質す者はいなくなった。「その前提がな

|   ければ、あなたは困るのか?」と言われれば、「そうではない」と答

|   えるしかない。もちろん、それが少しでもましな現実であるからであ

|   り、そうでなければ差別意識を持つと思われるだろうからだ。

|    これは、誤った判断ではないし、愚かな判断でもない。1/1人権

|   という概念を受け入れ、8/9人権という概念も受け入れることが、

|   第一歩だった。

|    では…… 9/8人権は存在しないのか。

|    2/3人権という概念を受け入れるということは、3/2人権とい

|   う概念も、少なくともその概念がありうることは受け入れることに繋

|   がる。なぜ1/1が上限でなければならないのか。

|    問題はそこだった。

|    権力を持つ者、富豪、そういう者は1/1を越える人権を持つのか。

|   それとも聖職者や人徳のある者は1/1を越える人権を持つのか。そ

|   して、指標の一つでしかないが、知能指数が高く、認識する世界が広

|   い者は1/1を越える人権を持つのか。持つわけがない。

|    だが、現実に権力や當は影響を及ぼす。認識が広い者は、そうとは

|   わからずとも行為に影響が現われる。

|    ならば、どうするか。人々は考えた。だが、その概念を受け入れな

|   いという選択以外は、存在しなかった。1/1を上限とするしか選択

|   はなかった。受け入れるのであれば、7/8人権も受け入れるしかな

|   いのだから。


 これも、「こういう舞台が設定された」という程度のものです。

 ただし、タイトル、作者を失念しているのは残念なのですが、1/1未満の人権が動物などに対して言われたのは、1990年ごろのフィクションでありましたし、最近実際に動物愛護団体が言ったりもしました。

 なので、先の「Jailbreak」とは異なりフィクションを介してですが、現実との地続きの感じは示せているかと思います。



TETSU: 2053: http://ncode.syosetu.com/n4926di/


|    俺は神保町の書店・古書店街を抜けて秋葉原方向への足を向けた。

|   「皮肉なものだな」

|    最後の大型書店を通り過ぎて思った。

|    オムニスは、それがイーオンであれアエラであれ、VR世界の中で本

|   を読むという行為を身近なものに引き戻していた。スカイネット以前

|   から、コンピュータの画面や端末での読書が広がっていた。それが、

|   オムニスではどういう形であれ本を意識させる形態を取っていた。オ

|   ムニスの事実上のサービス停止後、その習慣は現実世界に戻って来て

|   いた。紙に限らないとしても。

|    古書店街を抜け、ゴミゴミとした街をさらに抜けると、そこは第2

|   世界市と呼ばれる街だ。オムニスの終了から10年近く。中にはペン

|   キが剥げかけている看板やビルの塗装があった。看板から浮いている

|   ペンキを剥がし、指先で押し潰してみた。割れることはない。そっと

|   それを元の箇所に戻す。数秒押し付けてから指を離すと、それは元の

|   箇所に、まぁ、だいたい元の箇所に癒着していた。

|    この街は見た目どおりではない。

|    この街をさらに進めば秋葉原に着く。そろそろ終りかけているよう

|   にも思えるが、イーオンとアエラを模倣した、あるいはモチーフにし

|   た一角がある。そちらが、オムニスの遺産の表面だとすれば、第2世

|   界市は遺産の裏面だ。

|    街ですれ違うロボットたち。中にはオムニスのNPCがダウンロードさ

|   れているものもあるとは聞く。


 これは志室幸太郎さまの「コロンシリーズ」参加作なので、そちらをご存知でないとわかりにくいかもしれません。

 「この街は見た目どおりではない。」によって、ある意味では技術を無駄遣いしていること、オムニスというVRMMOから現実の世界に舞台が移行したが、オムニスへの郷愁のようなものがあることを示しています。

 また、本にこだわっているのは、コロンシリーズがそういうシリーズだからというところもあります。



MIRAI: 2050 〜MIKUとの約束〜: http://ncode.syosetu.com/n4105dh/


|    その老婦人は、白く明い部屋で、小振りの机の前の椅子に座ってい

|   た。テーブルには一冊の本と、ティーセット、スレート――それは1

|   cm厚の透明な板だった――、そして一本のスタイラス・ペンがあった。

|    テーブルに置かれた本の表紙には、タイトルはなかった。それでも

|   老婦人は、タイトルがあるであろう箇所を、目は細め、人差し指を滑

|   らせた。

|    ドアが開く音がし、やはり身なりの整た老人が何冊かの雑誌と本を

|   持って入ってきた。

|   「奥さま、今月分の雑誌などです」

|    老人はそれらの雑誌などをテーブルの端に置いた。

|   「ありがとう、ヘンドリックさん」

|    そう答えながら、老婦人は本の313ページを開いた。だが、その

|   ページにはページ番号が印刷されているのみだった。老婦人はスレー

|   トそのページに載せ、縁に指を滑らせた。その板は不透明になり、い

|   くつものサムネイルがそこに表示された。


 これも志室幸太郎さまの「コロンシリーズ」参加作です。

 老婦人が特殊なデバイスを用い、調べものをしていることを示しています。身分、あるいは環境は、貧しいものではないことも示しています

 「今月分」によって、思い付きでの調べものではないことを示しています。

 「313ページ」によって、それなりに長い期間、それが続いていることを示しています。



知性がなしたものを見よ: http://ncode.syosetu.com/n1023dg/


|    この戦争は、それとわかるはじまりの前から始まっていたのだろう。

|   言うとするなら、追い詰めたことが、追い詰めはじめたことがはじま

|   りだったのだろう。

|    戦争の始まりそのものは――それが戦争だとしてだが――、ある国

|   が小さな海を越えたこの国に攻撃を行なったことだった。用いること

|   が可能な弾頭の威力は、充分なものを作れたはずだった。だが用いた

|   のは、ただの放射性物質を詰めただけの弾頭だった。

|    なんのために? 言うならそれはウォー・ゲームにおける勝利条件に

|   過ぎなかったのだろう。そして、それで充分だった。それを見た小国

|   やテロリストはその真似を始めた。「何を持って勝利とするのか」、

|   その条件をその小国は書き換えた。


[略]


|    脅威が消えないまま、人々の憎悪はテロリストからずれていった。

|   放射性物質さえなけば、ミサイル/ロケット技術がなければ、それら

|   の誘導技術がなければ。テロリストによる扇動もあったのだろう。だ

|   が人々はそう叫んだ。そう叫び、そう行動することが正しいこととなっ

|   た。

|    目につく自動車がまず破壊の対象となった。誰もが持っているスマー

|   トフォンが廃棄と破壊の対象となった。電車が破壊の対象となった。

|   鉄道などの変電設備が破壊の対象となった。計算機が廃棄と破壊の対

|   象となった。

|    そのすべてではなかった。そこには、意思、あるいは意図があった

|   ように思う。すべてを破壊することはテロリスト自身にとっても不利

|   にしかならない。

|    この戦争は、そういう戦争だった。それが戦争と呼べるのなら。

|    それは、教えの書トリロジーへの回帰でもあった。はじめた小国の

|   意図はわからない。だが、その後はテロリストの思想はそういうもの

|   だった。あるいは、テロリストの思惑が回りはじめた当初は、そうだっ

|   た。


 これも「Jailbreak」、「無知性の凱歌 Revised 1」と同じく、舞台を設定しています。ただし、書いた当初の目的として、「黙示録3174年」(ミラー Jr)などへのオマージュを意識しているという点は挙げておきます。



よろこびにつつまれて: http://ncode.syosetu.com/n1054cu/


|    夕闇が濃くなるころ、巨大な2つの像のライト・アップが始まった

|    一つは、世界を治める10人の総統を象徴する巨大な立像。その顔

|   は誰かのものでもなく、ただ顔と認められるだけの造形になっている。

|   ローブを着て、肘を脇に着け、その先は広げている。右手には開いた

|   本を乗せ、左手には四角錐を乗せている。

|    もう一つは、目隠しをした女性像。緩やかな着衣と胸の膨らみで、

|   やっと女性像だとわかる。やはり、顔は誰かのものではない。加えて

|   目隠しをしている。その右手には天秤を持ち、左手にはやはり四角錐

|   を乗せている

|    礼賛劇場。 10人の総統に、そして法、社会秩序、加えてその執

|   行に感謝する場所。

|    周囲にはいずれも淡い、赤、緑、青、黄色、オレンジ、黒――いや、

|   灰色か――のつなぎを着た人々。いずれも左胸には1本から、4本の

|   ラインが入っている。またそのラインはスラッシュのように別のライ

|   ンが入っている。

|    私が着ているものは淡い青色のつなぎ。左胸には濃い青色のライン

|   が4本。その4本の線をまたぎ、スラッシュのように入る黒いライン。

|    誰もが巨大な2つの立像に歓声を挙げ、手を叩いている。ところど

|   ころではグラスをほんの少しずらし、目を、あるいは顔を拭っている

|   人もいる。

|    音楽が流れているわけではない。ただ人々の歓声が、この場を満た

|   す音楽となっている。

|    私は出来る限りの笑みを浮かべ、手を叩き、歓声と聞こえるだろう

|   ものを挙げている。定期的に訪れる苦痛ではあるが、そうせざるを得

|   ない。

|    おそらく、どこかから私を見ている人がいるだろう。だから、そう

|   演じざるをえない。

|

|     * * * *

|

|    礼賛劇場からは、同じ班の6476と宿舎に帰るつもりだった。

|    だが、6476は遊興館へと私を誘った。礼賛の日には遊興館はいつも

|   とは違う騒がしさがある。そういう日、そういう場所は苦手だ。

|    それでも6476は私の腕を強く引き、遊興館へと引き摺って行った。

|    遊興館のバーでも、総統たちと、そして法、社会秩序、加えてその

|   執行を人々は礼賛ししていた。

|   「せっかく遊興館に来てるのに、男二人で飲んでるってのもアレだよ

|    な」

|    何杯めかの配合アルコールのカップを手に6476は言った。

|   「0818、女性と楽しんでこいよ」

|   「やめてくれよエンハンスト=0だぞ、俺は。相手にしてくれる人なん

|   かいやしないさ」

|    私の言葉を聞いているのかいないのか、6476は嫌がる私をテーブル

|   から引き剥がし、登録カウンターに向かった。

|   「俺が楽しみたいんだ。その間、お前だって暇だろ?」

|   「エンハンスト=3のお前とは違うんだ。そういうことなら、俺は帰り

|   たいんだが」

|   「ものは試しって言うだろう? これまで駄目でも今日は違うかもしれ

|   ないじゃないか」

|    結局友愛登録カウンターへと私は引き摺られて行った。

|    PAN端末に6476に無理矢理右手を当てられると、カウンターの上に私

|   の名前、いや個人番号と階層が表示された。

|   「6461622113721830818-0: Blue-4-Black」

|    「Blue」、「4」なら、まだ物好きもいるだろう。だが、「0」と 

|   「Black」。これを見て友愛の相手として私を指定してくる物好きはい

|   ない。


 これはザミャーチンの「われら」、ハクスリーの「素晴らしい新世界」、オーウェルの「1984年」などなどへのオマージュを目的とした作品です。

 また、それらの作者が現代を見て、二巨頭、あるいは人間による支配と、人工知能による支配を描いたらどうなるかという面も入っています。

 冒頭の形式としては、日常を書いているとともに、一気に世界を構築し、さらにそれらの作品へのいわばリンクを張っています。



##### 分類


 ここに挙げたものを見るとおおまかに次のように分類できる。一つの作品が複数に分類されます。


   * 作中の日常を描く中で世界を構築する

     + 「フリークス (Freaks)」

     + 「Jailbreak」

     + 「MIRAI: 2050 〜MIKUとの約束〜」

     + 「よろこびにつつまれて」


 すこし補足すると、この「日常」というのは私たちの日常ではなく、「作中の世界の日常」です。両者が近い場合もあれば、通り場合もあるでしょう。遠いとしても、それはこのやりかたを取らない理由にはなりません。


   * 説明的に、一気に世界を構築する

     + 「Jailbreak」

     + 「無知性の凱歌 Revised 1」

     + 「知性がなしたものを見よ」

     + 「TETSU: 2053」

     + 「よろこびにつつまれて」


   * 現実、あるいは存在する虚構を前提とする

     + 「Jailbreak」

     + 「無知性の凱歌 Revised 1」

     + 「知性がなしたものを見よ」

     + 「よろこびにつつまれて」

     (+ 「MIRAI: 2050 〜MIKUとの約束〜」)

     (+ 「TETSU: 2053」)


 これとは違う分類もあるかと思いますが、とりあえずはこういうことで。


##### 分析


 冒頭の種類は、私に限らず、おそらくは先の三種類が多いだろうと思う。

 SFやファンタジーという枠で見ると、やりやすいのは次の順になるかと思う。


   1. 説明的に、一気に世界を構築する

   2. 現実、あるいは存在する虚構を前提とする

   3. 作中の日常を描く中で世界を構築する


 それに対して、「文芸」や「小説」として、批判を受けにくいのは次の順になるかと思う。


   1. 作中の日常を描く中で世界を構築する

   2. 現実、あるいは存在する虚構を前提とする

   3. 説明的に、一気に世界を構築する


 だが、わかりやすさという面では次の順になると思う。


   1. 現実、あるいは存在する虚構を前提とする

   2. 説明的に、一気に世界を構築する

   3. 作中の日常を描く中で世界を構築する


 ただし、ここでの「現実、あるいは存在する虚構を前提とする」には注意も必要だろう。というのも、その作品で前提としている知識を読者が持っていれば話は簡単なのだが、持っていない場合には読者を置いてけぼりにしてしまうかもしれないからだ。置いてけぼりにしてしまうと言っても、他の二つとはわけが違う。「知ってるよね? それじゃ、そこから始めます」というようなものだ。書き手としては前提になっているものに触れる必要すら感じないだろうし、実際にそんなことに触れるのは無粋というものだからだ。

 たとえば、「無知性の凱歌 Revised 1」で意識している、実在するフィクションにどれだけの人が意識を向けただろうか。私自身、その作品名と著者を思い出せないのがもどかしいのだが。


##### 対策


 冒頭に悩むということに対する、絶対的に有効な対策は「筆力を上げること」だと思う。

 ただし、冒頭は冒頭だけで存在できるわけではないという点にも注意が必要だろう。つまり、冒頭の後との絡みが重要なのだ。その重要性の順に並べてみると、次のようになるだろう。


   1. 作中の日常を描く中で世界を構築する

   2. 説明的に、一気に世界を構築する

   3. 現実、あるいは存在する虚構を前提とする


 日常で始まったなら、それは日常のはずであり、冒頭とその後は互いに参照しあうくらいに密接に関係しているはずだ。

 説明的に始まったなら、おおまかに言えば、後の方からは冒頭で構築された設定を参照する必要があるだろうというくらいだろう。

 あることを前提としたなら、それはその作品の中では冒頭とその後はあまり関係がない。むしろ、参照した前提とのかかわりの方が気になる。そして、それは主に読者の仕事になる。

 この三種類は作者の癖や特徴にもなりうるが、むしろどういうスタイルで書きたいのかに依存するだろう。結局、どの書き方でも書けないといけないという話だ。

 とは言え、これをお読みの方は結構な本を読んでいるだろう。ならば、ストックはあるはずだ。あとは、そのストックを意識してやるだけの話でもある。

 ただし、SciFiというくくりで考えると「現実、あるいは存在する虚構を前提とする」というのは無視できない。それこそが前提だと言ってもいい。その上でさらに「現実、あるいは存在する虚構を前提とする」が重なることもある。科学に対して読者の理解が足りないということもあるだろう。だが、SciFiの場合、そこはある意味冷淡だ。「自分で勉強してね」 これで終りだからだ。

 すると締め括りはこうなる。「どっちにしろ頑張ってください」


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