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第49層 ゴブリン襲来


「う~・・・う~・・・・」


今俺の目の前には低い声で唸りながらウロウロと同じ場所を徘徊している一体の生物がいる。


こう表現すれば警戒心の強い野生動物やゾンビでも居るのかと思うが、残念ながら肉親なんだ。

いや、待て。死んだ魚の様な目をして唸りながら徘徊しているから実はゾンビの可能性も・・・無いな。ゾンビならトイレしないもん。これはゾンビですか?いいえ、シルフです。


「なぁ、シルフ。漏れそうなら動き回らずに大人しくしてる方がいいんじゃないか?」


下手に動かしたら零れそうでなぁ・・・。そしてその場合は俺への被害もシャレにならんから止めて欲しい。


「立ち止まってたら意識しちゃうじゃない!ちょっとでも何かして気を紛らわせなきゃならないの!」

「アッハイ」


涙目のシルフに牙を剥いて威嚇された。

手負いの獣怖い・・・取って食われるかと思った。

仕方ない。シルフがウロウロしたいというのならさせておこう。とばっちりで被害を負いたくはないからなぁ。シルフの奇行をちょっと離れて眺めてる事にするか。一応片手に空の水筒を用意しつつ。


「う~・・・う~・・・」

「・・・」


「う~・・・う~・・・」

「・・・にゃ~」


「う~・・・」

「にゃ~・・・」


「う~」「にゃ~!」「う~」「にゃー!」


「遊びじゃないんだよ!!」

「いや、すまん。つい・・・」


暇を持て余していてな。やること無いんだもん。俺もシルフの後を付いて徘徊しようかな?


・・・どう見ても挑発してるようにしか見えんな。止めておこう。


「う~・・・何か・・・何か・・・ハッ!お姉ちゃん水魔法使えたよね!?ウォーターボールで洗い流せば・・・」

「薄まった液体が穴中に充満するから止めてくれ・・・」


被害拡大不可避である。

水洗をするなら水が流れる先が必要で、それがあるなら最初から苦労していない。


「じゃあ掘って!今すぐ穴を掘ってよお姉ちゃん!」

「・・・ダンジョンの壁や床が掘れないのはシルフも知ってるだろ?」


壁が掘れるんならシルフのバカ力で壁を斜め掘りして脱出するか、天井のシルフ返しをぶち抜いて登攀で脱出してるわ。


「くぅ~・・・くぅ~・・・!」

「あ、鳴き声が変わった」


万策尽きたのに地団太も踏めないシルフが涙目でプルプルしてる。

普段はじゃぎ倒して暴れまくってるシルフが大人しいのはなんか新鮮だわ~。

まぁ、それはさておき。そろそろ本当に限界っぽいから水筒を用意しておこう。


「ぐぎゃぁぁ!!」


「「!!?」」


シルフに水筒を届けようと腰を持ちあげた俺だが、直後に耳を打った鳴き声に反応して後ろに飛び、壁に背中をぶつけた。

ちっ、今の耳障りな雄たけびはゴブリンだな。ゴブリン自体の身体能力は俺よりもちょっと強い程度の雑魚だが、ゴブリンは武器を使う。

刃物を振り回せれたら危険なのは当然として、火のついた松明なんかも致命傷にはなりにくいが危ない。

そういう意味ではゴブリンはどれだけ強くなっても決して油断できない相手だ。


・・・まぁ、油断が死を招くのはゴブリンに限った話ではないが・・・


「シルフ。前衛を頼む。ゴブリンが落とし穴の中に入ってくるかは分からないが、入られた場合この近距離じゃ俺には対処しきれない・・・シルフ?」

「あ・・・あ・・・」


水筒を放り投げて杖を構えた俺が天井の穴を睨みつつシルフに声をかけたが意味のある答えは返ってこなかった。「返事が無い。ただのゾンビの様だ」状態のシルフへとチラリと視線を向けると、俺と同じ様に壁に背を付けたシルフが真っ青な顔で足の間に手を挟んで震えていた。


あ~、モンスターの声が聞こえたら距離を取るのは条件反射レベルで体に染みこまれてるからなぁ。

シルフも俺と同じ様に・・・いや、身体能力差的に俺以上の速度でバックステップして思いっきり背中を叩きつけた訳だ。絶対に壊れない超絶硬い壁に。


・・・うん。シルフさんや。もう諦めなされ。安全な状態ならシルフの痴態をニヤニヤ眺める余裕もあったけど、流石にモンスターが来てる時に戦えないとなると許容できない。


「ま、まだ大丈夫だよ・・・波が引くまで・・・待ってれば・・・まだ・・・」

「・・・まだ大丈夫って大抵の場合手遅れだよな・・・」


シルフへと向けていた視線を上へと向けると醜い緑の顔をしたモンスターとバッチリ目があった。

コ、コンニチワ~オレハオイシクナイヨ~


「グギャア!」

「ちぃっ!」


「おまえうまそうだな」って言う感じの目で俺を見下ろしていたゴブリンににっこりと笑いかけたらグギャアと嗤って飛び降りてきた。

飛び降りてくるのは予想出来ていたからギリギリ回避してシルフの近くへ転がり込む。ゴブリンの武器は棍棒か。刃物ほど恐ろしくは無いが頭を殴られればヤバイし、俺の杖でぶつかり合えば重量差で弾き飛ばされるのは杖の方だろう。

代わりに小回りは効かないからある程度近接戦に慣れてるならニアミスが起こりにくい相手ではあるんだが・・・


「ふ~・・・ふ~・・・」


肝心の近接戦要員がこの調子だからなぁ・・・

シルフもゴブリンを前にして片手でレイピアを構えてはいるものの、反対の手は太ももの間に挟まっていて、超絶内股になってスライムの様にプルプルしてる。


もう、このままシルフを蹴り飛ばして漏らさせようかとも一瞬考えたが、漏らしてる最中を襲われる方がヤバそうなのがなぁ・・・


「グギャア!」

「く・・・っそ!」


考え事をしている間にもゴブリンは棍棒を振り上げて迫ってくる。

俺の筋力じゃゴブリンを殺す事はまず出来ないので、頭の片隅でファイアーボールの詠唱をしつつ杖を構えてゴブリンの相手をする。

初級魔法のファイヤーボールならスキルと装備のブーストも有り、残り5秒もあれば詠唱が終わる。


・・・この状況での5秒が長いのか短いのかは判断が分かれるところではあるがな。


「グッ・・・ギャア!」

「っ!」


狭い穴の中で助走を付けつつ大きく振りかぶっての振り下ろし。非力な後衛の俺でも視認をして思考を出来る程のノロマな動きだが。俺の命を奪うには十分すぎる攻撃だ。

十分に勢いを付けた一撃を正面から受け止めるのはマズ過ぎる。防御に掲げた杖ごと叩き潰されかねん。

故に回避を選択したいんだが・・・


動きがおっそい!何のって当然俺の動きだ。ゴブリンの動きも冒険者的にはノロマもいいところで、この程度の動きなら100m先に居ても魔法で狙撃できる自信があるが、そのゴブリンよりも俺の動きの方が一回り遅い気がする。

身体能力で劣っているのならば頼れるのは技のみ。確かに俺は後衛だがずっと前衛で戦うシルフの様子を見てきたんだ。自分よりも地力の高い相手と戦うための術もいくつかは理解している。5秒耐えれば俺達の勝ちなんだ。それぐらい俺が稼いでみせる!

それに時間を稼ぐのはいいが・・・別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?


「グギャア!グギャア!」

「ひぃっ!きゃあっ!!」


・・・ブォン!ブォン!と景気よく棍棒を振り回すコブリンと頭を抱えて必死になって回避する俺の図である。

いやいや、無理だって!!いくら近くでシルフの戦闘を見ていたからって同じ事が出来る訳ないでしょーが!!

そもそものスペックも足りないし、経験も足りないし、ゴブリンと近距離で向かい合う胆力も足りないし、そして何より速さが足りない!!

よく考えたらシルフの動きって俺の動体視力じゃ捉えきれないしな。技術を盗むどころか視認出来てなかったわ。


「グギャアア!!」

「ひゃぁぁ~!」


ゴブリンが棍棒を振り上げる度に情けない悲鳴を上げた俺が地面を転がる。

本当なら一回無様に転がった時点でジ・エンドの筈なのだが、俺達を嬲り殺しにするつもりなのかなんなのかゴブリンは生まれたての子馬の様にプルプルしているシルフは完全無視して、転がった俺は起き上がるのを待ってくれているのでなんとか逃げられている。


ふわははは!ゴブリンめ。獲物を前に舌なめずりをするのは三流のする事なんだよ!その余裕の態度が命取りであったことを証明してやる!・・・だから後3秒このまま待っていてください。お願いします。


「グギャア!」

「ひぅっ!!」

「お姉ちゃん!」


しかしそんな幸運は長くは続かなかった。

じわじわと嬲り殺しにしたい割には嗜虐的というよりも困惑や戸惑いと言った様な表情をしていたゴブリンが、急に夢から覚めた様に”はっ!”としたと思ったら、今までの2割増しぐらいの速度で棍棒を振ってきて、奇跡的に防御に割り込ませられた杖ごと俺をぶっ飛ばし壁へと叩きつけられた。


ぶっ飛んだ衝撃で詠唱もキャンセルされ、頭がふらついて咄嗟に立ち上がるのも難しい。

滲む視界の中で大きく振りかぶった棍棒を崩れ落ちる俺の頭部へと振り下ろそうとするゴブリンの姿と、視界の端で四肢に力を込めてレイピアを繰り出そうとしているシルフが見えるが、やっぱり踏ん張りが効いて無いみたいでいつものキレが無い。シルフのレイピアがゴブリンの頭を刺し貫く事は確実だろうが、勢いを乗せて振り下ろされた棍棒はゴブリンが死んだ瞬間止まる訳では無い。

ゴブリンを止めるにはこの瞬間。振り上げた棍棒が俺へと狙いを定める前じゃないといけない。

だが、今。この瞬間にゴブリンを止められる奴なんて何処にも・・・


「きゅい!」


その日、俺とシルフの眼前に白い流星が落ちてきた。


もふもふ!

誤字脱字ありましたら感想の方へお願いします。


補足!

シルフが今回全然戦って無いのはゴブリンとユウの動きを観察してあれぐらいなら大丈夫だろうと判断したからで、ゴブが2体だったり最初から本気を出していたら助太刀してくれたはずです。

決して自分の尿意を優先したかったからではちょっとしかありません。たぶん。


では眠いので今日はこのへんで。

絶対絶命のピンチに飛び込んできた謎のウサ影。彼女は味方なのか、はたまた敵なのか!

それではまた。次回。さよなら。さよなら。さよなら。

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