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リュール&エルダ【外伝】伯爵家のお転婆娘

リュールの母=イフリーナ=伯爵令嬢 の、お話しです。

伯爵家の王都での屋敷は意外とこじんまりとしているが、他家から侮られる事は無い。

屋敷が小さめなのに反して、庭が充実しているからだ。


その庭を全力で駆け回る子供がいる。ドレスをたくしあげ、裸足で爆走する我が子を見つけた伯爵は溜息を零した。



「私の目が確かならば、私達の娘であるはずの伯爵令嬢イフリーナが庭で野生に還ろうとしているようなのだが」


傍らの妻に声をかけるが、妻はおっとりと笑っている。


「すっかり元気を取り戻してくれて、本当に良かったですわ。よほど、貴方の言葉が嬉しかったようで、ここ10日程ああして毎日一時間は外を走っておりますのよ」


「待て。私の言葉をどう解釈したらあのような野猿になるのだ」



1ヶ月前の伯爵家の末娘・イフリーナが食事も喉を通らぬ程に落胆し、緩やかに衰弱し始めていた。


箱入りの純粋培養で蝶よ花よと可愛がっていた末娘の、大事な婚約者が横取りされてしまったのだ。

7歳で婚約して、今年で10歳。子供同士の望んだ飯事ママゴトの婚約だったが、伯爵家は本人達がその気ならばそのまま結婚させても構わないと思っていたのだが。


伯爵令嬢・イフリーナの婚約者を公爵令嬢が気に入り、婚約者の家からの申し出があってイフリーナ達のママゴト婚約は解消されて終わった。


しくしくと声をあげずに泣いて伏せる愛娘の弱りゆく姿に、伯爵夫妻は言葉を尽くして毎日毎日慰めた。しかし、ご迷惑をかけます、捨て置きくださいませ、と愛娘は枯れた声で返すのみだった。



「イフリーナや、お前はまだ幼い。世界は広く、人は星の数よりも多いのだよ。数多の中の1人でしかない彼との別れだ、今は辛かろうとも泣き尽くしてしまいなさい」



ある日、既に起き上がる気力もないイフリーナの枕元で伯爵が静かに語ると末娘は目を見開いた。


「泣き…尽くす…?」


「そう。泣き尽くしなさい、悲しみを飲み込むのは大人になってからする事だ。たくさん泣いて、お腹が空いたら温かいスープを飲む所から始めよう」


父親の言葉を噛み締めるように繰り返して、イフリーナがコクリと頷いた。少し逡巡の後にヨロヨロと、起き上がって「お腹、空きました」と何日かぶりに自分から食べ物を求めた。


翌日も、父親は末娘の部屋を訪れる。片手には本。


「お前には立派な足があるね。歩くも走るも自由だ、望むままに進んだ先には出逢いがあるし、出逢った誰かに背を向けてまた歩いた先には新しい出逢いがあるだろう」


父親の言葉に衝撃を受けて、イフリーナは涙の引いた目を見開いた。手渡された本は、異国の物語や寓話を集めた物。デルロード国の、王都と領地のごく一部しか知らない少女は己の世界の狭さを知った。




すっかり食欲と体調が戻ったと思ったら、末娘は本の虫に。それで気が紛れるなら良い事だと本好きの伯爵は気にしなかったのだ。娘が『何の本を』読んでいたのかを。



そして、蝶よ花よと慈しみ掌中の玉として可愛がっていた愛娘は何がどうしてこうなったのか、立派な野生児になろうとしている。




「おとーさーまーーー」


ある日、帰宅した伯爵が見たのは木の上から呼ぶ愛娘。その日の晩餐は説教で終始されたが、妻と末娘の兄は和やかにその様子を見守るのみだった。




「お土産ですわ、お母様!これ、凄く綺麗だからお母様のプラチナの御髪に映えると思いましたの!」


いつ、どこへ出掛ければそんなに傷だらけになるのか。頭痛に耐えながらも帰宅したばかりの伯爵が末娘に問えば「ちょっと王城の森の外れまでお散歩してきましたわ」という頭痛が悪化する答えが返ってきた。


伯爵は先程、城で『王都の森の外れに人外の動きをするモノが出たそうだ』というホットなニュースを聞いている。




それから数年後。


「お父様、お母様、お土産の魔物の剥製ですわ!私が仕留めましたのよ!どうです、凄いでしょ~」


伯爵は気絶した。

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