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■番外編■マリリオン・噂の二人

生まれつき身体が弱く、生死の境を行き来しながらも15歳を迎える事かできたのはルゴール辺境伯領の孫として生まれたからだと、当人であるマリリオンは考える。


ルゴール家は家族の結束力が強固で、その気風を受けてか、領内全土での仲間意識も高い。故に、己のような役立たずでもこれまで当然のように大切に扱われてきたのだ。



祖父や父のように武に長けるのは、不可能に近い。ならばアルス伯父上のように、文に長ければ兄のエルディオンが当主として領地を治める際に僅かばかりでも役に立てるかもしれない。それまで、生きているかも分からない身だが一途にそうありたいと願ってきた。



「相変わらず熱心ですな、マリリオン殿」



アルス伯父から借りた書付と睨めっこしていたら、主治医のメレンガート先生に声を掛けられた。あれ、今日は診察日ではないはずだけど?


メレンガート先生はおじい様への私用で領主館を訪れ、ついでに僕の顔を見に来たという。

ここ最近は調子が良く、こうして昼間におばあ様の庭へ出ている事が増えたのを先生も喜んでくれる。


風邪には注意するように、と念押しはされてしまうけど。


それでも、去年の今頃はとっくに風邪をひいて寝込んでいたと思えば奇跡のようだ。



「マリリオン殿、面白い物を土産に差し上げよう」



いつになくご機嫌な医師から、飴を貰った。昔から、先生は時々こうして市井の菓子類を土産にくれる。


でも、この飴はいつもの気軽なお土産とは違うそうだ。


なんでも、秋口に我が領に来た『噂のお嬢さん達』の一人のお手製喉飴なのだとか。

その方の作った医薬品を、先生が直に確かめたところ『絶賛に値する』と判断して先程わざわざおじい様に報告しにきたらしい。



「噂では、僕より年下の女の子なんですよね?なのに、そんな素晴らしい才能と実力があるのですか…」



他人と比べて我が身は…と、嘆くのはやめた筈なのに。胸が苦しくなる。



「医薬品作りの実力はそれなりにあるが、才能はまだまだ発芽したばかり。この先どのように花開くかどうか、手元に置いて育てたいと願ったがヨシュアには渋られているがね」


おじい様が?そんな有能な方なのに?


「複雑で厄介な経緯で配流されたお嬢さん方だからな。非常に呑気で愉快な人柄だったから、私も気の毒な事情をつい忘れてしまっていたよ」


僕より年下で、噂では本当に可哀想な境遇の二人。なのに、呑気で愉快な人柄??


「マリリオン殿、ヨシュアに二人について尋ねてみると良い。将来、エルディオン殿の補佐になる上で物事の見方を学ぶ役に立つはずだ。それ以外でも、彼女達の人柄なり武勇伝を聞くだけでかなり面白い。私は思わずパンをじっと見てしまったよ…」


為政者としての観点での話は是非、聞きたい。でも、先生が言った『武勇伝』とは一体なんだろう。女の子二人なのに武勇伝??なんでパン??




父様やおじい様に話を聞けたのは、先生と話してから数日が経ってからの事。


お二人について聞くと、衝撃の嵐のような話の内容ばかりで僕の胸の苦しさは空の彼方まで吹き飛んでしまった。



「三日ほど前に正式に我が領に迎える決定をしたところだ。それに、マルスのお蔭で春からは街へ越して来るぞ」


「…あのお嬢さん方は一見、脳天気で自由気儘に見える。しかし、彼女達の底力と自分達で生きると決めて実行し続ける意志の強さと逞しさから学ぶものは多いと思う」



是非とも、会って話を聞いてみたい。強くそう願う。



領主館の敷地内しか知らない、狭い世界に住む僕だけど。まずは、街へ出歩けるくらいの体力をつけるところから頑張ろう。その為には、風邪なんてひいている暇はないや。


微かに喉の違和感を覚えて、先生に先日貰った『喉飴』を口にして驚いた。僕の知っている喉飴とは少し違った。今までにない、不思議な風味。



真冬の夜に温かな薬茶に蜂蜜を垂らして優しくクルクルかき混ぜて飲む時みたいな、柔らかな味。それに、咳が酷い時に背中を撫でてくれる母様の手みたいな安心感。


これを、作った人が『リュール』さん、なんだ………。



会ってみたい、会いたい。会おう。



僕の漲る決意に、喉飴は微かな喉の違和感ごとふわりと溶けて消えていった。



………その冬僕は生まれて初めて風邪もひかず、寝込む事もなく過ごす事ができた。健康な人からは普通の事でも、僕にしたら奇跡的だから母様とおばあ様は物凄く喜んでくれた。

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